※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

フランスの化学大手アルケマグループの中核を担うボスティックの合弁子会社であるボスティック・ニッタ株式会社。同社は、壁や天井に自在に張り付くヤモリをロゴに掲げ、世界基準のスマートな接着技術で日本の多様な産業を支える。代表取締役社長、大野氏のキャリアは変化の連続であった。研究職から未経験の営業へ、そしてアメリカ、上海などの海外赴任も経験しながら、常に変化をチャンスに変えてきた。その挑戦の軌跡と、会社を未来へ導く組織論に迫る。

大きなキャリアチェンジだった営業職で開花 業界の常識を変えた色の変わる接着剤

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。

大野原基:
大学では高分子化学を専攻し、「いずれ天然由来の高分子が注目される」という思いから、ゼラチンやコラーゲンを扱う新田ゼラチンに入社しました。入社後はそれらの研究に携わりたいと考えていたものの、接着剤事業部に配属となりました。そこで約1年間研究開発を担当した後、合弁子会社であったニッタフィンドレイへ出向し、アメリカへ渡りました。

帰国すると、今度は未経験の営業を担当することに。会社としては「技術を理解している人間が営業した方が効率的だ」という狙いがあり、研究畑を歩んできた私にとっては、戸惑いの大きいキャリアチェンジでした。

ーー営業として、最も印象に残っているエピソードについておうかがいできますか。

大野原基:
いろいろありますが、アメリカで開発された、濡れると色が変わるおむつ用接着剤の営業をした際のことです。当初は「色が黄色くて尿に似ている」などの理由で、どのメーカー様にも積極的に評価・採用されませんでした。それでも、特徴やメリットを丁寧に示し、お客様にとっての価値を粘り強く伝え続けた結果、1社、また1社と採用が決まり、ついには業界のスタンダードとなるまでに普及しました。

自分達の提案や努力が顧客の製品の一部になり、それが店頭に並ぶ光景を目にしたとき、努力は結果に結びつき、社会に貢献できるという営業ならではの醍醐味と、確かな手応えを感じました。

変化を恐れずチャンスに変える グローバルキャリアで培った思考法

ーー海外勤務の中で、どのような経験をされましたか。

大野原基:
もともと英語が得意ではなかった私にとって、アメリカ勤務は大きな挑戦でした。主におむつに使われる接着剤の研究開発を担当していましたが、職場に日本人は私一人だけ。同僚はアメリカ人をはじめ、インド人や中国人と、多様な国籍のメンバーで構成されていました。その中で、文化や価値観の違う人々と仕事を進める術を肌で学んだ経験は、私のキャリアにおける大きな転機の一つです。

その後の上海赴任は、さらに大きな挑戦でした。アジアのテクニカルセンターを立ち上げるという任務を与えられ、現地スタッフの採用から育成まで、すべてを担ったのです。将来、自分の後を任せられる人材を育てる必要もありました。外国人メンバーを指導していくことは、日本では得難い、非常に貴重な経験です。

ーー変化の多い環境にいる中で、貫いてきた仕事の哲学はありますか。

大野原基:
大きな変化に直面すると、誰でも及び腰になったり、逃げ出したくなったりするものです。しかし、そんな時こそ冷静にその変化を見極め、「どうすれば対応できるか」を考えます。そして、ただ受け入れるのではなく「これをチャンスに変えてやろう」という気概で向き合うことを大切にしてきました。変化は、自分を成長させてくれる絶好の機会だと捉えています。

スマートな接着技術で暮らしと未来を支える

ーー貴社の事業と強みについてお聞かせください。

大野原基:
ボスティックは、アルケマの接着剤ソリューション部門として、建築、消費者向け、産業向け市場における特殊接着剤のグローバルリーダーです。当社は、130年以上にわたり、イノベーションと多機能なシーリング・接着ソリューションを開発し、私たちの日々の生活に携わってまいりました。

シーリングと接着技術の世界的リーダーとして、当社は建築、自動車、消費者向け電子機器など特定の分野に注力しつつ、高度な包装用や衛材用接着技術の提供を通して製品安全性を確保し、お客様のあらゆるニーズに対応しています。イノベーションは当社のDNAに刻み込まれています。ボスティックはコラボレーションとイノベーションを通じて、安全で柔軟性があり、効率的で、変化する環境課題に対応できるスマートな接着剤を商品化してきました。

ーーロゴの「ヤモリ」が印象的ですが、どのような思いが込められているのでしょうか。

大野原基:
ヤモリの指先が壁や天井に自在に張り付く能力に着想を得ています。彼らのように、スマートかつ高性能な接着技術で社会のニーズに応え、人々の生活に貢献したいという思いが込められています。お客様が抱える課題に対して、最適な解決策を提供し続ける存在でありたいと考えています。

「強い個」が未来を創る 事業規模2倍以上へ、次なる成長ステージへの挑戦

ーー今後、どのような組織づくりを目指していますか。

大野原基:
目指しているのは「強い個の集団」です。社員一人ひとりが、それぞれの持ち場でプロとして自立し、個性や強みを発揮しながらも、変化には臨機応変に対応できる。そうした強い個人が集まることで、初めて強いチームが生まれると考えています。

財務、営業、サプライチェーンと、会社には様々なチームがありますが、それぞれのチームが強固でなければ、会社全体も強くなりません。強い会社をつくらなければ、競合他社との競争には勝てないからです。

この考えは、弊社の親会社であるアルケマグループが掲げる5つの価値観にも通じます。その内でも「パフォーマンス」、「エンパワーメント」、「インクルージョン」といった指針は、まさに個の力を引き出すためのものです。ですから、採用した方々がそれぞれの強みを生かし、この会社で大いに活躍してくれることを期待しています。

ーー今後の事業目標についてお聞かせください。

大野原基:
具体的な目標として、事業規模を現在の2倍以上まで拡大したいと考えています。2020年に奈良の新工場が稼働し、生産能力という土台はすでに整っているため、これを生かして新規ビジネスを積極的に進めます。同時に、環境問題への貢献など、サステナビリティの追求も企業としての重要な責務です。

この目標を実現するためには、人材が最も重要になります。グローバルな環境での仕事を自らの成長機会と捉えて楽しむことができる方や、変化を恐れずに挑戦し、それをチャンスに変えていけるマインドを持つ方。そうした方々と、ぜひ一緒に未来を切り拓いていきたいですね。

編集後記

さまざまな変化をチャンスと捉え、不可能を可能にしてきた大野氏。その物語は、キャリアに悩む多くのビジネスパーソンに勇気を与えるだろう。具体的な成功体験に裏打ちされた「変化を乗りこなす」という哲学は、強い説得力を持つ。ヤモリのロゴに象徴されるスマートな技術で社会を支える同社が、強力なリーダーシップのもとで描く未来に期待が高まる。

大野原基/1997年に京都工芸繊維大学院卒業後、新田ゼラチン株式会社に入社。接着剤事業部で研究開発に従事。ニッタフィンドレイ株式会社(現ボスティック・ニッタ株式会社)に出向。1年間のアメリカ勤務後、国内営業に従事。2007年開発および調達業務に従事、2012年から上海勤務でアジア地域を担当。2015年代表取締役社長就任。2017年から新田ゼラチン接着剤事業承継および奈良工場立上げに尽力。2023年から衛材&紙包装用事業部長兼任。