奈良トヨタ株式会社は、車の販売を中心に行い、奈良の地域に密着し貢献してきた自動車販売企業だ。今までクラウン、ランドクルーザーなどのトップブランドを扱い、現在はトヨタ車全車種を取り扱っている。
またオールジェンダートイレを店舗に導入するといった時代に合わせた最先端な取り組みも精力的に行っている。
今回は菊池攻氏に、代表取締役社長に就任するまでの経緯や、就任後の苦労、企業の強み、人材育成などについて、話をうかがった。
奈良県特化の老舗自動車販売企業の代表取締役に就任するまで
ーー貴社の代表取締役に就任するまでの経緯を教えてください。
菊池攻:
弊社は先代が私の父親であるオーナー企業です。大学卒業後に弊社に入社し、最初はメーカーのトヨタ自動車株式会社へ入社しました。主に国内営業関係の様々な部署を担当し3年働いた後、さらに経験を積むためお客様からの信頼をより多く集めていた岐阜トヨタ自動車株式会社へ入社することになりました。
そこではセールスマンがそれぞれ自分のテリトリーを決め、そのエリアで販売を行う営業手法をとり、私にとって他の会社の販売方法を学ぶ良い機会になりました。
岐阜トヨタにはもともと2年程いる予定だったのですが、先代の体調が悪くなってしまったことがきっかけで1年半に短縮し弊社へ戻ることになりました。
私が代表取締役社長に就任するまでの準備を一刻も早く進めなければいけなかったので、企画部長として会社に戻り、その後取締役を経て1992年に弊社の代表取締役社長に就任することになりました。
ーー苦難はどのようにして乗り越えましたか?
菊池攻:
まずは自分が社長として「器の大きい人間になることが必要だ」と思い、人脈を広げる中でそれを実現しようと行動しました。奈良県内で全国的にも知名度が高くリスペクトされているのは神社仏閣です。そこにいる方々は、全国的なレベルの高い人脈を持っていたため、私もできるだけ多く交流するようにしました。
たとえば、とある寺の僧侶の方の仏跡巡拝に同行した際に、世界のさまざまな人の価値観にふれる機会があり、そのおかげで視野が広がりました。その経験から、会社内でも社員それぞれの多様な価値観を理解できるようになり、個々人にあわせた人材育成や適材適所の人員配置ができるようになったのです。
フェアな人事制度をつくることもでき、社内の体制・環境の改善にもつなげられました。努力が実って50周年を迎えた年に、弊社はトヨタ自動車の販売店表彰で準総合表彰をとることができました。
地域社会に貢献し続ける健康経営会社
ーー貴社の強みを教えてください。
菊池攻:
主に2つあります。1つ目は、地域密着型の事業展開を行っていることです。弊社は「すべてのご縁を活かして地域社会に貢献する」という企業理念を掲げ、奈良県内で自動車販売を中心にさまざまサービスを提供し、地域を大切にしています。そして、近年ではレストア事業にも力を入れており、トヨタの名車をレストア(修復)したものを展示する「まほろばミュージアム」を2年前にオープンしました。県内だけでなく県外や外国も含め、多くの方々に見に来ていただけるほど人気のある自動車博物館です。
2つ目は、「健康経営優良法人ホワイト500」に認定された企業であることです。弊社は、全国のトヨタの販売店の中でいち早く2017年から健康経営に取り組みはじめました。大企業も含めた500社のうちの1社に6年連続で選ばれたことは、とても光栄で有難いことだと思っています。また弊社は「エコアクション21」の認証を取得していますが、「健康経営優良法人ホワイト500」と「エコアクション21」の2つを持っているのは全国の自動車販売会社の中ではあまりなく、そこも大きな強みになっていると感じています。
世代交代も視野に入れた人材育成
ーー人材育成として取り組んでいることはありますか?
菊池攻:
三重県の賢島に研修施設を設け、全社員向けに宿泊研修を行える環境をつくりました。座学やホワイト500の企業としてのコンプライアンスなどがメインですが、なによりも社員同士の人間関係を円滑にして、日々の仕事を良い環境で行えることを目指しています。今後は世代交代が必要となってくるので、社員1人1人のスキルやパフォーマンス向上につなげられる施策を数多く行っていきたいと考えております。
労働環境を改善し生産性向上につなげる
ーー労働環境の改善として取り組んでいることはありますか?
菊池攻:
工場の労働環境改善に力を入れています。何かをリニューアルするとき、店舗のお客様が目につく場所だけをリニューアルする企業が多いのですが、弊社はバックヤードの工場で働く社員の環境改善にも取り組んでいます。具体的には、作業ブースごとにエアコンを設置し、休憩室や更衣室をこれまで以上に綺麗にしました。
このような改善が社員の生産性の向上や、モチベーションアップにもつながると思っています。
自分だけの経験や感覚を大切にしてほしい
ーー最後に読者の若手人材に向けてメッセージをお願いします。
菊池攻:
たくさん経験を積んで、自分の世界を広げていってほしいと思います。自分が思っている以上に世界は広く、知らないことばかりでしょう。未知の世界に対して一生懸命下調べすることももちろん大切ですが、まずは自分で経験してみることですね。
今の時代、多くの情報が溢れ、調べればすぐに必要な情報は手に入りますが、自分で経験してそのときに得た感動は、今後の変化の激しい時代を生き抜いていくために必要不可欠なものだと思っています。多くの体験を積むことにより、自分のかけがえのない人生を切り開いてください。
編集後記
代表取締役として大きな器を身につけ、社内の体制改善や企業発展に尽力してきた菊池社長。奈良県の地域社会に大きく貢献し続け、同時に社内の労働環境改善や人材教育にも力を入れている。
さらなる成長を続ける奈良トヨタ株式会社から、今後も目が離せない。
菊池攻(きくち・おさむ)/1982年上智大学文学部を卒業後、奈良トヨタ自動車(現:奈良トヨタ株式会社)に入社。取締役、常務取締役、副社長を経て、1992年同社代表取締役社長に就任。奈良県経済倶楽部会長、奈良商工会議所副会頭ほか多数の公職を務める。2007年10月には県最年少で奈良県公安委員長に就任。また薪御能保存会会長、県内各社寺の役員などを務める。2000年末にはアフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂、2005年7月には大峯奥駆修行満行。 2019年5月藍綬褒章受章。