※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

顧客が抱えるローンへの心理的障壁を取り払い、ローンサービスの新たなスタンダードを築くことを目指すGeNiE株式会社。親会社であるアコム株式会社で培われた豊富な経験と信用を基盤に、金融機能をさまざまなサービスに組み込む「エンベデッド・ファイナンス(※)」を推進する。業界の“冬の時代”を乗り越え、5年越しの構想を実現させた代表取締役社長、齊藤雄一郎氏。今回は、事業にかける思いと独自の経営理念についてうかがった。

(※)エンベデッド・ファイナンス:非金融企業が自社サービスに金融機能を組み込んで提供すること。

アコムでの原体験と5年越しで実現した社内起業

ーーこれまでのご経歴と、社内起業に至るまでの歩みをお聞かせください。

齊藤雄一郎:
大学卒業後、新卒でアコムに入社し、支店で窓口業務や営業などを担当しました。当時は駅前でティッシュを配るなど、現場での経験を経て、25歳のときに本社の経営企画部へ異動しました。

私が配属されて間もない2008年頃は、法改正や利息返還請求の問題があり、業界全体が事業を縮小する“冬の時代”でした。その中で、経営陣が事業の取捨選択をトップダウンで進める姿を間近で見て、ビジネスの核が何かを肌で感じることができました。厳しい時期でしたが経営者の感性に触れ、その姿に憧れを抱いたのが、経営者を志したきっかけです。

ーー経営者を志された後、ご自身のキャリアはどのように展開したのでしょうか。

齊藤雄一郎:
将来来るべき時代の変化を見据え、フィンテックの専門部署を立ち上げました。そして、現在のサービスの原型となる企画を会社に初めて提案したのです。

当時は、社内のインフラ整備が優先されたため、企画は一度見送られました。私はそこから再びチャンスをうかがい、マーケティング部門の責任者として3年ほど実績を積みました。最初に構想してから実に5年以上が経過していました。その後、温めていた企画を再度上申した結果、ついに会社設立の承認を得ることができたのです。

ーー事業化を決意した背景には何があったのでしょうか。

齊藤雄一郎:
大手プラットフォーマーから協業の打診があったものの、金融機関の重厚長大なシステムでは彼らのスピード感に応えられませんでした。そこで、別会社としてスピーディーに対応する必要性を感じたのです。また、LINEなどが金融サービスに参入し始めたことに危機感を覚えました。彼らの方が顧客理解で勝る可能性があり、私たちの強みが揺らぐかもしれないと考えたのです。

この時、経営陣には、「業界イメージを変えていくリーディングカンパニーとしての責務」を熱意を込めて提案しました。アコムは業界のナンバーワン企業として、目先の収益性だけでなく、業界全体の未来のためにこの事業を成し遂げる責任があると。ただ、最終的に企画が認められたのは、その内容以上に私自身への信用が大きかったと感じています。18年間で培った信用貯金があったからこそ、経営陣が「齊藤に賭けてみよう」と判断してくれたのだと、今でも感謝しています。

信頼のプロが掲げる理念と独自の強み

ーー経営者として大切にされている信念や理念について教えてください。

齊藤雄一郎:
「生きるうえで最も偉大な栄光は、決して転ばないことにあるのではない。転ぶたびに起き上がり続けることにある」という言葉を大切にしています。失敗を糧に学び、修正しながら事業を大きくしていく姿勢が何よりも重要です。社員にも「挑戦しないことの方が罪だ」と伝えています。

また、金融機関として、アコムの創業の精神である「信頼の輪」という文化も重んじています。お客様や取引先との一つ一つの出会いを大切にし、仲間を増やしていくことが企業運営の根幹にあると考えています。金融は「モノ」ではなく信用という仕組みそのものですから、「誰が」それを提供しているかが非常に重要になるのです。

そのため、会社のバリューの一つに「empathy(エンパシー)」を掲げています。これは、相手の立場になって深く共感するということです。私たちの事業提案に対して、相手には相手なりの正義や事情があります。それを理解せずして、信頼関係は築けません。常に相手を深く理解し、共感することを大切にするよう、社員には伝えています。

ーー貴社のサービスにおける他社にはない独自の強みは何だとお考えですか。

齊藤雄一郎:
まず、大企業の資本による安定供給力と、スタートアップならではのスピード感を両立している点です。システム基盤は2年かけて柔軟性の高いものを構築したため、ご要望があれば最短2週間でローンサービスをリリースできます。さらに、初期費用や月額費用をいただかないため、無料で始められるという手軽さも特徴です。この「スピード」「導入の手軽さ」「大手の安心感」という3点が、私たちの強みです。

また弊社にはアコム出身の社員が多く、お金を借りるお客様の心理を深く理解したプロフェッショナルが集っています。ローンの専門家が事業者様と共に事業を構築していくため、提携先の皆様にも大きな安心感をご提供できていると自負しています。これはゼロから立ち上げたスタートアップにはない、非常に大きな強みです。

金融が日常に溶け込む社会の実現へ

ーーこの事業を通じて、最終的にどのような社会を目指していますか。

齊藤雄一郎:
お金を借りることへの心理的な抵抗がない社会をつくることです。金融は目的ではなく、何かを実現するための手段です。これからの金融は、金融機関のブランドイメージだけで選ぶのではなく、日常で使うさまざまなサービスに溶け込んでいくべきだと考えています。私たちの取り組みが、その新しい金融の世界をつくる一助となればうれしいです。

ーー消費者金融のイメージを変えるための戦略についてお聞かせください。

齊藤雄一郎:
「消費者金融」という看板だけでは限界があります。だからこそ、私たちがアパレルやデジタルウォレットなど、さまざまな事業者様と組んで新しいローンサービスを20種類、30種類と生み出していく。アコムとは全く違うイメージでサービスを提供し、利用者を増やすことで、お金を借りることへの認識を多角的に変えていこうと考えています。

そのためにも3年後には提携先を現在の20社から50社に増やしたいです。プロダクトもローンだけでなく、後払いやウォレットへと拡張し、提携できる産業の幅を広げていく計画です。また、提携先のデータを活用して顧客理解を深め、一人ひとりに合った条件を提案する「ローンの再発明」も進めていきたいです。私たちがまず型をつくることで市場を活性化させたいと考えています。

ーー今後の組織づくりについて、どのようにお考えですか。

齊藤雄一郎:
根底にある思いやビジョンの方向性が合っていれば、役割が違っても共感し合えるはずです。そのためにビジョンは常に発信し続けます。また、私たちはまだ小さな組織だからこそ、社員にはポートフォリオのように複数の役割を担ってもらい、多様な経験をスピーディーに積める環境を大切にしています。

そして「半学半教」、つまり互いに尊重し、半分学び、半分教え合う文化を大切にしていきます。それぞれの専門性を認め合いながら組織を成長させていく。社員同士が、経営層と同じ視点で議論し、相互に意思決定をサポートできる関係性を築いていきたいです。

編集後記

アコムで18年かけて積み上げた実績と信用を元手に、業界のイメージを根底から変えようと挑戦する齊藤氏。その言葉からは、「業界の未来を背負う」という強い理念と、失敗を恐れず挑戦し続ける信念が感じられる。同社が推進する「エンベデッド・ファイナンス」は、単に金融機能を組み込むビジネスモデルに留まらない。金融を目的ではなく、人々の生活を豊かにするための手段へと変革し、すべての人にとって抵抗無く使える社会をつくるための、壮大な挑戦だ。「失敗を恐れず、転ぶたびに起き上がる」という同氏の言葉通り、同社の挑戦は、業界のスタンダードを塗り替えていくに違いない。

齊藤雄一郎/大学卒業後、アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部へ。以降、企画部門を中心に全社戦略の立案やマーケティング業務に従事。2016年、テクノロジー活用を推進すべく、イノベーション企画室を立ち上げ。デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発などに取り組む。マーケティング部門の責任者を経て、2022年4月、アコムの社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。