
日本の観光・医療分野のDXを牽引する株式会社USEN-ALMEX。同社は、自動精算機やセルフチェックインシステムで業界をリードしてきた。創業期から受け継がれる「人への温かみ」を大切にする文化を守りつつ、社会の変革に対応した人材育成にも注力する。今回、代表取締役社長の坪井将之氏に、これまでのキャリア、同社独自の強み、そして未来へのビジョンについて話をうかがった。
仲間との絆が原動力 個人プレーから組織戦へ飛躍した若手時代
ーー貴社に入社された経緯についてお聞かせください。
坪井将之:
「ものづくり」に携わりたいという思いと、将来的な起業目標を胸に、株式会社アルメックス(現・株式会社USEN-ALMEX)に入社しました。当時何社か内定をいただいた中で最も小規模だった弊社ですが、温かい雰囲気に惹かれたことと、創業社長の「この業界で日本一を目指す」という言葉が入社の決め手になりました。
ーー若手時代に印象に残っているエピソードがあればお聞かせください。
坪井将之:
入社してすぐ営業として配属され、営業といえば個々人が数字を追うイメージがありましたが、そこでは業種や部門に隔たりはなく仲間同士のつながりが非常に強く、互いに助け合う「阿吽の呼吸」がありました。そこでの経験から、仲間の温かさや仲間意識が育まれました。お客様に恵まれたことも幸いし、20代で社長賞を3度受賞することができました。30歳では支店長を任され、一人ではこなせない業務量に直面し苦慮したことも多くありましたが、ともに働くメンバーを育成し、チームとして、組織として、戦うという考え方へシフトすることで乗り越えることができました。
激動の時代を乗り越え新たな経営の舵取り
ーー2006年に当時のUSENグループに参画されて、どのような変化がありましたか。
坪井将之:
創業社長が一代で築き上げた会社しか知らなかった私にとって、USENグループへの参画は大きなカルチャーショックでした。M&Aのニュースは新聞にも大きく掲載され、社内には変化に対して不安を抱く社員も多数いたように思います。ですが、私は、USENグループのしっかりした組織風土、優秀な人材も豊富だと感じていたこともあってこのグループに参画したことは、むしろ私のビジネス人生における大きな転機だったと感じています。
ーー代表取締役社長に就任された際の意気込みをお聞かせください。
坪井将之:
社長就任は全く想定していませんでしたが、株式会社U-NEXT HOLDINGSの宇野社長から打診された際、すぐに「分かりました。お引き受けします」とお答えしました。創業社長以来初めての生え抜きの社長となります。生え抜きで任命いただいた私だからこそできる、入社当初から培ってきた経験と、歴代の代表から教わってきたことを活かしつつ、私ならではの舵取りをしていきたいと考えていました。
ーー社長就任後、まずどのようなことに取り組まれましたか。
坪井将之:
社長に就いたことで離れてしまいがちな「社員の声」こそ会社にとって大切ではないか、という思いから、社内における会社の強み、弱み、文化、組織風土を改めて知ることを社長就任後すぐに着手しました。
その一環として、営業や事務、製造などといった各部門の若手社員と直接対話する「ネクストジェネレーションボイス」という取り組みを始めました。若手社員から集まった課題や意見など現場のリアルな声を反映させ、実態に即した経営を目指す考えです。このような機会を経て、社長として、「現場力」をより高めたいという強い思いと、あらゆる業務部門においても社員一人ひとり自ら考え、自ら動ける組織文化を目指していきたいと考えています。
ワンストップの強みを未来へ 人材と技術で新時代を拓く

ーー貴社の事業内容の特徴と、競合他社との違いについてお聞かせください。
坪井将之:
弊社は「メーカー色の強いものづくり」に注力しています。製品に付加価値を提供することで、お客様の効率化や収益性改善に貢献しています。主な商材は自動精算機やセルフチェックインシステム「KIOSK」ですが、他社との違いは、Webサービスや宿泊管理システム、決済システム、アプリサービスといった付帯サービスも一貫して提供できる点です。このようにワンストップでサービスの提供ができることが弊社の強みであり、各業態でナンバーワンを目指しています。
ーー今後の人材育成や教育について、どのようなビジョンをお持ちですか。
坪井将之:
人材育成は弊社の重要な課題です。将来の幹部や経営者を育てることが、私の大きな仕事だと考えています。今期から人材への投資と教育プログラムを大幅に強化しました。具体的には、将来の幹部候補となる人材を選抜し集中的に育成する「POOL制度」を創設し、管理職養成コースと経営層養成コースを設けています。また、若手社員を世界最大のIT展示会「コンピュテックス」に派遣し、グローバルな視点とコミュニケーション能力を養う機会も提供しました。加えて、ミドルマネジメント層や40代、50代の社員にも教育プログラムを実施し、全社的な人材教育に力を入れています。
ーー商品開発において、既存領域の成長と新領域への展開はどのように考えていますか。
坪井将之:
既存領域では、宿泊・医療業態を中心に継続的な成長を目指します。それと並行し、成長領域への基盤整備と新商品・サービスの提供を第二の柱と位置付けています。未開拓の市場を調査し、弊社のプロダクトやサービスが価値を提供できるか検討を進めている段階です。
プロダクト軸ではロボティクス分野に注力しています。特に、AI技術を搭載した配膳ロボット「Servi Plus(サービィプラス)」の導入を積極的に進めています。このロボットは最大積載量40kgと大容量の配膳・下膳に対応可能です。さらに、広いホールや混雑空間でも複数台のロボットが互いを認識し合いながら自立走行する「マルチロボット機能」が特徴です。今後もマーケット軸とプロダクト軸の両面から、成長戦略を実行していきます。
ーー最後に、今後の展望や読者に伝えたいメッセージをお聞かせください。
坪井将之:
ビジネスを長く続ける中で、社内外のあらゆる「課題」の中にこそビジネスの「機会」があると感じています。お客様や社会の課題を的確に捉え、弊社の技術、すなわちテクノロジーをもってホスピタリティを提供する。それが、私たちの理念である「テクノホスピタリティ」です。お客様へのDX推進はもちろん、その先にいる利用者様にも利便性や快適性をお届けしたいと考えています。
また、社内に目を向ければ、従業員の満足度向上も不可欠です。「物心両面の幸福」という稲盛氏の言葉を借りれば、弊社は全従業員の心をより大切にしたいという考えから「心物両面の幸福」を追求し、5年後、10年後も社会に貢献できる企業であり続けたいと考えています。
編集後記
坪井氏の言葉からは、変化を恐れない挑戦心と社員への深い愛情、そして社会課題の解決に貢献する強い使命感が伝わってくる。自動精算機や配膳ロボットの導入は、同社の技術力を顧客施設の効率化と利用者の利便性向上へとつなげる、ホスピタリティ精神の表れだ。顧客だけでなく従業員の幸福も追求する同社の挑戦は、これからも続いていくだろう。

坪井将之/1970年生まれ、京都府出身。1993年、株式会社アルメックス(現・株式会社USEN-ALMEX)に入社。レジャーホテル分野の担当として支店長、統括部長、事業部長を務めた後、ホテル・宿泊施設やゴルフ場など新しい領域の開拓に取り組む。2021年からは取締役常務執行役員・マーケティングセールス本部長として、医療・外食業界を含む全業態にかかわる各事業を統括。2023年11月より代表取締役社長に就任。