※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

マルゴト株式会社は、月額制の採用代行サービス「まるごと人事」を主軸に、企業の採用課題を解決している。人事経験者を中心としたプロフェッショナル集団が企業の採用チームとして活動し、必要な期間だけ機能する独自のビジネスモデルで急成長を遂げている。同社を率いるのは、代表取締役の今啓亮氏だ。医者志望から一転、学生起業、カンボジアでの事業立ち上げを経て、子育てを機に現在の会社を創業した経歴を持つ。失敗を恐れず挑戦を続ける今氏の行動力の源泉は、「人生は期間限定」という哲学にある。社員と顧客双方の幸福を追求する経営の思いに迫る。

「人生は期間限定」 カンボジアでの挑戦と行動哲学

ーー起業を決意された経緯を教えてください。

今啓亮:
中学1年から高校3年まで医者になるのが夢でした。しかし、いざ受験を迎えて医師の仕事を具体的にイメージしたとき、自分があまり興味を持てないことに気がついたのです。そこで医学部の受験をやめ、文系の学部に進路を変更し、北海道大学の教育学部に入学しました。

周りの友人が明確な道に進む中、私自身は「何になるんだろう」と定まらないまま大学生活が始まり、「卒業までに将来やりたいことを見つけなければ」という焦りを感じていました。学生時代、多くの社会人にお会いする中で、学生起業を経て社長をされている方に出会い、純粋にかっこいいなと感じたのが起業を決意したきっかけです。仕事は「選ぶもの」から「つくるもの」へと意識が変わった、人生の大きな転機でした。

ーーその後、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

今啓亮:
家庭教師の仲介サービスで学生起業しましたが、そのテーマの奥深さと責任の重さを痛感し、「教育は人生の後半で取り組むべきだ」と決めました。まずはビジネスの修業をしようと考え、一度東京のベンチャー企業へ就職したのです。面接時から「3年で起業します」と宣言し、入社後は支店の立ち上げや支店長も経験しました。

そして独立に向け、事業の種を探す目的でカンボジアへ旅行したのが次の転機です。現地の経済成長を目の当たりにし、大きなチャンスを感じました。日系企業が良い人材を求めているニーズがあることも分かり、会社を辞めて移住し、人材紹介事業を立ち上げました。

ーー行動力の源泉は何でしょうか。

今啓亮:
理由は2つあります。1つは、失敗も含めて「どうなるか見てみたい」という好奇心が勝ってしまうからです。もう1つは、「人生は期間限定」と強く意識しているからです。この2つを大切にしてきたからこそ、学生時代にはヒッチハイクで東京まで往復したり、あるいは結婚前というタイミングでカンボジアへ渡って起業したりと、その時々でしかできない最大限の挑戦ができました。私にとっては、失敗を恐れるよりも「今」という好機を逃すことの方が、よほど大きなリスクだと感じています。

制約から生まれたビジネスモデルと成長への新たな渇望

ーー貴社を創業したきっかけについてお聞かせください。

今啓亮:
子どもの誕生がきっかけです。子育てをしながら仕事をするため、当時まだ珍しかった在宅での働き方を実現しようと考え、「自分でビジネスをつくるしかない」と思いました。しかし、2015年の創業当時は出社が当たり前の時代で、お客様から「仕事をする気があるのか」と見なされ、全く仕事がありませんでした。

そんな苦しい状況の中、ある企業から「今さんがうちの人事をやってよ」と言われたのです。それが2社続いた時、ビジネスチャンスを感じました。出社できない私ですが、「業務委託で人事の仕事を任せてもらえないか」と提案したところ、快諾してくださいました。これが「まるごと人事」の原型となりました。

ーー事業の成長過程で、最大のターニングポイントは何だったとお考えですか。

今啓亮:
創業3年目の終わりです。当時、個人として数社の業務を請け負い、子育ての時間も確保でき、収入も安定していました。創業時に思い描いたワークライフバランスが完全に満たされた状態だったのです。しかし、その状態になった時、「このままでは自分のためだけに生きている」とつまらなさを覚えました。

大企業に勤める友人が社会への影響を熱く語る一方で、社長である自分が個人の満足を語っていることに愕然としました。そこで「このままではいけない」と、会社として大きく成長させることを決意し、利益を全て投資に回しました。自分のためだけに働くことをやめたのが、最大の転機です。

働く人の幸福と顧客価値の両立 会社が目指す未来像

ーー貴社サービスの強みについて、教えていただけますか。

今啓亮:
弊社の中核サービス「まるごと人事」の強みは、採用チームの約6割が元人事や人材業界出身者という、専門性の高いプロフェッショナル集団である点です。通常、これほど多様な経験を持つ人材を自社で集めるのは困難ですが、弊社はそのプロ集団が2人1組のチームとなり、お客様の採用活動を支援します。

サービスは1ヶ月単位の月額制で、採用のプロが必要な期間だけ自社の採用チームとして機能します。採用活動には「今年は多く採用するが、来年は抑制する」といった波があり、常に人員を抱えるのは非効率です。弊社のサービスは、採用目標が達成されればいつでも契約を終了できるため、無駄なコストが一切発生しません。

そのため、採用に課題を抱える、規模を問わずあらゆる企業がお客様になり得ます。たとえば、専門の人事部がない中小企業では、社長や総務担当者が採用を兼務しているケースが少なくありません。しかし、現在の採用市場は片手間で成功するほど甘くなく、専門知識が不可欠です。弊社のメンバーが入ることで、即座に採用のプロの力を活用できます。

また、すでに人事部がある大手企業からも、「新卒採用で手一杯だから中途採用をお願いしたい」といったご依頼をいただきます。企業の多様なニーズに柔軟に応えられるのが、私たちの価値だと考えています。

社員も顧客 人と組織の可能性を最大化する経営

ーー社員の方々に対して、経営者として特に大切にされていることは何ですか。

今啓亮:
私は、社員もお客様の一人だと考えています。「私のために働いてほしい」と思ったことは一度もありません。むしろ、社員の「こうしたい」という思いを実現できる場所を提供したいのです。子育てやプライベートとの両立、希望の場所への移住など、社員一人ひとりの人生が豊かになることをサポートしたいと考えています。そのための環境として、フルリモートで、性別や場所に関わらず誰もが平等に挑戦し、成長できる環境を用意しています。

ーー今後のビジョン、ご展望についてお聞かせください。

今啓亮:
社会から「お客様も社員も、どちらも喜ぶ会社」と認知されたいです。お客様第一で社員が疲弊するのも、社員を優先するあまりお客様に価値を提供できないのも違うと考えています。いいサービスを提供し、働く社員も生き生きとしている。この両方を実現するからこそ、会社を大きくしていく意味があると思っています。

今後、AI技術の活用は大きなテーマです。AIを導入することで、今よりも安く、あるいはもっと質の高いサービスを提供できるのではないかと、現在さまざまな準備を進めています。AIの登場で世の中は大きく変化し、それに伴って新しい企業の困りごとやニーズが生まれてくるはずです。私たちは、そうした変化をいち早く捉え、新しい価値を次々と生み出せる存在でありたいと考えています。

編集後記

医者志望から学生起業、海外挑戦、そして子育てを機に創業へ。今氏のキャリアは、常に「今しかできないこと」への挑戦の連続である。「人生は期間限定」という哲学は、単なるスローガンではなく、生き方そのものだ。その哲学は、顧客と社員双方の幸福を追求する独自の企業文化を育んでいる。変化の激しい時代において、同社が今後どのような新しい価値を社会に提供していくのか、目が離せない。

今啓亮/1986年生まれ。北海道出身。北海道大学卒。大学在学中に家庭教師仲介で起業。新卒で東京のベンチャー企業に入社し3年間勤務。2013年にカンボジアで人材紹介会社を創業し、登録者15,000人に成長させて2年で会社譲渡。2015年に東京でマルゴト株式会社を創業。月額制の採用代行”まるごと人事”の提供を開始。全員がフルリモートで働くユニークな組織運営を行う。2022年に本社住所を東京から札幌に移転。