※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

累計売上370万台を突破した加湿器の「SHIZUKU(しずく)シリーズ」や、レトルト調理器「レトルト亭」など、数々のおしゃれで便利な家電製品を生み出してきた株式会社アピックスインターナショナル。持ち運びやすさを意識したアロマ空気清浄器「PUTT」(※生産終了)は、2010年度のグッドデザイン賞を受賞している。

また、自身のデザイナーから経営者になったエピソードや数々のヒット製品を生み出す秘訣などについて、代表取締役社長の田中智浩氏にうかがった。

製品デザインを手がけるデザイナーから経営者へ。

ーーまずは入社から社長就任までの経歴についてお聞かせください。

田中智浩:
私は美術系の大学で、グラフィックデザインを専攻していました。そのため就職活動では、平面デザインの仕事を探していました。そうした中、自社の製品などのデザインを行うインハウスデザイナーを募集している商社の求人を見つけ、興味を持ったのがきっかけです。

入社当初は、製品パッケージや販促用チラシ、パンフレットの制作を担当していました。それから、プロダクトデザインやプロデュース業も任されるようになり、2004年10月の合併による社名変更時には、弊社で現在でも使っている企業ロゴのデザインを手がけました。

そして2024年、前任者が勇退することもあり、創業メンバーの1人である私が抜擢され、社長に就任しました。

ーーさまざまな製品開発に関わってきた中で、特に印象に残っている製品を教えていただけますか。

田中智浩:
弊社の看板製品となった「SHIZUKUシリーズ」の加湿器です。当時の家電製品は直方体で白黒のものが一般的でしたが、まるで業務用のようなデザインの加湿器を見て、自分の部屋に置きたいと思えませんでした。そこで、水滴をモチーフにした丸みのあるデザインで、部屋の差し色になる加湿器をつくろうと思い付きました。

これならば部屋のインテリアとしても使えるのではないかと考えたのです。また、アロマを入れるトレイを付け、ディフューザーとしても使えるようにしました。

初年度の販売数は5,000台程度でしたが、2年目、3年目と徐々に売上を伸ばし、現在では年間約10万台以上を販売するヒット製品となりました。

独自のカラーを出すきっかけとなった過去の挫折

ーーこれまでのなかで苦労したエピソードをお聞かせください。

田中智浩:
SHIZUKUシリーズを発売した最初の頃は丸みのあるデザインやカラーの豊富さが評判となり、順調に売上を伸ばしていました。しかし、同じような製品が市場に出回るようになると、他社との差別化が難しくなっていったのです。

そこで、営業からの意見を聞き、消費者の好みに左右されない白や黒のデザインにしました。ところが、他社の製品に埋もれてしまい、かえって売上は下がってしまいました。この失敗を経て、いかに在庫を減らすかではなく、お客様の視点に立った製品づくりの重要性を実感しましたね。

それ以降は営業部門とのコミュニケーションを密にし、製品のコンセプトを共有するようになりました。そして、なぜこの形状にしたのか、このカラーを採用した理由などを取引先にプレゼンしてもらい、弊社の製品価値が伝わるようにしています。

中小企業ならではの個性を活かした製品づくり。電気を使わない家電ブランドの立ち上げ

ーー改めて貴社の事業内容について教えてください。

田中智浩:
弊社は家電メーカーとして、製品の企画や開発、販売を行っています。季節製品では夏は扇風機やサーキュレーター、ハンディファン、冬は電気ヒーターや加湿器が中心です。通年製品では、掃除機や調理家電などを展開しています。

弊社の特徴は、大手メーカーとは異なる独自の視点を持った製品開発を行っている点です。その一例が、メンズグルーミング製品の「BEAUM(ビューム)シリーズ」です。美容意識の高まりを受け、自宅でセルフケアをする男性向けのボディシェーバーやツーブロックトリマーなどを展開しています。

ーー新ブランド「ENEMATE(エネメイト)」についてお聞かせいただけますか。

田中智浩:
これは「もっとシンプルで環境に優しい暮らし方」という考えから生まれたブランドです。その中のひとつが、ソーラー発電パネルを搭載した扇風機「ソーラーパワーリビングファン」です。

太陽光で発電できるため、電気が通っていない屋外でもファンを稼働でき、USBでスマホの充電も行えます。なお、製品開発にかかる費用を捻出するため、クラウドファンディングを行い、多くの方にご支援いただきました。

これは省エネにつながるだけでなく、災害時に電気が使えなくなった際に役立ちます。これからはさらに地球に配慮し、人々の助けになる製品づくりを続け、社会に貢献していきます。

多くの人に求められる製品を生み出す秘訣。EC販売や海外進出でさらなる販路を開拓

ーー製品開発において意識していることは何ですか。

田中智浩:
私が子どもの頃は家電それ自体が憧れのものでしたが、今では手軽に買えるようになり、巷にあふれかえっています。そのため消費者に「この製品が欲しい」と思ってもらえるよう、顕在化していないニーズを汲み取っていくことが大切だと考えています。

先述の「BEAUMシリーズ」のように、これまで必要性を感じていなかった層に対し、社会の意識変化に対応した提案型の製品づくりを心がけています。

製品開発にあたっては、チャットアプリで専用グループをつくり、若手社員を含め、デザイナーや事務職の社員からもアイデアを募集しています。その中で品質管理課のベテラン社員のアイデアから実現した製品が、大阪を拠点とする企業だからこそ共感を得ることができた「感動!たこ焼きマイスター」です。

これまでの家庭用の電気たこ焼き器の不満点を解消したいという想いから始まり、本気でこだわり抜いて開発を進めてきました。焼きムラを抑え、火力アップで時短を実現しつつ、革新的な焼き方で誰でも簡単、返し技いらずを実現。大阪名物のたこ焼きをご家庭で感動していただける製品をつくり出しました。

ーー最後に今後の注力テーマを教えてください。

田中智浩:
現在は売上の9割以上がBtoBですが、今後はEC事業を拡大したいと考えています。そして、ECサイトやSNSでお客様からいただいたコメントをもとに、製品開発に活かしていきたいですね。そのために、現在は広報とマーケティングを強化しています。

また、日本と食文化が近い、中国や台湾などのアジア圏への進出にも力を入れており、現地で使われているSNSで生配信をしています。このようにSNSで集客し、ECサイトへ誘導する販促活動を進めているところです。これからも品質の高さや機能性、デザイン性をアピールし、海外での販売も強化していきます。

編集後記

デザイナーとして入社した後、数々の製品開発に携わり、経営者となった田中社長。デザイナーとしてのセンスを活かし、これまでの家電のイメージを覆す製品を生み出してきた。アピックスインターナショナルは、これからも人々が日常で感じる不満を解消し、「これがあって良かった」と思う製品を提供し続けることだろう。

田中智浩/1977年生まれ。愛知県内にある美術大学を卒業。2000年に現アピックスインターナショナルに入社。商品開発部長を経て、2024年に代表取締役社長に就任。現在も商品開発の陣頭指揮をとっている。