
埼玉県に本社を構え、ゴムの持つ無限の可能性を追求し続ける株式会社朝日ラバー。同社は光学、医療・ライフサイエンス、機能、通信という4つの多様な事業分野で独自の技術力を発揮。社会のニーズに応える製品を供給している。創業者の「弾性無限への挑戦」という言葉を胸に、素材配合技術や精密加工技術を核としたものづくりで新たな価値を創造する同社。代表取締役社長である渡邉陽一郎氏に、その歩みと事業、そして未来への展望について話をうかがった。
ゴムとの出合い、研究開発の日々から一転して営業職へ
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
渡邉陽一郎:
私は福島県の出身で、地元の日本大学工学部に進学しました。研究室の先輩が在籍していたことや先生からの紹介がきっかけとなり、卒業後、朝日ラバーに入社しました。私が入社する3年ほど前に、福島に朝日ラバーの工場ができ、地元での採用を行っていたことも縁となりました。
ーー入社されてから、どのようなお仕事に取り組まれたのですか。
渡邉陽一郎:
入社後はまず、自動車関連の照明部品の開発に携わりました。具体的には、当時主力だった「アサカラー」という製品で、これは自動車のメーターやオーディオのバックライトに使われる電球に被せるシリコーンゴム製のカラーキャップです。その後、子会社であるファインラバー研究所(当時)に異動し、そこでスポーツ用品や医療関連製品の開発にも関わりました。新しい分野への挑戦でお客様に教わることも多く、製品を立ち上げていく過程はとても面白く、多くの学びがありました。
研究所で開発業務に携わりながら、岩手大学の大学院で研究する機会を得て、2009年に博士号を取得しました。ちょうどその頃、リーマンショックの影響で会社も厳しい状況になり、組織体制も大きく変わりました。私はそれまでの技術開発の経験を生かし、お客様の最前線で何か貢献できないかと、営業職へ異動。初めての営業でしたが、社内が少しでも明るくなるように、皆を盛り上げながら取り組みました。
その後、中国・上海に販売子会社を設立するプロジェクトが立ち上がり、私が現地に赴任することになりました。言葉も分からない状態からのスタートでしたが、3年間上海で過ごし、市場を開拓し、最終的には事業を黒字化させることができました。この海外での経験は、私にとって大きな財産となっています。
創業の精神「弾性無限への挑戦」多彩な4つのコア事業

ーー貴社事業内容について、概要を教えていただけますか。
渡邉陽一郎:
弊社は現在、光学事業、医療・ライフサイエンス事業、機能事業、通信事業の4つを柱としています。
光学事業では、創業時からの製品である「アサカラー」から進化し、LEDの光のばらつきを調整し、10,000色以上の光を実現する「ASA COLOR LED」が中心です。現在はLED化に対応した製品や自動運転に関わるセンサー部品などを開発。プロジェクションマッピングなど、光るもの全般に対応できる技術力で貢献しています。
医療・ライフサイエンス事業では、注射器や点滴に使われる医療用のゴム部品などを提供しています。最近では、医師のトレーニング用シミュレーターの開発にも注力しており、医療技術の向上にも貢献しています。将来的には医療・ライフサイエンス事業を第2の柱に育てるつもりです。
機能事業は、ゴムの弾性や防水性といった特性を生かした製品群で、スイッチ製品やパッキン、スポーツ用ゴム製品などが含まれます。現在、弊社の売上の約4割を占める主力事業です。
通信事業では、RFIDタグを主力製品としています。ゴム製のタグは防水性や耐久性に優れているのが特長です。将来的には自動車や医療分野などへの応用も期待される成長分野です。
ーー貴社が掲げる「弾性無限への挑戦」という言葉には、どのような思いが込められていますか。
渡邉陽一郎:
「弾性無限への挑戦」は、創業者が残した言葉です。これは、「ゴムという素材の持つ使い道や可能性は無限大だ。それを自分たちで考え、広げていきなさい」という意味が込められています。私たちはゴムメーカーとして、世の中がどう変わろうとも、ゴムの利用価値を高める提案を続けなければなりません。その可能性を広げていくことが私たちの使命です。この言葉は、まさに私たちの技術開発や事業展開の根幹にある精神です。
ーー採用や人材育成に関しては、どのようにお考えでしょうか。
渡邉陽一郎:
新卒、キャリア採用を問わず、弊社を好きになってくれる方、ゴムに興味がある方であれば大歓迎です。最近では、現場が本当に必要とする人材を迎えることが大切だと考えています。共に未来をつくっていける仲間として、採用の最終決定は現場の役員に任せています。「みんなが主役」というのが弊社の考え方であり、社員一人ひとりが輝ける会社でありたいです。
ゴムの可能性と魅力を最大化し、新しい価値を生み続ける
ーー最後に、会社が目指す将来像についてお聞かせください。
渡邉陽一郎:
まず、材料としてのゴムの魅力をさらに広げていきたいと考えています。ゴムは非常に多様な可能性を秘めた素材であり、その価値を多くの方に知っていただきたいです。
そして、弊社は2030年を見据えた10年計画の中間地点にあります。そこでは「後継とウェルビーイング」をテーマに掲げています。「後継」というと後継者のことと思われがちですが、ここでは事業の後継を指します。時代が変われば新しい製品で挑まなくてはならない。製品も事業も新陳代謝が必要だと考え、新しい価値を生み出し続けることへの挑戦を続けます。
「ウェルビーイング」については、社員がいきいきと働ける環境づくりを目指しています。そして、地域への貢献活動も積極的に行っていきます。子どもたちにゴムの面白さを伝える体験教室などの活動を通じて、地域社会とのつながりを深めていきたいです。
そして何よりも、日々新しいことに挑戦し、会社を支えてくれている社員たちには本当に感謝しています。社員の力がなければ、今の朝日ラバーはありません。社員みんなが主役となり、これからも「弾性無限への挑戦」の精神で、新たな価値を創造し続けます。
編集後記
ゴムという素材の限りない可能性を信じ、多岐にわたる分野で挑戦を続ける株式会社朝日ラバー。渡邉陽一郎社長の言葉からは、創業者から受け継がれる「弾性無限への挑戦」の精神が伝わってきた。また、社員や地域社会、さらには同業者までをも巻き込む「共創」への強い意志が感じられた。変化を恐れず、常に新しい価値を模索し続ける同社の未来に、期待したい。

渡邉陽一郎/1967年福島県生まれ、日本大学工学部卒。1989年に株式会社朝日ラバーに入社し、技術・研究職として、自動車インテリア照明、医療機器、スポーツ用具、通信など幅広い分野の製品開発に関わる。2009年に岩手大学大学院で博士号を取得。その後、営業職へ異動し、中国上海に販売子会社を設立するなど、最前線で事業拡大に貢献。2015年に同社代表取締役社長に就任。「弾性無限への挑戦」を掲げ、新たな価値創造に挑んでいる。