※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

GSAという言葉を聞いたことがあるだろうか。General Sales Agentの略で、旅客業界に特化し、航空会社に代わって指定された国や地域でチケットの販売や予約、発券業務などを行う総販売代理店を指す。

今回は、ドイツ・ミュンヘンに本社を置き、世界中で100社以上の航空会社やホテルのGSA業務を請け負う、世界最大規模のGSA企業であるアビアレップス・グループの日本支社長、スティーヴン・コックス氏に、コロナショックを経た今の観光業界や今後の展望についてうかがった。

変化の激しい時代に柔軟な考え方を育むためのポリシー

ーーコックスさんが社長になるまでの歩みをお聞かせください。

スティーヴン・コックス:
私はカナダ出身で、日本市場で30年以上働いてきました。大学卒業時、キャリアカウンセラーから「最初の会社には最低3年は勤めること。ただし、5年以上在籍するとキャリア構築にはつながらない」とアドバイスを受け、日本に来ました。そのため、最初に就職した日本郵船にずっと勤め続けるのではなく、さまざまな業界で経験を積んできたのです。主にマーケティング専門職として働いてきましたが、外資系企業では自分の専門分野をアピールして入社することが多いです。

日本郵船の後、2社でコピーライティングと営業などの業務に従事していましたが、当時はまだ外国籍の人が日本企業で働くことが珍しかった時代でした。私が日本市場に慣れてきた頃に、さまざまな企業から声をかけていただく機会が増えました。

2011年には、グローバルマーケティング広告・PR会社のハヴァス ジャパン株式会社で初めて社長職を経験し、2022年にアビアレップスに入社するまで、さまざまな企業でキャリアを積んできました。

ーーさまざまな業界をあえて経験してきたのは、どんな理由からでしょうか。

スティーヴン・コックス:
私は、一つの業界に8〜10年従事した後、次の業界に移ることを自分のポリシーにしています。1990年代、ある企業で社員のほとんどが1社しか経験しておらず、他の会社の文化や仕事の進め方を知らないという状況に驚いたことがありました。

この経験から、変化の激しい時代には一つの考えに固執せず、さまざまな業界や企業で経験を積むことで、共通点や相違点を理解し、柔軟に対応できるようになると学びました。どの業界でも、消費者のニーズを満たすことだけでなく、自分の専門性を活かしてキャリアを形成することが重要だと考えています。

消費者ニーズの変化に応じた新たな価値創造

ーーアビアレップスの事業について、詳しく教えていただけますか。

スティーヴン・コックス:
弊社の役割は、外国の企業と日本市場の架け橋となることだと思っています。

アビアレップス株式会社は、1999年に観光業界に特化した広報サービスを提供するPR代理店としてスタートしました。当初は航空会社やホテルのためのPR活動を主に行っていましたが、現在はPRだけでなく、海外における国や自治体の観光局や航空会社の日本事務所を代行し、日本国内でのマーケティング、営業、広報を全面的に担当しています。

ーーこれから特に力を入れていきたいことは何ですか?

スティーヴン・コックス:
今後は新しいサービスの開発に力を入れていきたいと考えています。これまでさまざまな業界で経験を積んできましたが、業界が異なっても「人」「商品」「市場」が大きな共通点として存在しています。過去20年間、市場の変化や消費者のニーズの変化を肌で感じ、業界が激しく変化する中で生き残るためには、新しいサービスの開発が不可欠だと実感しています。

そのためには、常に消費者の動きを観察することが重要です。消費者は企業よりも早く需要を察知します。消費者の動きを見ながら、次の展開を考えることが企業の成功につながると考えています。

具体的には、弊社はこれまでインバウンドよりも、日本人が海外に旅行に行くアウトバウンドに注力してきましたが、コロナの影響で旅行ニーズが海外から国内に変わるなど、消費者のニーズが変化しています。また、長期間滞在して深く文化に触れたいというニーズも増えてきました。

旅行先の情報を得る手段もSNSに変わりつつある今、弊社の次の目標は、お客様が旅行先に求めるコンテンツの作成だと考えています。

コロナショック後の観光業界が求める人材

ーー観光業界で今後必要とされる人材像について、コックス社長のご意見をお聞かせください。

スティーヴン・コックス:
「旅行好き」「ホスピタリティ精神」「仕事への熱意」がある人材が求められます。旅行が好きであることはもちろんですが、ホスピタリティ精神を持ち、お客様の人生とビジネスの双方を考えられる力が必要です。また、ミスなく迅速にお客様に満足していただけるよう、完璧を追求する姿勢も重要です。

極端な話ですが、この3つの要素が備わっていれば、どの業界でも活躍できると思います。

旅行業界は小さなコミュニティですが、私たちはその分野に留まらず、視野を広げていきたいと考えています。そのため、先に述べた3つの要素を重視しつつ、業界にこだわらず幅広く採用を進めていきたいと思います。

ーーアビアレップスに入社する上で、特に必要な能力や経験は何でしょうか。

スティーヴン・コックス:
営業職に配属されるかどうかにかかわらず、営業の経験があることは大きな強みです。営業職の方は、気遣いや心配りなどのホスピタリティ精神が身に付いていることが多いためです。また、広告やマーケティング、サービス業界での経験がある方も、感覚が近いので適応しやすいと思います。

外資系企業では、仕事をしながら自分の意見をしっかり言えることも大事です。弊社ではトップダウンではなく、チームで協力し合って仕事を進めるので、自分の意見を持ち、表現できることが求められます。それによりチームの働きも強化されると考えています。

英語力はあるに越したことはありませんが、弊社では日常の業務で問われることは意外に少ないと思います。レポートを英語で書くことはありますが、日々のお客様とのやりとりは日本語が多いです。したがって、語学力よりもスキルセットやマインドセットが重要です。新しいことに挑戦する意欲を持った方の応募をお待ちしています。

編集後記

コロナ後、日本人の海外旅行者数が激減して以来、多少の戻りはあるもののコロナ前の勢いには及ばない。しかし、これをマイナスと捉えるのではなく、むしろ国内旅行の需要が増えていることをチャンスと捉え、SNSを活用した正確な情報発信やコンテンツ制作に注力するコックス社長。多様な業界での経験を活かしたリーダーシップとマーケティング力が、日本の観光業界に新たな視点をもたらすだろう。これからの展開に大いに期待したい。

スティーヴン・コックス/1990年代に日本郵船株式会社で日本でのキャリアをスタート。その後、Havas Groupの日本・韓国地区で副会長および、ハヴァス ジャパン株式会社のCEOを務めた。また、マッキャン・ワールドグループ傘下のMcCann/MRM日本支社で最高戦略責任者を務めるなど、グローバル企業でリーダーのポジションを歴任。2022年、アビアレップス株式会社日本支社長に就任。