※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

レンタルビデオ店のフランチャイズ運営を祖業としながら、時代の変化を捉え、トレーディングカード専門店「バトロコ」を全国展開する主力事業へと成長させた株式会社Vidaway。スマートフォンの台頭や動画や音楽のサブスクリプションサービスの普及により、レンタルビデオ事業は縮小を続けているが、同社は新たな事業の柱をゼロから創出することで乗り越えてきた。この変革を現場の最前線で主導し、代表取締役社長へ就任したのが植竹卓巳氏である。一社員としてキャリアを歩み始め、いかにして危機を乗り越え事業転換を成功させたのか。その軌跡と、リアルな場の価値を追求する経営哲学に迫る。

大手から得た学びと独自性を追求する組織改革

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。

植竹卓巳:
大学卒業後、エンターテイメント事業に惹かれ、当時レンタルビデオを専門に扱っていた株式会社Vidawayの前身であるサンレジャーへ入社しました。入社後は一スタッフとしてキャリアをスタートし、9か月で店長に昇進しました。その後4店舗で店長を経験したのち、会社がTSUTAYAのフランチャイズに加盟したことを機に、カルチュア・コンビニエンス・クラブへ出向する機会を得ました。

バイヤーやスーパーバイザーとして3年間勤務し、大手ならではの運営手法に触れ、それまでの私たちとのレベルの違いを痛感しました。データに基づく緻密な発注システムや、計画書通りに陳列棚をつくれば売上につながる仕組みなど、学ぶことは非常に多かったです。商品調達力も圧倒的で、実際にTSUTAYAフランチャイズへの加入後は売上が拡大しました。

ーー出向から戻られて、どのような改革に着手されたのでしょうか。

植竹卓巳:
TSUTAYAの仕組みを活用しつつ、自社ならではの価値をどう付加するかを考えました。まず注力したのは、顧客満足度を高めるための「QSC(クオリティ・サービス・クレンリネス)」の向上です。加えて、TSUTAYAのパッケージにはない、地域の作家が手がけるハンドメイド品などを導入し、「あのTSUTAYAは少し違う」という独自性を追求しました。

会社の未来を背負う覚悟とゼロから築いたコミュニティ

ーー新たな事業の柱を模索されるようになった背景を教えてください。

植竹卓巳:
スマートフォンの登場で、お客様の余暇の過ごし方がレンタルビデオからYouTubeなどへ一気にシフトしたことが大きな要因です。レンタル事業の売上は毎年少しずつ下がり続け、このままではいけないという危機感を抱いていました。この事業の将来性に限界を感じ、代替事業の必要性を考えていました。そして、レンタルビデオに代わるアイテムを模索する中、目をつけたのがトレーディングカードです。

ーートレーディングカード事業はどのようにして軌道に乗ったのですか。

植竹卓巳:
初めは店舗の地下にある3坪ほどの空間で、細々と販売していました。これを本格的に事業化しようと、専門企業の支援を受けながら売り場を20坪に広げたところ、月の売上が約10万円から200万円まで伸びたのです。これに手応えを感じ、無料で遊べる対戦スペースを設けたことが転機となりました。無料の場が口コミで人を集め、大会を開けばさらに人が集まります。そして、対戦で負けた方が強いカードを購入するという好循環が生まれたのです。

TSUTAYAの定石通りに運営していただけでは、会社は存続できなかったでしょう。「バトロコ」は、閉店を余儀なくされるTSUTAYA店舗で働いていたスタッフの雇用を守る受け皿としての役割も果たしました。この10年で、会社の事業の柱は完全に逆転したのです。

ーー社長に就任された経緯をお聞かせください。

植竹卓巳:
当初は、社長に就任する意思は全くありませんでした。私自身、店舗開発の仕事にやりがいを感じていましたし、経営の責任は重いため、一度はお断りしたのです。しかし、「この会社に社会人として育ててもらった」という強い思いがありました。何か恩返しができればという気持ちで、社長の職を引き受ける決心をしました。

ネット時代におけるリアルな場の価値と熱狂を生む仕掛け

ーー現在の主力事業の強みは何でしょうか。

植竹卓巳:
弊社の主力事業「バトロコ」は、インターネットに負けない、リアルな店舗ならではの価値を提供できている点です。お客様がそこに集い、顔を合わせて対戦するコミュニティとしての場を何よりも大切にしています。そのために、定休日以外は毎日、年間を通して何かしらの大会を企画しています。大きな大会から小規模なものまで、常に人が集まる仕掛けをつくっています。

ーー企業としてどのような思いを大切にされていますか。

植竹卓巳:
弊社は「私たちと関わる全ての人の生活を豊かにし日々に彩りをに彩りを届け続ける」という理念を掲げています。もともとは違う言葉でしたが、事業内容の変化に合わせ、店舗の若手社員を交えたプロジェクトで議論を重ねて現在の形にしました。私たちが扱う商品やサービスを通じて、お客様の人生を豊かにしたいという思いを込めています。

日本一を見据えた組織の進化と次なる飛躍

ーー5年後、10年後を見据えた今後のビジョンについてお聞かせください。

植竹卓巳:
TSUTAYA事業はなくすつもりはなく、時代に合った形に改善しながら継続します。そして「バトロコ」は、出店を重ねて「日本一のトレーディングカード専門店」を目指します。昨年、市場の変化で利益が落ち込む事態も経験したため、今は新規出店を止め、既存店の足場固めに徹しています。この基盤が固まれば、いずれは全国100店舗展開を実現したいと考えています。

ーー事業拡大に向け、どのような人材を求めていますか。

植竹卓巳:
以前はトレーディングカードの知識がある方を求めていましたが、現在は採用方針が変わりました。今はカードの知識がなくても、素直な方を採用したいと考えています。また、私たちはリアル店舗に注力してきた分、ネット販売が非常に弱いのが課題です。今後はネット販売サイトを立ち上げ、グローバルに商品を届けられる体制を築きたいので、その分野に詳しい方にもぜひ仲間になっていただきたいです。

「バトロコ」はゼロから創り上げた事業なので、年功序列は一切ありません。チャレンジ精神のある方には権限を委譲しますし、失敗を恐れずに挑戦し、成果を出せばそれが正当に評価される文化です。

次世代へ繋ぐ想い 社員が誇りを持てる組織づくり

ーー最後に、植竹社長がこの会社で働き続ける理由は何でしょうか。

植竹卓巳:
「扱っている商品が昔から大好きだった」というわけではありません。私がこの会社の魅力だと感じるのは、全国の店舗を巡る中で、本来なら出会えなかったはずの多様な仲間たちと出会えたことです。年齢も性別も違う仲間たちが、地域のお客様に喜んでいただくという同じ目標に向かって一緒に働ける。それが何より面白いと感じています。自分の子どもに「お父さん(お母さん)の職場は楽しいのよ」と胸を張って語れるような会社であり続けたい。それが私の願いです。

編集後記

レンタルビデオという祖業が窮地にありながら、時代の変化を鋭敏に察知し、トレーディングカード専門店という新たな活路を見いだした植竹氏。その手腕は、既存事業の縮小という厳しい現実から目を背けず、常に次の一手を模索し続けた先見性と実行力の賜物である。特に印象的なのは、無料の対戦スペースという「利益にならない場」からコミュニティを育み、巨大な収益事業へと転換させた逆転の発想だ。リアルな場の価値が再評価される今、同社の挑戦は多くの示唆を与える。日本一を目指す挑戦は、まだ始まったばかりである。

植竹卓巳/1977年3月5日生まれ。大学卒業後、2001年、レンタルショップチェーンを運営する株式会社サンレジャーに入社。レンタルビデオ店「サンホームビデオ」にてスタッフとして勤務し、店長を経て商品調達のバイヤーへ。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社へ出向後は、スーパーバイザーを経験し、関東の支社長を歴任。その後、本部長、常務、社長に就任する。スマホの出現によりレンタル業界が低迷する中、レンタルビデオに代わるアイテムを模索し、トレーディングカードへと事業を移行。現在、トレーディングカードゲーム店「バトロコ」チェーンを北海道・関東に展開する。