
創業60周年を迎えた株式会社ヤマイチテクノは、オフィスのトータルサポートから官公庁向けのシステム開発、3D計測技術に至るまで、多様な事業を柱に顧客の課題解決を支援している。特に中核事業であるソリューション事業では、OA機器の提供にとどまらず、顧客の生産性向上とDXを力強く推進する。異業種での経験を経て家業を継いだ代表取締役社長、山脇慎也氏は、従業員満足度を経営の根幹に据え、福利厚生の拡充やオフィス改革を断行してきた。顧客と社員、双方の成長を見据える山脇氏に、その経営哲学と会社の未来像を聞いた。
異業種で培った経営の視座と家業承継への覚悟
ーー貴社へ入社されるまでのご経歴についてお聞かせください。
山脇慎也:
大学時代、家業を継ぐことは全く考えておらず、就職活動を経て当時興味のあったオーナー系企業を選びました。その会社では、代表者が社内外からどう見られているかを肌で感じられたほか、支店長としてお客様からのクレーム対応などを通じ、多少のことでは動じない精神的な耐性も身につきました。
社会人4年目を過ぎた頃から自身の将来を考え、家業に戻るための修業としてお取引のあるメーカー系企業で2年間経験を積み、業界のビジネスモデルや財務の知識などを集中的に習得しました。
ーー貴社入社後、どのようなお仕事をされていましたか。
山脇慎也:
最初に財務部へ配属されました。弟が営業部門で経験を積んでいたため、「営業と管理部門で分担した方が良い」という父の考えがあったようです。結果として、特定の事業に偏らず会社全体を広く見渡せる立場からキャリアを始めることができました。
多様な事業と幅広い顧客層が生む揺るぎない経営基盤
ーー貴社の事業内容について詳しく教えてください。
山脇慎也:
弊社の事業は4つの柱から成ります。まず、売上の約6割を占める中核事業であるソリューション事業です。OA機器やオフィス家具、クラウドサービスといったオフィスを構成するあらゆる商材の販売とサポートを通じて、お客様の生産性向上やDXを支援しています。
次に、売上の3割弱を占めているトータルオフィスサービス事業です。こちらは建設現場向けのOA機器や監視カメラのレンタル事業のほか、名刺や会社案内といった印刷物、さらには古い契約書や大きな図面などをスキャンして電子データ化するサービスも提供しています。
3つ目のデジタルソリューション事業は、官公庁向けのシステムを個別に開発する専門部隊です。たとえば、ダムや河川を維持管理するためのシステム、地図情報と連動して地下の水道管などを可視化するソフトウェアなど、お客様の固有のニーズに合わせた開発実績があります。
そして最後の柱が、最も新しい事業である3Dソリューション事業です。3Dレーザースキャナーという特殊な計測器を使用します。たとえば、図面のない歴史的建造物をデータ化してリノベーションに活用することもあります。また、工場の生産ラインが既存設備と干渉しないかシミュレーションするなど、活用の幅は広がる一方です。機器の販売やレンタルだけでなく、計測の代行からCADデータ化まで一貫して対応しているのが弊社の強みです。
ーー多角的な事業展開以外に、貴社が持つ独自の強みは何でしょうか。
山脇慎也:
お客様の層が個人事業主から上場企業までと非常に幅広い点です。これにより、景気の影響を受けにくい安定した経営基盤が築けています。また、祖父の代から60年以上お取引が続くお客様も多く、世代を超えた信頼関係は私たちの大きな財産です。
経営の根幹にある従業員満足 社員の働きがいを追求する信念

ーー経営において、特に大切にされていることは何ですか。
山脇慎也:
顧客満足度はもちろん大切ですが、近年は従業員満足度(ES)も同様に重要だと考えています。専務時代から、社員が働きやすい環境づくりを継続してきました。具体的には、福利厚生サービス「リロクラブ」や企業年金制度を導入しました。さらに、住宅手当や若手向けのキャリアアップ支援手当も整備し、特に年間12万円を上限とする奨学金返還支援制度は好評です。また、本社ビルをリニューアルしてフリーアドレスを導入するなど、物理的な環境も一新しました。あわせて、中期経営計画の策定や内部監査室の設置といったコンプライアンス強化にも努めています。
ーー社員間のコミュニケーションはいかがですか。
山脇慎也:
毎月開催する「ベストセールス食事会」は、部門を超えた交流の場として社員の楽しみになっています。社員発案のボウリング大会には、90名近くが集まります。60周年記念の社員旅行にほぼ全員が参加するなど、社員同士の仲の良さがうかがえる機会は多いですね。
DX推進とM&Aを両輪とした次なるステージへの成長戦略
ーー採用や人事制度においては、どのような点に注力されていますか。
山脇慎也:
採用では入社後のミスマッチ解消を重視し、対面での説明会や若手社員との座談会を設けています。今後は支店での新卒採用が課題です。人事制度は、常に時代に合わせた見直しを続けています。これからは若手だけでなく、高齢の社員が定年後も活躍できる仕組みづくりが重要です。
ーー会社として目指す今後のビジョンについてお聞かせください。
山脇慎也:
まずはお客様へのDX支援と自社のDX推進、この両輪をしっかり回すことです。そして常に新しい商品やサービスを見つけ、お客様の半歩でも一歩でも先を行ける提案を続けたいと考えています。また、中期的な目標としてM&Aも実行する方針です。
加えて、社内の風通しを良くして現場の声を吸い上げ、お客様の世代交代にも寄り添いながら、社員とお客様と共に成長していくのが私の目指す姿です。
編集後記
インタビューを通して、社員一人ひとりへの温かな眼差しと、働きがいのある環境づくりへの強い意志が感じられた。その視線は常に、会社の礎である「社員」へと注がれている。手厚い福利厚生や活発なコミュニケーションは、社員の満足が顧客へのより良いサービスにつながるという信念の表れだろう。60年の歴史を礎に、DXやM&Aという新たな翼を広げる同社。人を大切にするリーダーのもと、これからも続いていくヤマイチテクノの挑戦に期待が寄せられる。

山脇慎也/1984年大阪府生まれ。関西大学卒業後は株式会社東京リーガルマインドへ入社。その後、リコージャパン株式会社へ入社(リコーリース株式会社へ出向)し、2年の修業期間を経て、2013年に株式会社ヤマイチテクノに入社。2024年に同社代表取締役社長に就任。