※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

市販薬(OTC医薬品)と専用アプリを連携させ、個人のセルフメディケーション(自己治療)体験を根底から変革しようとする株式会社エムボックス。同社はAGA(男性型脱毛症)領域の「HIX(ヒックス)」を皮切りに、データとテクノロジーを駆使した独自のサービスを展開している。今後は自社で医薬品開発も手がける「テクノロジードリブンな製薬会社」への進化を目指すという。医療家系に生まれ育ち、医薬品業界の可能性と課題を肌で感じてきた代表取締役CEOの金澤大介氏に、創業の原体験から事業の核心、そして日本のヘルスケアの未来像まで話を聞いた。

創業の原点。医薬品業界での経験から見出した「機会損失」

ーーセルフメディケーションという領域に着目された原体験についてお聞かせください。

金澤大介:
私は医療家系で生まれ育ち、製薬会社勤務や薬局経営を経験する中で、課題を感じていました。それは、医薬品は患者様の手に渡った後は放置されがちで、使い方を誤ると効果が変わってしまうという現実です。特にセルフメディケーション領域では、薬の選択も使用もご自身で行うため、医薬品が本来持つ効果や安全性を十分に発揮できていない方が多く、これは社会的にも機会損失だと感じていました。

ーー起業に至る直接的なきっかけは何だったのでしょうか。

金澤大介:
医療機器としてのアプリを開発するスタートアップに在籍した経験がエムボックスを創業する大きなきっかけでした。そこで、ソフトウェアが薬の利用体験を飛躍的に向上させる可能性を確信しました。私は医療従事者に囲まれた家庭で育ったので、日常的に医学的サポートが得られる環境でしたが、誰もが同じ環境ではありません。しかしながら、デジタル技術を使えば多くの人々も自分と同じように医療従事者からのケアが身近な環境を提供できると思いました。そして、多くの人々にとって専門的なケアが身近な環境を提供できる。製薬会社の知見と治療アプリ開発の経験を持つ自分こそが挑戦すべきだと考え、創業を決意しました。

AGA領域から始まった挑戦。アプリと医薬品を連動させる新体験

ーー数ある領域の中から、なぜAGA(男性型脱毛症)の領域から事業を始められたのでしょうか。

金澤大介:
理由はユーザー様の悩みが深く対象者が多いこと、症状があってもすぐに病院へは行きにくい領域であること、そして医薬品市場として大きいこと。この3点からAGA領域を選びました。

ーー主力サービスである「HIX」のコンセプトについて教えてください。

金澤大介:
私たちのサービスは、市販薬とアプリを併用し、一人でのセルフケアを、より安心で効果的なものにすることがコンセプトです。医薬品が症状を解決するのに対し、アプリは薬を飲む前の症状把握から服用後の効果実感まで、利用体験全体を向上させる役割を担います。この連携によって、医薬品が持つポテンシャルを最大限に引き出すことを目指しています。

ーー類似サービスと比べた際の、貴社ならではの強みは何ですか。

金澤大介:
アプリと医薬品を連動させたUX(ユーザー体験)デザインが私たちのサービスの肝です。それを支えるのが、アプリだけでなく、裏側のデータ蓄積から顧客管理までのシステムを全て自社で開発している点です。これにより顧客の声を迅速にサービス改善へ活かすフィードバックループを高速で回せる点が、私たちの競争力の源泉となっています。

苦難の先にあった成長。顧客との対話で乗り越えた創業期の壁

ーーこれまでに直面した困難や、それを乗り越えた経験についてお聞かせください。

金澤大介:
リリース当初、サービスが全くユーザー様に受け入れられなかった時期が一番の困難でした。そもそも市販薬とアプリを一緒に使うという行動習慣がなく、ユーザー数も売上も全く伸びず、厳しい状況が続いたのです。

その状況を打開するため、お客様の声に真摯に耳を傾け、厳しいデータからも目をそらさず、ひたすら向き合いました。ユーザビリティテストなどを通じて徹底的に分析し、改善、検証、実装というサイクルを回し続けることで、少しずつサービスを改善していきました。

「テクノロジードリブンな製薬会社」へ 日本の医療を変革する未来図

ーー今後の事業展開について、詳しくお聞かせください。

金澤大介:
私たちは今後、「テクノロジードリブンな製薬会社」を目指します。テクノロジーやデジタルを活用して経営や事業を最適化させる、新しい形の製薬会社です。自社で製薬機能を持つことで、サプライチェーンを統合できるため、自社医薬品の品質管理やコスト削減なども可能になり、競争優位性を強化することができます。私たちの強みはさらに強固なものになると考えています。

ーー日本のセルフメディケーションをどのように変えていきたいですか。

金澤大介:
テクノロジーの活用で、日本のセルフメディケーションが全ての方にとって快適で質の高い体験になる世界を実現するのが私たちのミッションです。現状の社会保障制度の維持が難しくなる中、セルフメディケーションの役割はますます重要になります。私たちがその変革をリードすることで、持続可能な医療システムの構築に貢献していきたいと考えています。

ミッションへの共感が原動力。変化を恐れない組織が求める仲間

ーー事業を推進していく上で、どのような方と一緒に働きたいとお考えですか。

金澤大介:
ミッションへの共感を前提に、「ヘルスケアプロフェッショナル」「顧客を主語に」
「最適解の追求」「即動力」「自律と共創」という5つのバリューに共感していただける方と働きたいです。これらは、ミッションを実現するために私たちが大切にしている共通の価値観です。

ーー最後に、未来の仲間に向けたメッセージをお願いします。

金澤大介:
弊社での仕事の魅力には、2つの軸があります。一つはヘルスケアという普遍的な領域の課題解決に貢献できる点。もう一つは、世の中にないサービスで人々の生活様式を変える挑戦ができる点です。私たちの挑戦はAGA領域から始まり、現在は便秘領域のサービスも開始しています。今後もさらに広い領域へと事業を拡大していきますので、この2つの軸に魅力を感じる方であれば、非常にやりがいのある仕事になるはずです。一緒に日本のコンシューマーヘルスケアの未来をつくっていきましょう。

編集後記

医療が身近な環境で育ち、その可能性と限界を誰よりも深く知る金澤氏。その言葉の端々からは、テクノロジーの力で既存の枠組みを打ち破り、日本のセルフメディケーションをあるべき姿へと導くのだという強い意志が感じられた。アプリと医薬品の融合は、単なる利便性の向上ではない。それは、一人ひとりが自身の健康と主体的に向き合うための、新しい羅針盤となる可能性を秘めている。エムボックスの挑戦は、医療と生活者の距離を縮め、日本のヘルスケアに大きな変革をもたらすに違いない。

金澤大介/武田薬品工業株式会社にて、マーケティング、営業等に従事。同社退社後、株式会社キュアアップにて禁煙アプリの法人向けサービス立ち上げに参画する傍ら、家業の薬局・介護、介護福祉施設を経営。医療・ヘルスケア業界において、複数業態での経験を通じて、テクノロジーを使って患者さんに寄り添ったサービスを届けたいと考え、2018年にM-box創業。早稲田大学MBA修了。薬剤師。