※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

近鉄グループの一員として、大阪、奈良、京都、三重、愛知の近鉄沿線を中心にレンタカー、リース、駐車・駐輪場の3つの事業を展開する近鉄レンタリース株式会社。同社を率いるのは、鉄道会社の技術者としてキャリアをスタートし、ゼネコン、地方ローカル鉄道、ロープウェイ会社への出向を経て、経営者の道へと進んだ榎本方士氏だ。2021年に業界特有の過当競争やコロナ禍で当時厳しい状況にあった同社に社長として赴任し、業績改善と持続的な成長、人手不足などの課題に取り組む。新たな価値創造を目指す榎本氏に、事業の強みと未来への展望、そしてともに働く仲間への思いを聞いた。

鉄道技術者から経営者へのキャリア転身

ーーこれまでのご経歴についておうかがいできますか。

榎本方士:
大学では街づくりに興味があったことや将来性も考えて環境工学を専攻しました。もともと鉄道が好きでしたので、鉄道事業を通じて私自身の地元である沿線地域の発展に貢献したいとの思いで近畿日本鉄道に入社しました。

入社後は鉄道土木施設の保守点検や改良工事を担当しました。数年経ったときに、名古屋市内の線路を長区間にわたり高架化する連続立体交差事業が本格化する動きがあり、その計画を担当することになりました。入社時の思いがかなう仕事に携わることができて、とても嬉しかったです。最終的に17年間、このプロジェクトに最初から最後まで携わりました。その間に管理職に昇進もしましたが、調査設計から現場施工、完成手続きまで、仕事の成果が目に見えることに楽しさとやりがいを感じました。地上にあった線路を夜間作業で高架線へ切り替えて朝一番の電車が無事に走行したときの達成感は、今でも忘れられません。

ーーその後のキャリアで、大きな転機となったご経験はありますか。

榎本方士:
引き続き高架化計画や線路の保守を担当した後、近鉄グループのゼネコンへ出向し、主に営業を担当しました。それまでの発注者から受注者へと立場が正反対になり、間違いなく視野が広がりました。数年経ち地方ローカル鉄道に運営責任者として出向し、公有民営化に取り組み、地元をはじめ多くの関係者の方々と協力しながら実現できました。

その後、別府ロープウェイに出向し社長に就任しましたが、観光サービス業の経営者として大いに勉強になりました。任期後半にコロナ禍に直面しましたが、その時の経験があったおかげで、当社の社長に就任してから臆することなく、さまざまな課題に対し解決策を進められたと思います。

ーーキャリアを通じて大切にされてきた考え方や信条はありますか。

榎本方士:
座右の銘が二つあります。一つは「Honesty is the best policy.」、正直は最善の策という言葉です。さまざまな策を巡らせるよりも、正直で誠実な言動こそが最善だという意味です。確かにそうしていれば不必要な心配やストレスも少なく、結果に対しても納得できる場合が多いように思います。

もう一つは「Think Globally, Act Locally !」です。これはもともと地球環境問題に関する言葉で、地球規模の環境保全のために各自が身近なところから行動しましょう!というものですが、ビジネスにも通じると考えています。会社全体、グループ全体、さらには社会全体のことを考えながら、まずは今直面している課題にしっかり取り組むことが必要ですし、逆に身近な取り組みができてこそ、大きな目標が達成できると考えています。

ーー貴社の事業内容について詳しくお聞かせください。

榎本方士:
当社の事業は、レンタカー事業、自動車・OA機器などのリース事業、そして駐車・駐輪場事業の三つの柱で成り立っています。レンタカー事業ではオリックスレンタカーのフランチャイジーとして、近鉄沿線の主要駅を中心に16店舗を、カーシェアステーション2か所を運営しており、鉄道の二次交通として近鉄沿線の活性化にも貢献しています。アフターコロナになりインバウンドを含む個人のお客様が増加していますが、法人のお客様、車検や事故による代車のご要望にも対応しています。リース事業ではカーリースが主で、大部分が法人のお客様ですが、オリックス自動車と提携したマイカーリースという個人のお客様へのプランも扱っています。レンタカーもカーリースもお客様に車をお貸しすることは変わりませんが、ご要望に応じてそれらを組み合わせて費用面や車両管理面で最適な形のご提案ができます。また駐車場19か所、駐輪場22か所はほとんどが近鉄駅前で運営しており、鉄道ご利用のお客様、地元の方々のお役に立っています。

現場重視で進める業務改革 顧客からの感謝が原動力 やりがいを育む制度

ーー今の会社に社長就任後、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

榎本方士:
私が就任した2021年はコロナ禍の渦中でした。それ以前からもレンタカー事業では過当競争もあり、経営的に極めて厳しい状況でした。しかし、そのような状況であったがゆえに、様々な改善策を勇気をもって打ち出せたと思います。親会社である近鉄グループホールディングスやこれまで会社を支えてきた社員たちと、お客様動向の変化などを見ながら、営業体制、配備車両、オペレーションの適切化・効率化などの検討を重ね、最終的には私が判断して改善策を進めました。現在では安定して利益計上できるようになり、社員が安心して働ける会社になったと思います。

今は世の中がかつてないスピードで変化しており、お客様の価値観は一層多様化し、それらに対応しなければ今後の持続的な会社の発展はありません。同時に多くの業界と同様、深刻な「人手不足」に直面しています。IT技術の導入などにより、業務の効率化と省人化に取り組んでいます。

具体的には、レンタカー店舗の一部を無人営業可能なカーシェアステーションへと転換したり、駐車・駐輪場では機械設備の導入を進めたりするなどして、省人化を図っています。ただ、たとえ技術の進歩により省人化システムで円滑な接客ができたとしても、心のこもったサービスを提供することで、お客様にご満足いただけることが最も大切だと考えています。そのため社員教育にも力を入れています。

かつては集合形式の研修を行っていましたが、現在はレンタカー各店舗でまず管理職が監督者である店長・副店長に講習し、その後、店長・副店長が講師となり最前線で働くスタッフへ講習しています。本社の管理職も立会し、現場と本社が一体となって社員のスキルアップをサポートする体制を整えています。一方で、社員のモチベーションを高める仕組みとして、お客様からお褒めの言葉をいただいた場合や交通事故防止の取り組みで成果が出た社員などを毎月表彰しています。

今後ますます進む「所有から利用へ」の潮流

ーー今後の事業の将来性をどのように見ていらっしゃいますか。

榎本方士:
まず、現在さまざまな交通手段でドライバー不足が課題としてありますが、お客様自身がドライバーとなるレンタカーは、それ自身が解決策といえます。

また、自動車については、安全性向上のための高性能化や環境面への配慮からエコカーの普及などに伴い価格の高騰が避けられない状況であり、「所有から利用へ」の潮流が確実に進んでおり、レンタカー、カーリースには追い風が吹いています。「買うより借りよう」です。将来、自動運転が実現すればさらにその傾向は強まります。このように将来の需要増大は見込めますが、機会を逸することなく成長を続けていくには、新技術を活用した業態変更とサービス拡充が不可欠です。たとえば将来、レンタカーとカーシェアが融合できれば、24時間対応で今以上のサービスを提供できるようになります。

ーー貴社ではどのような人材を求めていらっしゃいますか。

榎本方士:
車が好きで、お客様と接することが好きな方を求めています。5年後、10年後には、車はさらに進化しているでしょう。当社であれば未来のモビリティビジネスに携わることができます。新技術を導入して新たな営業体制を構築していくために、現場業務を熟知しマネジメント意識を持ちながら、新しい現場店舗のあり方、企業価値の創造に挑戦していくことで、ヒトやモノの移動を支える当社の仕事を通じて社会に貢献できます。

ーー最後に、応募を考えている若者へメッセージをお願いします。

榎本方士:
導入していく新技術をどのように活用するのが望ましいのか、最終的には人と人とがかかわりあってサービスが提供されます。お客様からの「ありがとう!」という言葉や笑顔にやりがいと幸福感を感じながら、私たちと一緒に仕事をして一緒に成長していきませんか。当社にご興味をお持ちくださる方のご応募を心からお待ちしています。

編集後記

会社人生の前半は、鉄道線路の高架化という大規模プロジェクトに携わった技術者として歩んだ榎本氏。その後、ゼネコンへの出向で立場・視点の異なる業務経験を経て、経営者へと転身を遂げた。榎本氏のキャリアは、一つの道を究める専門性と、変化を恐れない柔軟性を兼ね備えている。その根底にあるのは、「正直は最善の策」という誠実な哲学だ。過当競争やコロナ禍という逆境を乗り越え、現場と一体になり新技術も導入しながら未来を切り拓こうとしている今、その視線は常にお客様、そして現場で汗を流す社員へと向けられている。同社の挑戦は、これからも続いていくに違いない。

榎本方士(えのもと まさし)/1962年大阪府生まれ。大学院修了後、1987年近畿日本鉄道株式会社(現在・近鉄グループホールディングス株式会社)に入社。以降、鉄道施設の改良工事や保守を担当。その後、大日本土木株式会社に出向し主に営業を担当。2013年伊賀鉄道株式会社代表取締役常務、2017年別府ロープウェイ株式会社代表取締役社長、2021年近鉄レンタリース株式会社代表取締役社長に就任。