※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

少子高齢化が進む日本において、中小企業の事業承継は差し迫った課題である。後継者不在で店を畳むケースも増え、地域経済の損失は計り知れない。そんな現状に対し、株式会社ライトライトは「地域」を基点に新しい承継の形を提示している。代表取締役の齋藤隆太氏は、過去に立ち上げたクラウドファンディングの経験を礎に、オープンネーム事業承継「relay(リレイ)」を世に送り出し、新しい形の事業承継に挑んでいる。本記事では、齋藤社長が描く地域エコシステム像に迫る。

地域貢献を追い求めて生まれた「relay」

ーーこれまでのキャリアと、起業に至った経緯をおうかがいできますか。

齋藤隆太:
大学卒業後、2007年に株式会社USENへ新卒入社し、飲食・小売店向け法人営業を担当しました。学生時代のアルバイトでカフェの「お店づくり」をスタッフと共に行う中で、その面白さを強く感じたことが原体験となりました。この経験から、いつか自分自身で会社組織を立ち上げ、その「組織づくり」を社会でも実践したいという思いを抱くようになり、2008年に株式会社サーチフィールドを創業し、取締役として経営に携わりました。

そして、東日本大震災を機に「地元へ貢献する仕組み」を模索した結果、2012年、地域特化型クラウドファンディング「FAAVO」を立ち上げました。「FAAVO」の運営を安定させるため、全国各地に運営者を置くことにしました。それぞれのエリアで、たとえば「FAAVO宮崎」のような地域名を冠した形で展開し、地方の銀行・自治体・メディアとフランチャイズ方式で連携しました。全国の地場に根付く方々と連携して、フランチャイズ展開したのが一番の強みであり、差別化ポイントでした。

ーー事業を株式会社CAMPFIREへ譲渡されました理由をお聞かせください。

齋藤隆太:
ありがたいことに、「FAAVO」は黒字化できていて、経営は安定していました。しかし当時、クラウドファンディング業界はすごく盛り上がっていました。競合他社も増え、他社は大きな融資を受けてサービスを伸ばし始めていたのです。しかし、私達は自己資本で会社を運営していたので、年間予算に限りがあり、できる施策には限界がありました。そのあたりで結構差ができてしまっていたのです。

そのような中で、地域がより活性化されることを目指して、競合大手である株式会社CAMPFIREからのオファーを受け入れました。私自身もチームごと移籍し、約1年半運営に携わりました。その後、「地元と出身者をつなぐ」という原点を深化させるため、2020年に株式会社ライトライトを設立しました。

利益より社会的リターンを追求する伴走支援

ーー新たに立ち上げたサービス「relay」の特徴を教えてください。

齋藤隆太:
「relay」は事業承継を希望する方と承継候補をつなぐマッチングサービスです。最大の特徴は、事業者名を公開する「オープンネーム方式」で掲載を行なっている点です。地方の小規模事業は、閉じた情報網では魅力が伝わりません。そこで、記事形式で事業者の歴史や思いを可視化します。これにより、これまで危惧されてきた風評リスクより「出会いの機会」を優先しています。掲載後も成約まで伴走し、順調に相談件数が増えています。

ーーサービス提供においてこだわっている点はありますか。

齋藤隆太:
ITに不慣れな高齢経営者にも寄り添い、価値を伝えることを諦めない点です。記事化に数か月かかることもありますが、残すべき事業には徹底的に手間をかけても良いと考えています。自社の利益よりも「地域に事業を残す」という社会的リターンを優先するのが私たちの考え方です。

フルリモート体制で描く事業の未来と採用戦略

ーー貴社はフルリモート体制とうかがいました。その背景をお聞かせください。

齋藤隆太:
社員が「住みたい街で働く」こと自体が、地域課題の解決を実証すると考えています。普段はバーチャルオフィス「Gather」で朝礼を行い、週に一度、ランダムに選ばれたメンバーと雑談するシャッフルトークも実施しています。それに加え、特別なイベントなどがなくても、宮崎の本社で数日間仕事ができる「ようこそ宮崎補助」という福利厚生も活用し、リアルでの交流も促しています。これにより、全国17都道府県に散らばるメンバーが心理的安全性を保ちながら働ける環境を整えています。

ーー今後の「relay」が目指す姿を教えてください。

齋藤隆太:
「relay」を全国の自治体や承継を希望する事業者の最初の選択肢になれるよう、オープンネーム承継を社会実装させたいと考えています。承継後の経営支援コミュニティ「relays(リレイズ)」も強化し、個性豊かな個店が街に残るエコシステム(※1)を築きたいと考えています。

(※1)エコシステム::複数の企業や団体が連携し、それぞれの強みを生かしながら、新しい事業を展開し、共存共栄していく仕組み

ーー今後の取り組みと、強化する採用についてお聞かせください。

齋藤隆太:
現在、連携している自治体は約100を超えましたが、全国的に見ればまだ限定的です。今後は、農業分野や移住支援部署とも連携を拡大します。そして、頻繁な訪問が難しい弊社メンバーの代わりに現地で動く、地域コーディネーターを増員する方針です。

また、上場を視野に財務基盤を整えるため、CFO候補やCXO候補を募集中です。特にファイナンス戦略の構築、M&A、SaaS指標の改善に挑める人材を求めています。

私たちのバリュー「未知を拓く」「自走と共創」「こだわりぬく」に共鳴し、恐れずに未知へ踏み出せる方に仲間になってほしいと思っています。

編集後記

齋藤社長の「諦めない」という信念が、収益性と社会貢献を両立する事業モデルの原動力だ。情報をオープンにし、手間もコストも惜しまず伴走する手法。そして社員が「住みたい街で働く」ことを自ら実践する。その行動が、後継者不在に悩む地域に希望を灯すだろう。今後、多様な個店で賑わい、雇用・観光・文化の循環を促している風景が広がっていくのが楽しみだ。

齋藤隆太/法政大学人間環境学部卒。大学卒業後、株式会社USENに入社。2008年に株式会社サーチフィールド創業取締役として参画。2012年に地域特化型クラウドファンディング「FAAVO」を立ち上げ、2018年、株式会社CAMPFIREに事業譲渡。同社執行役員を経て、株式会社ライトライトを設立。2020年7月事業承継プラットフォーム「relay」をリリース。