
製造業における上流工程のDXを推進する株式会社SUPWAT。同社が開発・提供するプラットフォーム「WALL」は、企業が持つデータとAIをかけ合わせることで、ものづくりの効率化と高速化、形式知化を実現している。機械工学の専門知識と先端技術を融合させたアプローチで事業を展開する同社代表取締役CEOの横山卓矢氏に話をうかがった。
機械を使う人々の課題解決を志して歩んだキャリア
ーー横山社長のこれまでの経歴を教えてください。
横山卓矢:
私は大学院を修了した後、JXTGエネルギー株式会社(現:ENEOS株式会社)に入社し、自動車メーカーなどに対して技術営業を行っていました。大学や大学院では機械工学を学びましたが、機械そのものよりもそれを使う人々の課題解決にかかわりたいと考えたことがJXTGエネルギーに入社した理由です。
その後、新しい技術領域に挑戦したいと考え、株式会社メルカリに転職しました。機械学習やAIの技術を学ぶには、そうした分野を扱う企業に飛び込むのが近道だろうと思ったのです。メルカリでは主に二次元バーコード決済の加盟店開拓全般に携わり、スタートアップにおける事業拡大の経験を積みました。
ーー現在の事業のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
横山卓矢:
もともと大学院時代から起業を考えていたため、メルカリに所属しながら大学の教授に話を聞きに行ったり、大田区の町工場を訪問したりして、事業の方向性を探っていきました。その中で興味深かったのは、多くの町工場で「困っていることはない」という回答が返ってきたことです。
これは課題自体が顕在化していないという重要な発見でした。そうしてこの現状に対してどのようにアプローチすればいいのかを考え抜いたことが、現在の事業につながっています。
ものづくりの根幹を支えるAIプラットフォーム

ーー貴社の事業内容について教えてください。
横山卓矢:
弊社は、ものづくりの効率化と高速化、形式知化を高めるためのプラットフォーム「WALL」を提供しています。製造業には「エンジニアリングチェーン」と呼ばれる、製品が実際につくられる前の企画や研究開発、設計などの一連の流れがあるのですが、この部分に特化して支援を行い、ものづくりの根幹部分をより良くすることで製造業全体の競争力向上に貢献しています。
たとえば、これまで経験や勘に頼っていた部分を形式知化して再現性を高めたり、AIを活用して設計の選択肢を増やしたりしています。「WALL」であれば、社内に機械学習エンジニアがいない会社でも、簡単に利用していただくことができます。
ーー貴社の強みはどういった点でしょうか?
横山卓矢:
ものづくりに特化して、再現性と効率化を推進している会社というのはあまり多くありません。そうした意味で、まず存在の独自性が高いことが強みだと考えています。また、弊社のメンバーは基本的に機械系の知識が豊富な人材で構成されているため、お客様の意図を汲み取って課題解決に貢献できることも強みです。ものづくりの本質を理解した上での提案をできることが、多くのお客様から評価されている点だと思っています。
世界を視野に入れた製造業DXの次なる挑戦
ーーどのような人材を求めていますか?
横山卓矢:
チャレンジングな環境に抵抗がなく、そういった環境で活躍したいという方を求めています。特に製造業の経験がある方や、現場の課題を解決したいという熱い思いを持った方に入っていただきたいです。
また、今後組織を成長させていく中では、オペレーションを整備したり、プロダクトを統括したりする役割を担える人材も重要になっていくでしょう。さまざまなポジションでの採用を考えているので、弊社のミッションやビジョン、そしてバリューに共感してくれる方とお会いできれば嬉しく思います。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
横山卓矢:
グローバル展開を積極的に進めていきたいと考えており、まずは北米やEUの市場に向けて、弊社のソリューションを提供していく予定です。また、エンジニアリングチェーンだけではなく、いわゆる物流や販売などを含むサプライチェーンの方向にも進出していきたいと思っています。
日本国内でも、最終的には自社で工場を持ち、ハードとソフトの両面からものづくりの最適化を支援できるような体制をつくりたいと考えているところです。
今後、テクノロジーの進化とともに、製造業はこれまで以上に創造的で付加価値の高い産業へと変わっていくことでしょう。私たちはその変革の最前線に立ち、新しいものづくりの形を世界に提示していきたいと考えています。
編集後記
町工場の訪問から「顕在化していない課題」を見出す、横山CEOの洞察力に感銘を受けた。表面的なデジタル化ではなく、ものづくりの本質ともいえる上流工程にフォーカスしたアプローチは、製造業DXの新たな方向性を示している。機械への理解と人間への共感を併せ持つ技術者だからこそ描ける未来図があるのだと、この取材を通じて確信した。

横山卓矢/北海道大学工学部機械知能工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻修士課程修了。大学院終了後、JXTGエネルギー株式会社(現:ENEOS株式会社)にて潤滑油の技術営業を経て、自動車メーカー向けOEM製品の研究開発に従事。その後、株式会社メルカリに入社し、二次元バーコード決済の加盟店開拓全般に関する業務に従事。2019年に株式会社SUPWATを創業し、代表取締役CEOへ就任。