
約50年前、日本で初めて訪問入浴サービスを事業として確立し、在宅介護の歴史を切り拓いてきたアースサポート株式会社。「お客様第一主義」を理念に掲げ、質の高いサービスで業界を牽引する。福祉に関する知識がなかった青年が、ある出来事をきっかけに、常識を覆す挑戦を始めた。業界のパイオニアとして、今も最前線で未来を創造し続ける代表取締役社長の森山典明氏。今回、その軌跡と信念を聞いた。
業界の常識を覆したパイオニアの原点
ーー福祉の道へ進まれたきっかけについてお聞かせいただけますか。
森山典明:
実はもともと福祉には関心がなく、空手のプロを目指しながら電気工事の仕事で生計を立てていました。
きっかけは、知人から「福祉事業をやりたいから手伝ってほしい」と頼まれたことでした。当初はあまり乗り気ではなかったものの、説得されてとある施設を見学することに。施設を訪れた際、建物の状態などについて率直な疑問を口にしました。すると、案内した職員と意見が食い違い、議論に発展してしまったのです。そして、最終的に、その職員の方から「あなたは福祉に向いていない」と断言されたのです。
当時、福祉のことは全くわかりませんでした。しかしその一言が私の心に火をつけ、「福祉をやってやる」とその場で決意したのです。すぐに施設をつくろうと考え、地元の役所に相談に行ったものの、実績も資金もないことから取り合ってもらえませんでした。その後、何の準備もアポイントもないまま厚生省(後の厚生労働省)に向かいます。入り口で警備員に止められましたが、その場にいた警備課長の計らいで中に入ることができ、国の福祉制度について学びました。これが、後に日本で初めて訪問入浴サービスを事業化する、大きな第一歩となりました。
ーー福祉の道を志してから、どのような気づきがありましたか。
森山典明:
在宅福祉の実態を知るため、役所の紹介で民生委員(※1)の家庭訪問に同行することになりました。そこでまず驚いたことがあります。介護が必要なご家庭を訪問する際、「目立たないよう裏口から入る」というのが当時の常識でした。世間体を気にする家族への”配慮”でしたが、この「こそこそする」ような慣習に、強い違和感を覚えました。
私はあえてその慣習を破り、正面玄関の呼び鈴を鳴らしました。家の中から「裏へ回ってください」と言われても応じず、玄関から声をかけ続けました。最終的には家の人も玄関から中へ入れてくれました。
当時、在宅介護は世間体を気にして隠すのが当たり前でした。この慣習を打ち破った出来事が、「介護は隠すものではない」「堂々と支えるべきだ」という思いを強く持つにいたり、私たちの姿勢の原点となったのです。
(※1)民生委員:地域住民の福祉向上のために活動するボランティアのこと。
ーー日本初となる訪問入浴サービスは、どのようにして生まれたのでしょうか。
森山典明:
現場の本当のニーズを知るために、約4,000人へのアンケートを実施しました。そこで浮き彫りになったのが、「子供が独立し老夫婦のみで寂しい」「町医者が減り続けて健康不安」「死ぬ前にお風呂に入りたい」という切実な声です。特に寝たきりの方は長年入浴できず、褥瘡(じょくそう)(※2)に苦しむ方もいらっしゃいました。体を清潔にし、血行を良くすることこそが必要だと確信し、安心安全な民間サービスを売りに看護師が同行する訪問入浴サービスを始めたのです。
サービスを開始してから、ご家族からいただく「心からありがとう」という言葉の重みは、他の何物にも代えがたいものでした。そして、サービスを受けられた方から「人生で一番幸せな瞬間だった」と言われたことも一度や二度ではありません。このことから、もっと喜んでもらおうと何よりもお客様を第一に考え、最高のサービスを届けることに全力を注ぐという姿勢が固まりました。
(※2)褥瘡(じょくそう):いわゆる「床ずれ」のこと。体重で圧迫された部分の血流が悪化し、皮膚の組織が壊死する状態。
「お客様第一主義」を貫く組織づくりの神髄

ーー貴社が創業以来、一貫して大切にされている理念は何ですか。
森山典明:
「お客様第一主義」と、その方の生きがいを支える「生きがい支援」です。弊社の事業は在宅介護サービスが中心です。中核である訪問入浴をはじめ、高齢者や障がいのある方を支えています。それだけでなく、要介護状態の手前の方を支える「フレイル予防」。さらには、働く世代向けの「メンタルヘルス事業」も展開しています。
あらゆる世代の生きがいを支えることこそ、私たちの使命だと考えています。大手では難しいとされる在宅サービスにこだわり、社会インフラとして確立させる。この理念は、会社が大きくなっても決して揺らぐことのない根幹です。
ーー人材育成において重視されていることをお聞かせください。
森山典明:
介護のプロフェッショナルに必要なのは「多様性への対応力」だと考えています。そのため、知識や技術を学ぶ「実務研修」に加え、個々の能力や個性を伸ばす「能力開発研修」にも力を入れています。かつてベテラン中心だったこの業界に、あえて若い人材を積極的に採用したのも、多様性を重視してのことです。経験が浅くとも、真心を持ってお客様に接することは、質の高いサービスの一つの形なのです。私は、サービスの「質」とは技術だけでなく、電話応対からスタッフの立ち居振る舞いまで、会社の全てを含むと考えています。
日本の介護を世界のスタンダードへと導く挑戦
ーー今後のビジョンについて、どのようにお考えでしょうか。
森山典明:
介護の役割は、治療が目的の医療とは異なり、その方の人生の最後の瞬間まで生活の質を支え続けることです。しかし今、業界は物価高騰と人件費上昇という大きな課題に直面しています。私は一般社団法人日本在宅介護協会の会長として国に働きかけ、この難局を乗り越えようと活動しています。同時に、会社としてもDXを推進し、効率化を図ることで、持続可能なサービス提供体制を構築していきます。
ーー海外展開についても、お聞かせいただけますか。
森山典明:
日本の質の高い介護サービスは、世界でも必要とされています。弊社は9年前から中国で事業を展開しています。多くの日本企業が撤退する中、事業を継続できている数少ない企業の一つです。中国政府からも大きな期待を寄せられています。市や省の幹部の方々が、わざわざ弊社へ視察に来られることもあるほどです。
高齢化は中国だけでなく、世界中で加速する大きな潮流です。まずは中国で成功モデルを確立させます。そこで培ったノウハウを活かし、将来的には世界の高齢社会を支えたいと考えています。日本の介護を、世界のスタンダードにしていくことが目標です。
ーー貴社で働く魅力を教えてください。
森山典明:
介護業界はこれからの高齢社会に不可欠な、社会的意義が非常に大きい仕事です。お客様やご家族からいただく「ありがとう」という言葉は何よりの励みです。「人生で一番幸せだった」という一言は、大きなやりがいにつながります。
弊社は在宅サービスという難易度の高い事業にこだわっているため、決して楽な仕事ではありません。しかし、だからこそ他では得られない本物の「実力」が身につきます。若いうちから責任ある仕事を任されることもあります。個々の強みを伸ばす自由な社風の中で、早期のキャリアアップも可能です。ここで得た経験は、必ずや皆さんの人生の大きな財産になるはずです。
絶え間なき挑戦を続けるための三つの信念
ーー最後に、社長が経営者として大切にされている信念をお聞かせください。
森山典明:
私の行動の源泉には、「自由」「正義」「挑戦」という三つの信念があります。常識にとらわれない「自由」な発想。正しく社会に貢献する「正義」の心。そして、常に新しい価値に戦いを挑む「挑戦」の精神です。私たちは在宅サービスのパイオニアとして、この分野を社会インフラとして確立させる責任があると考えています。これからも初心を忘れず、訪問入浴のパイオニアとして業界の未来を切り拓くために、挑戦を続けていきます。
編集後記
インタビューを通じて見えてきたのは、常識破りな行動力の裏側にある、人間味あふれる誠実な人柄だった。「人生で一番幸せな瞬間だった」という利用者の言葉を、何よりも大切にする。その一心で、同氏は業界のあらゆる壁に挑み続けてきた。「強くなければ人を助けられない」という信念。それは、目の前の一人を守りたいという優しさを貫くための覚悟の表れなのだろう。一人の青年の反骨心から始まった事業は、今や日本の介護を支える社会インフラとなった。同社のこれからの挑戦が、日本の介護の未来を明るく照らすだろう。

森山典明/1951年生まれ、新潟県出身。1973年、日本初の民間在宅介護企業アサヒサンクリーン株式会社設立に参加。1996年にアースサポート株式会社事業開始。現在は一般社団法人日本在宅介護協会会長、川崎市福祉サービス協議会会長、介護保険サービス事業者調布連絡協議会会長、渋谷区地域福祉サービス協議会副会長、ISO/TC314/WG8国内委員、東京都医師会委員他、多数の団体理事・委員を兼任している。