※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

ムーディーズは1909年に「信用格付業者」として創業した会社だ。ムーディーズ・ジャパン株式会社は、その日本法人として1985年に設立された。現在のムーディーズは、資本市場に参加する企業や金融機関、並びに証券化取引等の信用力について独立した立場から意見を述べるムーディーズ・レーティングスの信用格付業を中心に、その兄弟会社であるムーディーズ・アナリティックスとともに市場参加者が投融資判断を下す際の重要なリサーチやリスク管理指標、データ、ツール等をグローバルに提供している。今回はムーディーズ・ジャパン株式会社代表取締役の清水直樹氏に、これまでの経緯や今後の展望などについて話をうかがった。

たとえ小さなことでも常識にとらわれずにチャレンジを続けてきた

ーームーディーズに入社し、日本法人代表に就任するまでの経緯を教えてください。

清水直樹:
私は大学を卒業したあと、金融機関での勤務や大学院留学を経て、2012年に兄弟会社にあたるムーディーズ・アナリティックスの日本法人(ムーディーズ・アナリティックス・ジャパン)に入社し、主にリスク管理ソリューションを提供する営業部門で勤務しました。その後、信用格付業を行うムーディーズ・ジャパンに異動し、2023年に代表取締役に就任し、現在に至ります。

ーーご自身が代表に抜擢されたご理由は何だと思いますか?

清水直樹:
私としては、特別なことは何もしていないと思っていますが、あえて一つ挙げるとすれば、ムーディーズのブランドを背負い、組織横断的なチームづくりに強いパッションを持っているので、そこに期待を寄せてもらったということでしょうか。

自分の仕事に対する信条として、先ず、大きな夢を持つこと、そして一つひとつの業務に対して、目に見えるアウトプットを過不足なく提供し続けること、さらに可能であれば、自分にしかできない「小さな手間」を加える習慣をつけるというのがあります。相手が欲しいと思うことを相手に代わり言語化してみるとか、反対意見等(反対されるだろうなという心算も含む)に対して一旦は相手を全面的に受け入れてみるとか、逆に相手にとって耳が痛いであろうことをちょっと勇気をもって指摘してみるなどです。

少し面倒だけれども僅かばかりの付加的な工夫を施す努力を続けることで、コミュニケーションが活性化され、良いチームづくりに貢献するものと考えています。

組織を強くする。グローバル企業の視点

ーー改めて、ご自身が考えるムーディーズ・ジャパンの強みについて教えてください。

清水直樹:
ムーディーズのグローバル各拠点で、伝統をブレなく貫くことに重きが置かれると同時に、常に成長を追求し変化していくことを強調する文化があります。

「型を破らず進化を遂げる」というのは相矛盾する命題と映るのが一般的ですが、これを全社的に追及・実現できていることが弊社グループの本質的かつ最大の強みだと思っています。信用格付業においては、絶え間なく変わるリスク要因や新しいテーマ(例:気候変動やトランジション・ファイナンス、デジタル・サイバーリスク、プライベート・クレジットなど)を取り入れながら、信用格付というアウトプットを一貫性をもって提供し続けていますし、グループ全体の事業ポートフォリオにおいては、信用格付業のみならず、幅広いリスク管理指標やデータ、ツール等を提供する態勢を拡大してきています。

市場には常に新しいリスクや個別の信用リスクイベントが待ち構えており、会社としては、先見性をもって常に適時・的確に情報発信していくことが求められ、社員各人が常にイノベーターであることが求められます。社内で働く人は大変ですね。でもそのような「伝統」と「成長」の二面性があるからこそやりがいを感じるのだと思います。

成長を続ける米国本社(ムーディーズ・コーポレーション)の株式を長年保有してくださっている投資家が多いのも、このカルチャーを支持してもらっているからと個人的には解釈しており、自分や多くの仲間がこの会社で働き続けていくことへの自信につながっています。

ーー日々、会社を経営する上で大切にしていることを教えてください。

清水直樹:
会社のオフィシャルなミッションやパーパスは弊社ウェブサイトに譲るとして、個人的に大切にしていることは、ムーディーズが擁する多様な国籍、文化や考え方に裏付けられた人材の「インクルージョン(包摂性)」です。チームが大切に育ててきた仕事の型を大切にしつつ、誰しもが業務や経営に積極的に参画し、自分らしさを発揮できる職場を目指しています。先に触れた会社としての「伝統」と「成長」の双方の追求と、働く人の仕事への向き合い方に対する期待値は本質的には同じですね。一見、多様で異なるものが、時には同質化を嫌い衝突しながらも、徐々に受け入れていくプロセスがインクルージョン(※)に基づく成長の本質だと考えています。時代は常に変化し続けているため、これまで通りの業務を繰り返しているだけではそのうちに時代に取り残されてしまいます。そうならないように「小さな変化を続けよう」と伝え続けることを大切にしています。

(※)インクルージョン:組織や社会において、多様な人々がそれぞれの個性や能力を活かし、尊重されながら共に働く、または社会参加する状態

「格付会社」という認知を飛び越え、「必要とされ続ける会社」を目指す

ーー社員の方たちとの接点の持ち方について注力していることを教えてください。

清水直樹:
現職に就いて以来、「Bring Your Own Lunch」セッションというカジュアルなランチ・セッションを続けています。通常の業務では自分が直に接することができないマネジャー職でない2〜3名のメンバーを自分のオフィスに呼んでカジュアルにお弁当を食べながらお話する機会を得ています。異なるチームメンバー間でワイワイガヤガヤ、仕事でのチャレンジや課題、パーソナルなことまで何でも話します。そこから次に注力すべきアイデアが出てくることもあり、有意義な場となっています。

もう一つの取り組みは「Leaders Bookshelf」と称するミニプロジェクトで、オフィスの一角に小さな本棚を用意して、ムーディーズのリーダーが選ぶ書籍を購入し、従業員が自由に手に取り、借り出すことができる仕組みをつくっています。本に手書きで書き込むこともオーケーです。国内外で活躍するリーダーの原動力となっている考え方の源泉や、皆が普段は考えてはいるけど口には出さないようなことまで垣間見えて、地道なチームビルディングに貢献しているのではないかと自負しています。

ーー今後はどのようなことに注力していく予定でしょうか。

清水直樹:
今に始まったことではありませんが、多様なリスク、想定を超えるネガティブなシナリオと向き合う現在の事業環境や市場環境においては、それらを解読する視座が必要です。データ・実績に基づく手法や独立した視点を世界に向けて同時発信し続けることがムーディーズの比類ないブランドであるとの自負と責任感を持ち、一層の認知度向上に努めたいと考えています。兄弟会社(ムーディーズ・アナリティックス)を含め、信用格付業の他にもさまざまな関連する事業を展開し、ムーディーズとしてのブランドを構築してきました。

今後とも、一層、ムーディーズの包括的な価値を知っていただけるよう努力していきたいと思っています。

また、本日お話ししたような弊社のミッションや文化に共感していただけるのならば、ぜひ、幅広い人材採用をしていきたいと考えていますので、ご興味を持っていただければ、これ以上に幸せなことはありません。いつまでも必要とされ、成長し続ける会社でありたいと考えています。

編集後記

アメリカを発祥として世界で投資家から信頼に頼られてきたムーディーズ。日本法人も設立40周年を迎え、格付会社として、ますます大きな信頼を得ている。しかし自身でもチャレンジを続けてきた清水代表は、現状の安定性に満足することなく、「新しいことに挑戦して成長したい」と前向きに語る姿勢が印象的だった。同社は今後、経済や市場がグローバルに依存し続ける限り、リスクに関連する広い分野でますます存在感を増していくことだろう。

清水直樹/東京大学卒業後、政府系金融機関にて政府開発援助業務に従事。その後、米国ジョンズ・ホプキンス大学院への留学、米系金融機関(証券化部門等)での勤務を経て、2012年、ムーディーズ・アナリティックス(セールス部門)に入社。2018年よりムーディーズ・レーティングスにて信用格付事業の営業部門ヘッドを務める。2023年7月、代表取締役に就任、現在に至る。役職員で構成されるインクルージョン・グループでの活動もけん引する。