
中古車販売業界は成熟産業といわれる中で、新しい販売手法で急成長を遂げている企業がある。愛知県津島市に本社を構えるCase株式会社は、創業から15年で売上を110倍に拡大させ、2029年のIPO(新規上場)を見据えている。代表取締役である神田巳希和氏が描く経営戦略と、その根底にある哲学に迫る。
自動車の仕入れから納車まで圧倒的なスピードを実現
ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。
神田巳希和:
幼いときはサッカー選手、高校になるとDJを志したこともありましたが、中途半端のまま断念しました。その後、しばらくは家業を手伝っていましたが、20人いた従業員が3〜4人にまで減り、経営の厳しさを学びました。
どうにかしたいと思っていた矢先、友人が働いていた車屋に1年間勤めた経験が現在の仕事につながっています。車は日常生活に必要なものであり、取り組み方次第で軌道に乗せることができるという直感が働きました。2010年に親の会社に自動車販売部門を立ち上げたのです。
ーー貴社の主要事業と注力した点について教えてください。
神田巳希和:
弊社の主要事業である中古車販売事業では、「回転率の高さ」と「内製化」に注力しました。一般的に車を選ぶ場合、同じ年式・走行距離・仕様の車と比較します。そのため、最も費用対効果が高いと判断される車を、スピーディーに市場に投入することが差別化の鍵となります。
通常、東京で車両を仕入れると、整備・輸送・納車まで4日を要します。しかし、弊社ではすべての工程を内製化し、1日で完結させることが可能です。短期間で資金を回収し、即座に次の仕入れへ移行できるため、高い回転率が実現できます。
内製化においても、すべての工程で高品質を追求しています。特に整備では、外装・内装の点検、装備品の動作確認、試運転時の異音チェックなど、約100項目の検査を自社工場で徹底しています。外注コストを削減しつつ品質を維持できるため、利益率の向上につながっています。
こうした一連の取り組みを通じて弊社の影響力も高まり、仕入れ先との交渉力の強化にもつながっています。創業当初は約6000万円だった売上も、今年度は66億円の着地を見込んでいます。
24時間の買取ライブ配信で成果を生んだ大胆な戦略

ーーこれまでの事業運営で得た信念やお考えをお聞かせください。
神田巳希和:
私は、「誰もやっていないことに挑戦する」ことを重視しています。たとえば、TikTokで全国から車を買い取る24時間のライブ配信を導入していますが、これは日本で弊社だけの取り組みです。ライブ配信は「販売ではなく買取に特化」している点が特徴です。まずお客様に利益を提供し、信頼関係を築いた上で販売につなげる構造になっています。ある配信では1回で約5000万円規模の成約額を記録しました。こうしたエンターテイメント性を持ったライブ配信という取り組みも、従来の業界に対する挑戦だと考えています。
常識や既存の構造に縛られずに、事業を再設計するという姿勢は、弊社が持続的に成長するための推進力になっています。
ーー今後の展望や戦略について教えてください。
神田巳希和:
弊社では、2029年に向けてIPO(新規上場)と売上250億円達成を目標にし、その先には世界進出も見据えています。中古車を輸出する際には船舶も自社で保有する必要があると判断し、タンカー船の購入も検討しているところです。私自身は、55歳での引退を決めているため、残りは15年。船の発注から完成まで7年から10年を要することを考慮し、限られた時間を全力で取り組みます。
IT事業にも経営資源を集中させ、回転率を高めるノウハウとAIを組み合わせた業務システムを開発中です。将来的には同業他社にも提供し、単なる競合ではなく頼られる存在として、ともに歩む関係を築くことを志しています。システム開発担当者にも最低1年半は営業経験を積んでもらう制度を導入し、現場のニーズや課題、顧客視点を養う体制を整えました。その経験をもとに、真に役立つシステムの構築を目指します。
本気で挑む姿勢と行動力を礎にナンバーワンを狙う
ーー採用や人材育成についてのお考えをお聞かせください。
神田巳希和:
弊社では、全員が中途採用です。情熱ある夢を語り、興味を持ってくれた方に「一緒にやりませんか」と声をかけています。給与などの待遇面についても率直にお話しし、メンバー全員が会社の売上向上が自分の給与アップにつながると理解しています。
過去14年は採用に波があり、組織は3回ほど入れ替わりました。これまでの経験の積み重ねでようやく優秀な人材が集まり、安定した組織と互いが支え合う健全な職場文化を築くことができました。
従業員に求めるのは、経営理論にとらわれすぎないことです。※PDCAは大切ですが、P(計画)で立ち止まらないよう、まずD(実行)を行い、C(評価)、A(改善)を重ねていきます。「計画ばかり考えてしまい動けなくなる人」より、「まず動き、改善しながら柔軟に前進する人」が、チームに不可欠な存在だと考えています。
※PDCA‥‥Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことで、業務を継続的に改善していくフレームワーク
ーー最後に、若い世代に向けたメッセージをお願いします。
神田巳希和:
土俵に上がった以上は、大企業が相手でも負けられません。挑戦するなら勝負の姿勢を大切にし、ナンバーワンを目指しましょう。本気で臨まなければ、結局は見栄やプライドにとらわれ、自分の成長も限られてしまいます。本気で「勝ちたい」と動き続ける方とともに、挑戦したいと考えています。
編集後記
回転率の高さと内製化、そしてTikTokのライブ配信による買取手法は、中古車販売業全体に大きなインパクトを与えた。創業15年で売上を110倍に拡大した原動力には、大胆な発想と圧倒的な実行力、勝つための緻密な構造が見事に融合している。同社はこれからも既存の枠を飛び越え、さらなる高みへと挑み続けるだろう。

神田巳希和/高校中退後、実家の肥料販売会社に勤務。2010年に自動車販売事業を立ち上げ以降、回転率の高さと内製化を武器に事業を拡大。今期は年商66億円の着地を予定し、2029年のIPOを目指す。