※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」を主軸に、日本のフェムテック市場を牽引するmederi株式会社。企業の福利厚生として導入が進む「mederi for biz」を通じ、女性の健康課題というテーマを社会全体で考えるきっかけを提供している。同社を率いるのが、代表取締役の坂梨亜里咲氏だ。自身の3年間にわたる不妊治療の経験を原点に、「望む人が、望むタイミングで産み、キャリアを築ける社会」の実現を決意した同氏に、その強い意志の源泉と今後の展望について話を聞いた。

「自分ごと」を追求してたどり着いた、起業という選択

ーー社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。

坂梨亜里咲:
新卒でEC会社ルビー・グループ株式会社へ入社し、キャリアをスタートさせました。約1年間、商品登録から撮影、カスタマーサポートまでEC運営の基本を一通り経験。特に印象的だったのは、富裕層をターゲットにしたWebサイトを立ち上げるという新規事業を任されたことです。貴重な経験でやりがいは感じたものの、高額な商材に対して「自分ごと」として情熱を注ぐことが難しく、「もっと自分ごととして捉えられるサービスに関わりたい」という思いが強くなっていきました。

ーー最初の会社を退職された後、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

坂梨亜里咲:
大学時代にアイドルとして活動していた際のプロデューサーが立ち上げたメディア企業へ移り、美容やトレンドに関する記事を毎日20本近く執筆していました。楽しみながら仕事ができ、編集長に昇進しました。しかし、キャリアパスや給与体系が明確でない点にズレを感じ、自身の市場価値を高めるためにフリーランスとして独立しました。

ーーそこから起業に至った最大の動機は何だったのでしょうか。

坂梨亜里咲:
直接的なきっかけは、自身の3年間にわたる不妊治療の経験です。多くの時間とお金を費やした経験から、同じ境遇にある方を支える事業をライフワークにしたいという強い思いが生まれました。

それに加え、前職で子会社の社長を務めていたときの経験も大きな後押しとなっています。メディア事業の枠を超えて「物を売る」という新規事業を親会社に提案したところ、「在庫を持つサービスは実施しない」という方針で初めて否定されたのです。この出来事を通じ、自分のやりたいことを実現するには独立しかないと痛感し、起業を決意しました。

利用者に寄り添う「安心・安全」 社会を動かすサービスへの進化

ーー起業当初は、どのような事業から始められたのでしょうか。

坂梨亜里咲:
前職で、まだ競合が少ない市場へ2、3番手で参入し、多くのユーザーから評価された成功体験があります。そのため、事業を立ち上げる際は「参入のタイミング」と「競合の少ないブルーオーシャンで戦うこと」を非常に重視していました。

しかし、最初に選んだ妊活サプリメントの市場は、すでに多くの企業がひしめくレッドオーシャンで、その中で独自の価値を出すのは難しく、事業はなかなか軌道に乗りませんでした。ところが、「勝ち目のない勝負だ」と感じていた矢先に、著名な実業家の前澤友作氏から出資をいただくという転機が訪れます。この大きな後押しのおかげで、現在のオンラインピル診療サービスへと事業を大きく転換することができました。

ーー同様のオンラインピル診療サービスが増える中で、「mederi Pill」ならではの強みは何だとお考えですか。

坂梨亜里咲:
強みは大きく分けて二つあり、一つは、自身の不妊治療の原体験から生まれた、徹底した利用者目線のサービス設計です。私自身が治療を通して感じた不安や悩みを深く理解しているからこそ、単に便利なだけでなく、利用者の心に寄り添うサービスでなければならないと考えています。その思想は、利用者からのお問い合わせに対応するスタッフの姿勢にも貫かれており、高いホスピタリティを持って一人ひとりの心理的な安全性を確保することを重視しています。この血の通ったコミュニケーションこそが、サービスの安心感と信頼を支えています。

そしてもう一つが、診療から処方までを「必ず産婦人科医」が担当する医療体制です。オンラインで診療し、その後の処方も産婦人科医が責任を持って行います。他社のサービスでは他の科の医師が担当することもありますが、私たちは女性の身体の専門家が診ることで、リスクの見逃しを防ぐなど、本当の意味での「安心・安全」を提供できると考えています。

ーー法人向けの「mederi for biz」にも注力されていますが、どのような思いからこの事業を始められたのですか。

坂梨亜里咲:
個人向けサービスを通じてピルの啓発に取り組む中で、私たちだけでメッセージを伝え続けることに限界を感じ始めたのがきっかけです。社会全体で女性の健康をサポートする文化をつくるには、日々の生活の多くの時間を過ごす企業との連携が不可欠だと痛感し、この思いから、本事業を立ち上げました。

「mederi for biz」は、ピルの服用費用を企業に補助していただく福利厚生制度ですが、これは単なる金銭的支援ではありません。従業員にとっては「会社が自分の体を大切にしてくれている」というエンゲージメントの向上につながります。一方で企業にとっても、採用や離職のコストを考えれば非常に有効な「人的資本投資」という側面があるのです。

この取り組みが、女性のQOL向上とキャリア形成を後押しする、本質的な一手になると確信しています。

ピル服用率の向上と、その先に見据える未来のビジョン

ーー事業を通して、どのような社会を実現したいですか。

坂梨亜里咲:
「1人でも多くの人が、望むタイミングで妊娠・出産・キャリアを実現できる社会」をつくることが最大の目標です。その実現に向けた第一歩として、将来、日本のピル服用率が向上した際に「そこにmederiがあった」と言われるような、圧倒的なNo.1ブランドを確立することを目指しています。

ーー今後の具体的な目標や展望について教えてください。

坂梨亜里咲:
長期的には、ピル事業で築いた基盤の上に、妊娠・出産・更年期などのライフステージに寄り添う事業や、コーチングや転職サポートといった女性の人生にまつわる事業を多角的に展開していく構想があります。企業としては、事業をさらに大きな規模へと成長させ、社会に対して「女性活躍」をリードし続ける存在でありたいです。

編集後記

自身の不妊治療という深い個人的な経験を、社会を変える力へと転換させた坂梨氏。その語り口からは、事業への並々ならぬ情熱と、利用者への真摯な思いが伝わってきた。掲げられた事業成長や社会貢献への高い目標は、単なるスローガンではない。それは、すべての女性が自分らしく輝ける社会を本気で実現するという、固い決意の表れだ。同社の挑戦が、日本の未来をどう変えていくのか、大いに注目したい。

坂梨亜里咲/明治大学卒業後、ECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けwebメディアのディレクター、COOを経て、同社代表取締役に就任(2019年退任)。自らの長年に渡る不妊治療経験から「1人でも多くの女性が望むタイミングで妊娠・出産・キャリアが実現できる社会にしたい」と、2019年よりmederi株式会社を創業。オンラインピル診療サービス「メデリピル(mederi Pill)」を展開。2025年に、オンライン診療サービス「レバクリ」などを手がけるレバレジーズ株式会社に参画。