
株式会社タレントアンドアセスメントは、2014年に設立されたAI面接サービス事業や戦略採用コンサルティング事業などを手掛ける企業だ。2017年にリリースされた対話型AI面接サービス「SHaiN」は、全国の大企業・中小企業680社以上が導入済み。2023年には完全自動化を実現し、面接実施可能数がさらに増えたことにより、取引先も増加し続けている。
同社を創業し、時代に先駆けて人工知能に着目し独自サービスを開発した代表取締役の山﨑俊明氏に、会社設立までの経緯や、AI面接と従来の人による面接との違い、今後の展望などについてお話をうかがった。
学歴では判断できない「活躍人材」を見出していきたい
ーー2014年にタレントアンドアセスメントを設立したきっかけについて教えてください。
山﨑俊明:
きっかけとなったのは、会社員だった頃にマネジメントを経験し、そこで採用面接や人事評価に関わったことです。私のファーストキャリアは銀行員です。そこでは2年ほど働き、さらに「頑張りが評価される仕事に就きたい」と思い、声をかけていただいたアクサ生命に転職。面接時にびっくりしたのが、大学名などの学歴について一切聞かれないことでした。
当時、アクサ生命の面接で重視されていたのは「実績を出すために、どのような努力をしてきたか」そして「その努力と実績は、再現性があるものかどうか」だったのです。そうした面接メソッドに新鮮な驚きを受けたことを覚えています。
2000年頃の企業の採用試験では、学歴を重視するケースが多くみられました。就職先も大学により大きく異なる中、こうした物の見方を学ぶことができたのは自分にとって非常に大きな経験だったと思います。どんな大学にも、努力をして結果を残せる人がいます。
学校名を重視するのではなく、本当に良い方に是非面接まで進んでほしい。そうした世の中を作ることができるといいなと思い、これまでに得た人事・採用関連のノウハウを広めるため、38歳の時に起業を決意しました。
ーー設立後、まずはどのような事業をしていたのですか。
山﨑俊明:
2014年のタレントアンドアセスメント設立当初は企業向けに面接コンサルティングを行い、採用担当者向けに面接の仕方をトレーニングしていました。伝えていたのは、社内の採用基準を統一した後で、基準に沿って質問をしていくという「構造化面接手法」です。これが、弊社が今でもクライアントにお伝えしている「戦略採用メソッド」の入口になります。
採用コンサルティングのノウハウを活かして、対話型AI面接サービスを独自開発

ーー2017年にリリースされた「対話型AI面接サービス」を開発したきっかけについて教えてください。
山﨑俊明:
2016年に、ソフトバンクの孫さんが記者発表会でPepper(ペッパー)をお披露目したことがきっかけです。孫さんとPepperが会話しているところを見て私は「これだ!」と思いました。当時の私は、企業向けに面接コンサルティングとして、面接官の研修をする日々を送っていましたが、Pepperが面接官になれば、この研修は必要なく、同じ水準でいつも面接ができると感じたのです。
すぐにソフトバンクに連絡をして、Pepperの内部システムを教えてもらい、面接官という業務ができるかを問い合わせました。回答は、Pepperは面接ができるレベルにはないということでしたが、ソフトバンクのエンジニアを紹介してくれて、面接用のAIシステムを開発するという流れになったのです。今ではスマートフォンの画面でAI面接を行っていますが、リリース当初はPepperと候補者が対話をするという形式でした。
ーー「AI面接」と、従前の「人による面接」の違いは、どのようなところにあると考えていますか。
山﨑俊明:
「AIは感情に左右されずに必要な質疑応答を行い見極めることが得意」「人間は熱意を持って動機づけることが得意」といった点が大きな違いです。そのうえで私は「AIがいい」「人間はダメだ」と言っているわけでなく、AIと人間とで役割分担することで良い採用を実現しようという考えを持っています。
たとえば、候補者の能力や経験などについて、面接官が感情に影響されて聞き出せたり聞き出せなかったりするのはもったいないため、AIが“見極め”を行います。AI音声の質問に、候補者が口頭で応えるという流れで面接が進んでいき、内容は全て記録・文字起こしされ、点数化まで自動で完了するのが、弊社の対話型AI面接サービス「SHaiN」の特徴です。
一方で、たとえば「社風と人柄がマッチしているから、本当にこの人に入社してほしい」というような“動機づけ”は、これまで通り人間が行います。AIが面接・点数化をすることで、質問内容の聞き忘れや覚え違い、面接官の好みによる採点のブレなどがなくなります。その後に人間が動機づけをすることで、候補者に入社の意思決定をしてもらうという役割分担がベストだと思っています。
AI面接の改良を続けて世界的なサービスを目指す
ーーこれまでの事業の歩みを教えてください。
山﨑俊明:
スマートフォンさえあれば、24時間365日いつでもどこでも面接ができる弊社の対話型AI面接サービスは、2017年のサービス開始後から順調に導入社数を増やし、多くの業界で利用されています。
メディアでも取り上げていただいており、たとえば対話型AI面接サービス「SHaiN」のスタンダードプランは、新卒・中途の採用面接の他にも、飲食チェーン店での店長昇格試験にも活用されています。ライトプランはアルバイト採用で利用されるケースが多いです。
また、2023年にAI面接の完全自動化が完了しました。これまではAI面接後の文字起こしデータを弊社の専門スタッフが確認・評価してクライアントに報告していましたが、完全自動化により、評価までAIが行えるようになったのです。
「面接終了後15分で、文字起こし・自動評価データ・面接内容の要約文をクライアントに送信する」というロジックを作ったことで、1日に可能な面接実施件数が飛躍的に増加し、弊社の売上も前年度比2倍が視野に入るほど大幅に伸びました。
もちろん、AIがどのように質問項目を選んでいるか、どのように採点しているかのロジックはクライアントにお伝えしており、ブラックボックスではありません。
私たちはもともと面接コンサルティング事業を行っていたため、面接に関するデータが豊富にあります。これまで蓄積してきた4万件以上のデータを基に、東京大学大学院情報理工学系研究科において知覚情報処理を専門とする山﨑研究室との共同研究によりアルゴリズムを開発しました。特に基準の厳しいヨーロッパのAI規制にも適合している日本で唯一のAI面接です。
ーー今後の事業展開について教えてください。
山﨑俊明:
これからは、この対話型AI面接サービス「SHaiN」をさらに改良・改善していく方針です。そして、改良・改善した情報を広く発信していくことが、何より弊社の宣伝になると考えています。ありがたいことに、弊社は今のところ寄せられたお問い合わせに対応するだけで、営業担当は手一杯になっており、飛び込み営業する時間を持つ余裕がありません。
また、近頃は日本で働くことを希望する海外の方が増えているため、「海外の方が母国語で面接を受けられて、日本企業は日本語で面接内容データを受け取れる」といった外国語対応も進めていきたいですね。
対話型AI面接サービス「SHaiN」は、大企業・中小企業といった企業規模の違いや、おすすめの業界などは一切なく、“人材を採用したい”全ての企業にマッチするものです。「採用するなら、AI面接を使おう」という世の中になっていけばいいですね。面接・採用の最大手のプラットフォームになりたいと考えています。
編集後記
2014年の設立以来、採用コンサルティングをきっかけに対話型AI面接サービス「SHaiN」のリリースも行い、事業の幅を広げてきた山﨑社長。しかしAI至上主義ではなく「AIにできない、人にしかできないこと」まで深く考えているのが印象的だった。
事業を拡大してきたのは、AI黎明期に目を付けて面接の場に持ってきた先見の明はもちろんのこと、魅力的で「また会いたい」と思える人物像について考え、AIと人間の違いを峻別するその思考力にもあるのかもしれない。同社が提供するAI面接サービスは今後ますます普及していくことだろう。

山﨑俊明/1973年大阪府門真市生まれ。大阪学院大学卒業後、株式会社大正銀行(現 株式会社徳島大正銀行)に入行。優秀外交賞を入行最短期間で受賞。その後アクサ生命保険株式会社にて大阪LAマネージャー、仙台LA支社副支社長、金融法人営業部副部長を全て最年少で歴任。2011年株式会社T&Aパートナーズ、2014年には株式会社タレントアンドアセスメント設立、両社の代表取締役に就任。2017年に対話型AI面接サービスSHaiNを開発・提供開始。