※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

創業100周年を目前に控える株式会社長谷川綿行。医療用消耗品の製造販売を手掛ける同社は、価格競争の厳しい業界において、付加価値の高い製品開発と顧客との密な信頼関係を軸に独自の地位を築いている。その変革を牽引するのが、4代目社長の長谷川豪氏である。同氏は、外資系製薬会社での経験を糧に家業へ戻り、「薄利多売からの脱却」と「関わる全ての人を笑顔にする」という強い信念を掲げる。実績で信頼を勝ち取り、未来を見据える若きリーダーの情熱とビジョンに迫った。

4代目としての覚悟と挑戦、製薬会社から家業への道

ーー将来、会社を継ぐことは意識していたのでしょうか?

長谷川豪:
長男として、小学校の頃からいずれは会社を継ぐのだろうと漠然と考えていました。父から継ぐように言われたことは一度もなく、就職も自由に選びましたが、その意識があったからこそ、どんな業界でも通用する営業職を志望したのです。

そして、家業の医療業界にもつながる製薬会社の営業、いわゆるMRという仕事を選びました。そこでは、大病院のドクターと直接お話しする機会が多くあり、先生方のニーズを聞きながら自社の薬を提案することに楽しさを感じましたね。会社指定のマニュアルや情報提供の研修はありましたが、それだけでドクターの信頼を得られるわけではありません。製品を一方的に売り込むのではなく、先生方のニーズに真摯に耳を傾け、エビデンスに基づいた提案を重ねる中で、最終的には人間性が大切だと痛感しました。この経験は、現在の仕事にも活かされています。

ーーその後、家業へ戻られたということですね。

長谷川豪:
前職で5年ほど勤務した後、家業を継ぐために弊社に入社しました。入社してまず考えたのは、社員の信頼を得るために実績を示すことの重要性です。そこで、社長の息子という立場ではなく、一人の社員として一般職からスタートし、製造現場や各部署で業務を学びました。その後は営業として、当時はまだ駐在員がいなかった広島県と沖縄県を名古屋から出張ベースで訪問し、新たな市場の開拓を行いました。

ーー社長就任までに、特に注力されたことを教えてください。

長谷川豪:
一つは、営業手法の革新です。それまではお客様と1対1で向き合う営業が中心でしたが、前職の経験を活かし、看護師の方々を対象としたセミナーを企画・実施しました。一度に多くの方へ製品をPRするこの新たな手法は、これまで弊社では行われていなかった取り組みであり、効率的な市場開拓と売上拡大に貢献しています。

もう一つは新規事業の立ち上げです。抗がん剤の知識を活かし、薬剤師の方を被曝暴露から守るための曝露対策製品の事業を新たに始め、軌道に乗せることに成功しました。そのような実績が社員にも認められ、徐々に次期社長として信頼してもらえるようになりました。

「物売り」から「価値提供」へ、長谷川綿行の変革と強み

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

長谷川豪:
マスクやガーゼ、グローブといった医療用の消耗品の製造販売を全国で展開しています。強みは、安易な価格戦略に走らず、営業やコールセンターを含めた密着したサービス提供によって、お客様との信頼を築いている点です。また、創業100年という歴史が育んだ信頼も大きいと感じます。他社にはない点として、海外の取引工場と商社を介さず直接交渉していることも、弊社の強みです。

ーー今後の製品開発について、その戦略と具体的な進め方を教えてください。

長谷川豪:
一番は、薄利多売の価格競争に巻き込まれる「物売り」から脱却するという目標です。従来のビジネスモデルでは利益が圧迫されてきているため、他社にはない付加価値を持った製品開発で状況を打破したいと考えています。

戦略としては、誰でも参入できる市場ではなく、たとえニッチであっても当社がトップシェアを取れる市場を意図的に狙っています。そのために最も重要なのが、エンドユーザーであるドクターや看護師の方々との接点をできる限り多く持つことです。治療技術の進歩によって治療法が変われば、それを支えるサポートケア製品へのニーズも変化します。その現場の声をいち早くキャッチし、商品開発に活かすことを徹底しています。

関わる全ての人を笑顔に、未来を築く組織づくり

ーー5年後、10年後の会社のビジョンについてお聞かせください。

長谷川豪:
経営理念に「弊社に関わる全ての人を笑顔にする」と掲げており、その実現のために今、最も力を注いでいるのが「社員の待遇改善」です。以前、ある社員との会話の中で「給与以外は良い会社ですよね」という言葉が心に残り、業績の伸びを社員の頑張りに応える形で給与や賞与にしっかり反映させる仕組みづくりを、社員と約束しながら進めています。

同時に、社員が成長できる環境づくりも不可欠です。特に幹部社員には、経営を自分事として考えてもらうため、私自身が受講して効果を実感した外部の高度な研修に、費用を惜しまず投資しています。

採用については、むやみに組織の規模を追うのではなく、一人ひとりが持つ個性や能力を伸ばし、共に成長していける組織を目指しています。これまでは戦力補充のための中途採用が主でしたが、今後は会社の未来を見据え、新卒や第二新卒といった若い世代を自社でしっかりと育て、長く活躍してもらえるような計画的な採用に切り替えていきたいと考えています。待遇改善、人材育成、そして未来を見据えた採用を通じて、社員一人ひとりが輝ける会社をつくっていくことが私の目標です。

ーー最後に、読者へ伝えたいメッセージをお願いします。

長谷川豪:
今はまだ一部の医療機関でしか知られていませんが、一般の方にも「あ、これも長谷川綿行の製品なんだ」と思っていただけるような製品を開発したいと考えています。それが実現できれば、社員のモチベーションアップや、未来を担う若い人材の採用にもつながるはずです。そのための挑戦を、これからも続けていきます。

編集後記

外資系企業で営業の最前線を経験し、家業に戻ってからは一般職から実績を積み上げてきた長谷川氏。その言葉の端々からは、現状を冷静に分析する客観性と、未来を切り開こうとする強い意志が感じられた。「物売りからの脱却」と「社員第一の経営」という2つの大きな目標は、決して簡単ではない。しかし、社員一人ひとりと真摯に向き合い、共に成長しようとする同氏のリーダーシップがあれば、100年の歴史を持つ企業はさらに力強く、新しい時代へと歩みを進めていくだろう。

長谷川豪/1986年愛知県生まれ、早稲田大学卒。外資系製薬会社に入社し、5年の修業期間を経て2013年に株式会社長谷川綿行へ入社。2022年に同社代表取締役社長に就任。「関わる全ての人を笑顔にする」という経営理念のもと、医療用消耗品の製造販売だけでなく、「食」を通じての健康づくりの活動にも注力している。