※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

医療×ITの分野で、新しい常識を生み出そうとしている企業がある。正しいオンライン診療を通じて、美容皮膚領域の課題解決に取り組む株式会社Neautechだ。同社は単なるサービスの提供ではなく、デジタル技術によって治療の継続を徹底的にサポートする点を強みとしている。代表取締役社長の水本明宏氏は、20歳の時に直面した祖父の死を、自身の覚悟の原点とし、その信念は「迷ったら進む」という行動原則に凝縮されている。資金が尽きる3ヶ月前の事業撤退を経て、医療アクセスの変革という壮大なビジョンに挑む同氏の揺るぎない覚悟と、その軌跡を追う。

人生の転機から見出した起業への思い

ーー事業を始められた原点についてお聞かせください。

水本明宏:
もともと20歳頃までは保守的なタイプでした。しかし、20歳の時に祖父が亡くなったことがきっかけとなり、初めて「死」を意識しました。そして、「人生いつ終わるかわからない」「このままでいいのか?」と真剣に考えるようになったのです。

その時、自分の中で「迷ったらGo」というルールを決めました。やらない理由を探すのではなく、迷ったら進む。このままでは人生を緩やかに終えてしまうという危機感から、「自分は社会に、人々に何を残すべきか」を真剣に考えたのです。その考えから、ビジネスの世界で力をつける必要があると感じたのが最初のスタートでした。

ーーその後は、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

水本明宏:
新卒で入社した人材系のメガベンチャーでは、ITを活用して人材業界の課題を解決する新規事業などに携わっていました。

転機となったのは2020年です。当時、オンライン診療の案件に携わっていましたが、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大します。その影響で規制が変わり、日本でも一時的にオンライン診療が解禁されたのです。医療は規制の多い分野ですが、前職で法律や規制を見極めながら新しい価値を作ってきた経験が今に活かされています。

当時、上司から「意思決定の数を若いうちに増やせ」と言われ、とにかく早く責任を持ちたいと考えました。23歳頃には責任者として多くの失敗を経験しました。その土台があるからこそ、今の経営に繋がっています。

資金が尽きる3ヶ月前の決断とV字回復

ーー創業期に最も苦労されたのはどのようなことですか。

水本明宏:
2022年の創業当初は、オフラインで展開していた定額制の美容クリニック事業が中心でした。しかし、オフラインでの事業がなかなか成長せず、キャッシュは減り続けました。「ANS.(アンス)」を2023年1月にリリースするまでの間、うまくいくのかもわからない中での時間との勝負は、非常にプレッシャーでした。

ーーその状況をどのように乗り越えられたのでしょうか。

水本明宏:
2023年8月、会社の資金が尽きる3ヶ月前に、オフライン事業の完全撤退と、私が代表に就任するという経営体制の変更を決断しました。オンライン事業は伸びていましたし、何より、前職から私を信じてついてきてくれたメンバーや新しくキャリア採用したメンバーの人生の時間を預かっているという強い責任感があったため「諦めるわけにはいかない」と強く思っていたのです。リスクを取ることに、ためらいはありませんでした。

治療の継続を支える仕組みと組織に根付く顧客主義

ーー貴社の事業内容について、おうかがいできますか。

水本明宏:
オンラインで完結する美肌治療サービス「ANS.(アンス)」を展開しています。医療とITを組み合わせた、ヘルスケア分野の企業です。

弊社の最大の強みは、「治療の継続がしやすい環境」と「正しい医療情報を届ける仕組み」です。皮膚の悩みを解決するには、継続的な治療が非常に重要です。しかし、従来の保険診療によるニキビ治療では、リピート率が低いという課題がありました。そこで弊社では、デジタル技術を活用し、患者様に孤独を感じさせずに伴走します。これにより、悩みを解決するために継続して治療してもらう仕組みを構築しました。

ーーお客様からはどのような反響がありますか。

水本明宏:
「長年の悩みが数ヶ月で治った」というお声をいただくこともあります。「今まで自分がやってきたことは何だったんだろうと思うけれど、信じて治療を続けてきてよかった」といったお声です。私たちの目指す価値が実現できていると感じる瞬間です。

ーー事業成長における最大のターニングポイントは何でしたか。

水本明宏:
常に「人」です。ビジネスは市場の選択さえ間違っていなければ、あとは「人」で勝負が決まると考えています。事業が伸びたのも、そのタイミングで重要なキーマンに参画してもらえたことがきっかけです。

その経験から、現在弊社では組織設計を重視しています。会社の平均年齢は39歳と、33歳の私より経験豊富なマネージャー層が多く在籍。彼らに適切な権限移譲を行い、美容皮膚以外の新たな事業領域に進出する上で、その推進役となる即戦力のプロフェッショナル集団として事業を推進しています。

連携戦略で医療課題に挑む アクセス変革の壮大な未来像

ーー貴社が最も重視する行動指針についてお聞かせください。

水本明宏:
私たちが最も重視する行動指針(バリュー)として「Do the Right things(世の中に正しいことをする)」があります。これは、世の中にとって正しい医療を届けるという意味に加え、顧客にとって正しいことを徹底する顧客主義でもあります。たとえば、マーケティング的に正しくても顧客にとって本質的な価値がないと判断すれば、現場レベルでも明確に「No」と言える文化が根付いています。

ーー最終的に目指している企業としてのあり方についてお聞かせいただけますか。

水本明宏:
弊社の事業は単なる美容サービスではないと考えています。正しいオンライン診療を届けることで、社会を変革する存在になりたいです。日本の医療が抱える課題に対し、微々たるものかもしれませんが、医療アクセスの問題や、地方の医師の偏在といった社会課題を解決し、社会が少しでも一歩先に進むための力になりたいと考えています。

ーー今後の中期的な目標を教えてください。

水本明宏:
現在は自由診療の美容皮膚領域が中心ですが、今後は違う領域にも進出することを目指します。ただ、課題が大きすぎるため自社単独では難しいと考えています。そのため、大手企業様と連携しながら、より高く、より遠くへ行きたいと考えています。直近2年間で売上規模は3倍以上、従業員数も100名以上を目指します。

ーー今後、どのような人材を求めていらっしゃいますか。

水本明宏:
弊社のバリューの1つに「Keep Aspirations High(志高く未来を創造する)」という言葉があります。現状に満足せず、より大きな課題を解決しようとする、未来に向かうエネルギーがある方。そして、スタートアップならではの「これまでにないものを作っていくプロセス」を楽しめる方と、ぜひ一緒に働きたいと考えています。

編集後記

20歳の時に直面した「死」への意識を原動力に、「迷ったら進む」という一貫した行動原則を貫く水本氏。その背景には、いつか終わりが来る人生の時間をどう使うかという、強烈な当事者意識がある。会社の資金が尽きる3ヶ月前の壮絶な状況下で、事業撤退と代表就任を決断できたのも、「人の人生の時間を預かっている」という揺るぎない覚悟があったからだ。同社の事業は、単なる利便性の追求ではない。デジタル技術で「治療の継続」という医療の本質的な価値に伴走する。社会課題の解決を目指し、大手企業との連携で拡大を狙うこのアプローチは、まさに医療アクセスの変革そのものである。

水本明宏/1992年東京都生まれ。中央大学卒業後、人材系メガベンチャーに入社し、新規事業立ち上げ部署でマーケティングやプロダクト開発を担当。オンライン診療事業を通じて医療×IT分野に関心を持ち、2022年に株式会社Neautechを設立。オンライン美肌治療サービス「ANS.(アンス)」を立ち上げ、正しいオンライン診療を届けることを通じた社会変革を目指す。