
京都府を拠点に、地域住民の食生活を支えるスーパーマーケット「新鮮激安市場!」を展開する株式会社コスモコーポレーション。圧倒的な鮮度と品揃えを誇る生鮮食品を武器に、顧客から絶大な支持を得ている。同社を率いる代表取締役社長の堀井徳人氏は、鮮魚担当としてのキャリアで培った審美眼と現場主義を貫き、独自の店舗モデルを確立した。倒産の危機や先代経営者との対立。幾多の困難を乗り越え、人気店をつくりあげた同氏の歩みと経営哲学に迫る。
鮮魚一筋のキャリアと経営への目覚め
ーー社会人としてのキャリアは、どのようにスタートされたのでしょうか。
堀井徳人:
高校卒業時に就職活動をする中で地元スーパーの求人を見つけ、応募したのがこの業界に入ったきっかけです。特に深い理由があったわけではなく、偶然の出会いでした。入社後は鮮魚部門に配属されましたが、これが自分にとって天職でした。多種多様な魚を扱う面白さや、目利きで仕入れを行う仕事に夢中になりました。その結果、1年ほどで市場での仕入れの一部を任されるようになります。
20歳の頃には1店舗の仕入れと売り場を、22歳の頃には全4店舗の鮮魚部門を統括する「バイヤー課長」という役職に就きます。ただ、10年ほど勤める中で、このままではキャリアアップに限界があると感じ、独立を決意しました。スーパーのテナントとして魚屋を経営した時期もあります。その後、もっと大きな挑戦がしたいという思いから京都へ出て、さまざまな食品関連の会社を手伝いながら経験を積みました。
ーー貴社へ入社された経緯をお聞かせください。
堀井徳人:
京都でさまざまな経験を積み、32歳の時に「もう一度スーパーの仕事をしよう」と決意しました。当時、鮮魚に強みがあることで知られていた弊社に入社した次第です。
しかし、入社したものの、当時の社長とは意見が食い違うこともあり、自分のやりたいこと、特に経営に関することはなかなか実現できませんでした。「鮮度の良い魚を売りたい」という私の思いとは裏腹に、安さを優先する昔ながらの商売から脱却できずにいました。自分の意見が通らないもどかしさを抱えながら、「世の中は自分の思い通りにはいかないものだ」と学び、耐える時期が続きました。
会社再建の礎となった新事業への挑戦

ーー「業務スーパー」へのフランチャイズ加盟は、どのような経緯で決まったのでしょうか。
堀井徳人:
近隣に大手のスーパーが出店するなど、非常に厳しい状況でした。当時の社長も「このままでは会社が潰れる」と漏らすほどで、私も会社の存続に強い危機感を募らせていました。そんな時、偶然にも私の地元で「業務スーパー」のフランチャイズ店が大きな成功を収めているという話を耳にしました。すぐに視察に行くと、その圧倒的な安さと集客力に衝撃を受け、「これしかない」と確信するに至りました。
ーー新形態への挑戦は、会社にどのような変化をもたらしましたか。
堀井徳人:
当時の社長に、「もし、この挑戦を認めてくれないなら、会社を辞めてやる」と覚悟を持って直談判しました。社長も会社の危機的状況を理解していましたから、私の熱意を受け入れてくれました。そして、以前使っていた空き店舗を利用し、業務スーパー1号店を開店します。
おかげさまで、1号店は初年度から会社の赤字を埋めるほどの利益を上げ、大成功を収めました。その後の複数店舗展開により、会社の収益は安定軌道に乗っています。まさに、会社立て直しのきっかけとなった事業です。最初の5年ほどは1日も休まず働きましたが、自分の手で会社を救ったという経験は、大きな自信につながりました。
社長就任と「顧客第一」を掲げた経営改革
ーー社長就任の経緯と、就任後にどのようなことに取り組まれたのかを教えてください。
堀井徳人:
2011年に創業オーナーが引退され、会社はM&Aによって新体制へと移行しました。当時副社長だった私が、この新しい体制のもとで社長に就任することとなりました。
私が社長としてまず着手したのが、経営方針の転換です。それまでは自分たちの都合を優先する商売でしたが、これからは「お客様第一」を徹底しようと決めました。本当に鮮度の良い、おいしいものをお客様に届けたい。そして、それを適正な価格、できるだけ安く提供したい。その一心に尽きます。
そして、私の理想を詰め込んだ店舗「新鮮激安市場!」を2012年に立ち上げます。この1号店がお客様から大変なご支持をいただき、わずか2〜3年で売上は倍に成長します。業界の平均的な坪当たり売上が300万〜400万円といわれる中、1000万円を超える店舗も現れました。この成功を受け、既存のスーパーも「新鮮激安市場!」へと屋号を変更。会社全体の売上を大きく伸ばすことに成功しています。

ーー「新鮮激安市場!」の強みは何でしょうか。
堀井徳人:
一番の強みは、生鮮食品の売上構成比が60%以上と非常に高い点です。特に鮮魚は、他では見られないような豊富な種類を取りそろえています。また、食肉に関しても、スーパーではあまり見かけないような専門的な部位を扱っています。これらは、手間がかかるという理由で大手スーパーが避けたがる商品です。しかし、お客様が本当に求めているのは、かつての商店街にあったような、活気と専門性のある店だと考えています。私たちは、他社がやらないことにこそ勝機があると考え、あえて手間暇をかける道を選んでいます。
良い店づくりに不可欠な「三位一体」の視点

ーー店づくりをする上で、大切にされていることは何ですか。
堀井徳人:
「経営者」「現場」「お客様」という3つの視点を常に持ち続けることを大切にしています。現場感覚を失わないために、今でも毎朝5時頃には市場へ足を運んでいます。お客様の視点を忘れないよう、私自身が自社の店舗で買い物もします。商品をただ見るだけでなく、実際に「買う」という立場になることで初めて見えてくる課題や改善点に気付かされます。この3つの視点を持つことが、良い店づくりには不可欠だと考えています。
ーー貴社が求める人物像をお聞かせください。
堀井徳人:
何よりも人柄を重視しています。周囲と協力し、仲間意識を持って仕事に取り組めることが理想です。どれだけ優れた能力を持っていても、人の気持ちを理解できなければ組織ではうまく機能しません。真面目で、相手の立場に立って物事を考えられる、自分本位ではない方と一緒に働きたいです。そういった方であれば、年齢や経歴に関係なく、積極的にチャンスを提供します。
現に、鮮魚部門のトップとして活躍している22歳の若手社員がいます。彼は中学校を卒業後すぐに入社しましたが、非常に気が利く人物です。新店舗の責任者を任せても見事に期待に応えてくれました。今後も実力のある人材は積極的に抜擢していきます。若手の挑戦を嫉妬するのではなく、組織全体で支える温かい会社でありたいです。
編集後記
堀井氏の歩みは、逆境の中でも決して諦めず、自らの信念を貫くことの重要性を物語っている。「効率化が至上命題」とされる現代の小売業界において、あえて「手間暇をかける」。その経営スタイルは異彩を放つ。その根底にあるのは、社長自身が現場で培ってきた「お客様が本当に求めるものは何か」という、確固たる信念だ。自ら市場に立ち、顧客の目線で店を見る。その真摯な姿勢こそが、地域の人々に愛される店をつくりあげた原動力なのだろう。同社の挑戦は、これからも多くの人々の食卓を豊かにしていくに違いない。

堀井徳人/1961年京都府綾部市生まれ。高校卒業後、食品スーパー、鮮魚専門店など小売業界に従事。1995年、株式会社コスモコーポレーションに入社。2011年に代表取締役社長就任。就任後は新たなコンセプトで生鮮食品スーパー「新鮮激安市場!」を立ち上げ、社長就任時は全10店舗で80億円台だった売上高を、現在は全14店舗で188億円と増収を継続中。