※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

2004年に福岡県小郡市で創業した株式会社Braveridge。現在の事業の根幹である「IoT(Internet of Things)」は、さまざまな「モノ」をインターネットに接続する技術だ。代表取締役社長の小橋泰成氏に、起業のきっかけや事業内容、大切にしている思いについて聞いた。

趣味で始めた「電子回路の設計」に熱中――世界に通用するエンジニアへ

ーーエンジニアの道へ進んだ経緯をお話しいただけますか。

小橋泰成:
やりたいことが見つからなかった大学時代に、電子工作キットを入手したことがきっかけです。1989年の物価で4万円する商品でしたが、「未知のジャンルに挑戦しなければ」と購入を決めました。キットにのめり込んだ結果、「電子回路の設計を理解したい」と考え、独学で電気理論をマスターしました。

僕が設計に没頭した真空管アンプは、1948年に半導体素子のトランジスタが実用化されるまで音楽やラジオを聴くデバイスとして活躍したものです。「真空管」という趣味の世界で若年だった僕は、ショップで出会う先輩方に大変かわいがられました。

ーー前職ではどのような経験をされたのでしょうか?

小橋泰成:
新卒で九州松下電器へ入社し、希望した無線科へ配属されました。約50名の同期の中で最高評価を受け、2年目の終わりに「カスタムICの開発」という責任重大な任務を当時の課長に依頼されました。

説教が厳しい「怖い上司」であった課長と距離を置く同期が多い中で、僕は論理的・感情的思考でいえば「従業員として責任を果たす」という論理的思考を優先し、「1日3回は報告に行く」と決めた結果、課長との親交が深まったことは良い経験です。

「誰に対しても筋を通す」という哲学を胸に会社を設立

ーー創業の経緯をうかがえますか。

小橋泰成:
その後、メキシコの開発部門立ち上げで2年間の北米駐在を経て2002年末に帰国し独立。会社として立ち上げたのが弊社です。

僕は、家族と過ごす時間すら犠牲にして働いた時代を知っています。だからこそ、会社は社員への感謝を忘れてはいけないと考え、「技術者がきちんと報われる会社」をつくりたいと考えました。社員に対しても「素直であれ、謙虚であれ」という哲学を伝えています。

ーーいつ頃からご自身の哲学をお持ちなのでしょうか?

小橋泰成:
19歳の頃に父を亡くし、父から仕事の哲学を教わる機会がなかったものの、真空管の世界でさまざまな職種の人たちと関わることで「一本筋を通すこと」の大切さを知りました。相手が上司やお客様でも「筋が通らないことは絶対に許さない」という哲学は昔から変わりません。

誰もが「プライベートと仕事は一緒」と考え、自分が培ってきた常識や礼儀の延長線で仕事をするべきです。悲しいことに、世の中には仕事に限っては横柄で理不尽な態度をとる人がいます。自分の家族や親しい友人には絶対にしないような接し方は、仕事においてもしない、簡単なことです。

また、職場ではコミュニケーションをしやすい風土づくりも心がけています。社内では僕を含めて全員が敬語禁止です。会話は丁寧語で十分ですし、過剰な敬語を使うよりも心から敬意を持って接することが重要だと思うのです。仕事の哲学については、引退してから本を出版したいと考えていて、21歳の時にタイトルも決めました。

「IoT化をDIYするキット」でシステム化にかかる時間を大幅削減

ーー業務内容をご解説ください。

小橋泰成:
IoTシステムの開発には、各種センサーやそれらを中継するデバイス、その無線通信ネットワーク、クラウドにアプリケーションなど多岐に渡る分野の検討が必要となり、数ヶ月〜1年の実証を経て、本開発にさらに2〜3年など膨大な時間がかかることが多々あります。

その「時間を劇的に節約する」というコンセプトを掲げ、2023年にはIoT導入を支援する組立てモジュール「BravePI(ブレイブパイ)」、2024年にはそれをさらにプロの道具として突き詰めた「BraveJIG(ブレイブジグ)」を製品化しました。

「BraveJIG」はIoTをDIYできる仕組みで、Web開発者がBraveJIGを使うことによって、IoTのハードウェアや通信ネットワークなどの本来専門領域外の課題を解決でき、UXの向上など得意領域に専念することができます。あくまでも治具、ツールなので最終的な商品名やデザインは自由であり、完成品はお客様の商品になります。

ーーニーズがある業界や活用例もうかがえますか?

小橋泰成:
基本的には現場における「簡単に導入可能なIoT」を実現するツールとして、IoT化を実現する費用や時間が足りない企業現場や、新たなビジネスを見つけたいWeb開発者やシステム開発者を対象としています。ソフトウェアをつくれる人が「BraveJIG」を使えば速攻でIoTシステムができあがるのです。

「失敗」を前提にチャレンジできる環境づくり

ーー教育方針や今後の展望をお聞かせください。

小橋泰成:
「打率3割理論」と呼んでいますが、一流バッターでさえ3割しか打てないのだから「失敗するのは当たり前」と常々言っています。僕も人生で多くの失敗を繰り返す中で、いろいろなものをマスターしてきました。

実践で鍛えられる弊社では、短期間で一人前になり、自身の成長を楽しめます。人材には、人任せで成果を待つのではなく、仲間の納得を得た上で前進する「臨機応変な対処力」を養ってほしいですね。努力するほど損をする環境は技術者を育てません。会社としても、技術への対価はしっかりと払っていきたいと思います。

編集後記

Braveridgeでは、彼をもしのぐプロエンジニアが2人も活躍しているそうだ。「失敗してもいいからやってみて」というスタンスは、自分のアイデアを伝えながら成長できる環境だ。人材を流出させず、しっかりと育てるために企業が大切にするべき真のコミュニケーションとは何かを考えさせられた。自身の仕事の哲学を「若者にも実践してほしい」と語った小橋社長。末永い活躍と共に、いつか出版される本が楽しみだ。

小橋泰成/福岡県出身。九州芸術工科大学芸術工学部画像設計学科を卒業。大学在籍中、趣味で始めた電気設計にのめり込む。1992年、九州松下電器に入社。無線技術を中心とした回路設計に従事、コードレス電話機などの開発に携わる。アメリカ・メキシコの開発部門立ち上げのため北米に2年間駐在し、2002年に独立。2004年、株式会社Braveridgeを創業。2019年、代表取締役社長に就任。