
建設およびIT分野における人材サービスを展開する株式会社ライズ。同社は、未経験者の採用・育成に強みを持ち、業界でも珍しい手厚いフォロー体制と独自の組織制度を構築している。代表取締役の岩井勇二郎氏は、技術者として現場を経験し、人材サービス業に従事した経歴を持つ。その経験から、「派遣」という働き方が持つ可能性を誰よりも信じ、社員の成長を第一に考える企業文化を育んできた。派遣社員の自主性を促し、「自走できる組織」を目指す同氏に、その独自の仕組みと未来への展望を聞いた。
現場経験から生まれた帰属意識への課題認識
ーーまずは、起業に至った経緯をお聞かせください。
岩井勇二郎:
高校卒業後に中堅ゼネコンに入り、その後、建設系のアウトソーシング会社に技術職として入社しました。数年経つと社長の鞄持ちのような役割になったのですが、本社には私と社長しかいないような小さな組織でした。そのため、営業同行はもちろん、採用面接、入社手続き、社会保険、給与計算、経理、総務と、決算以外のあらゆる実務を担当していました。会社の経営実務に必要な知見は、この時期に一通り習得しました。
そんな中、当時の社長と少し意見の相違が生じたことがありました。私が「辞める」と言ったところ、社長から「それならうちの仕事を請け負うかたちで独立すれば」と声をかけられたのが独立のきっかけです。独立といっても、その会社の下請けとしてのスタートでした。同じ業種・業態でしたし、経営実務もすべて経験していましたので、独立に対する不安は一切ありませんでした。
私自身、派遣のような働き方で働いたことがあるので、その経験が、現在の経営に影響しています。派遣社員は派遣先で働くため、どうしても所属会社への帰属意識やエンゲージメントが薄れがちになるという課題を当時から感じていました。ですから、独立を機に、その課題を解決できるような仕組みづくりをしたいという思いも根底にありました。
帰属意識とキャリアパスを両立する13階層の組織
ーー事業の大きな転機はどこにありましたか。
岩井勇二郎:
2014年頃に、それまでの経験者中心の人材サービスから、未経験者を採用して育て、派遣するというビジネスモデルに転換したことです。それまでは経験者の獲得競争が激しく、事業のスケール化が難しい状況でした。しかし、未経験者育成に舵を切ってから、売上は急激に伸びました。
もちろん、この転換によって新たな課題も生じました。特に、派遣後のフォロー体制の強化が急務となったのです。経験者と違い、未経験者は現場に出てから戸惑うことが多く発生するためです。そこで、派遣社員に対するフォローを強化することにしました。具体的には、営業担当とは別に、派遣社員のフォローだけを専門に行う部隊を新設しました。今でこそ似た仕組みを持つ会社はありますが、弊社がこの仕組みを導入した当時は、業界でも非常に珍しい取り組みでした。
ーー派遣社員の方々に対する、組織的な取り組みについて教えてください。
岩井勇二郎:
現在約800人の派遣社員がいるのですが、その中に社員の成長を後押しする13階層のキャリアパス制度を構築しています。新人が入るとまず5人ずつのチームに配属され、必ず一人のリーダーが付き、毎月ヒアリングを行う体制です。派遣先での業務以外に、リーダーとして昇格したり、権限を持ったりするキャリアパスがあることが特徴ですので、これは、帰属意識を高める狙いがあります。
こうした取り組みで現場の社員を手厚くフォローするのは、私自身に「現場ファースト」という考え方があるからです。私自身が派遣のスタイルを経験したからこそ、派遣社員が所属会社へ帰属意識を持ちにくいという課題を痛感してきました。世間では「派遣社員」に対して、どうしてもネガティブなイメージが先行しがちです。しかし、ダイバーシティが叫ばれる中、派遣も確立された重要な働き方の一つです。この帰属意識の希薄化やマイナスイメージを、組織的な取り組みを通じて払拭したかったのです。
未経験者のキャリアチェンジを実現する二本柱

ーーなぜ建設とITの二領域に特化されているのですか。
岩井勇二郎:
建設は創業分野ですが、IT分野については、建設業界でもDX化が急速に進み、両者の親和性が非常に高いと判断したため、もう一つの柱として始めました。今では、IT人材が建設現場のDX担当として活躍するケースも増えています。
また、この二領域を持つことは、社員のキャリアにとっても大きなメリットがあります。たとえば、建設現場は夏や冬でも外で業務を行うことが多く、体力的に厳しい面があります。その際に、適性を見てIT分野へキャリアチェンジが可能です。建設現場で培った業務遂行能力は、IT業界でも高く評価されています。
そして何より、この二領域であることは、未経験者を採用・育成する上で非常に重要な強みとなっています。私たちは未経験者を正社員として採用し、育成することに注力していますが、それには当然高いコストがかかります。建設とITは、その育成コストをかけてもしっかり利益を出せるだけのマーケットが確立されているのです。この点が、事業を支える上で非常に優位性があると感じています。
派遣のマイナスイメージを払拭する経営者の信念
ーー「派遣」という働き方をどう捉えていますか。
岩井勇二郎:
非常に良い働き方だと本気で思っています。たとえば、地元の建設会社に新卒で入社したら、東京の巨大プロジェクトに関わるのは難しいかもしれません。ですが、派遣であれば、未経験からでもスーパーゼネコンの現場に入り、大規模プロジェクトに携わるチャンスを得られるのです。
ーー今後、どのような会社にしていきたいですか。
岩井勇二郎:
「この会社に入れば成長できる」と社員に感じてもらえる会社にしたいと考えています。世間が持つ派遣へのネガティブなイメージを払拭したいという強い思いが、私の原動力です。ですから、派遣社員であってもスキルアップできる環境を提供し続け、多様な働き方を自由に選べる環境を整えていきたいと考えています。
そのために、派遣社員自身が運営する「リーダー大会」や、本社と現場が向き合い、課題を議論し合う「合同研修」、土木・建築・電気・ITなど各分野別の「業務発表会」などを年間十数回開催しています。また、一定以上のリーダーには「7つの習慣」や「人を動かす」といった名著をベースにした外部研修も受けてもらい、自立・自走できるマインドを養っています。
こうした取り組みを通じて目指す組織としての最終的な理想像は、派遣社員たちが、本社の一部門のように自主的に動く組織になることです。いずれは、派遣社員たち自身で派遣先を決め、採算性を考慮した上で案件を動かすプロフェッショナル集団にしたいと考えています。
編集後記
自らも現場を経験した岩井氏の根底にあるのは、「派遣」という働き方への強い信頼と、社会が持つネガティブなイメージを覆したいという揺るぎない信念だ。その信念は、業界でも類を見ない手厚いフォロー体制や、社員一人ひとりの成長と自主性を促す独自のキャリアパス制度といった具体的な仕組みとして結実している。単なる人材サービスに留まらず、未経験者に「成長できる環境」と「キャリアを自由に選べる未来」を提供し続ける同社の挑戦は、まさに業界のスタンダードを変える可能性を秘めている。

岩井勇二郎/1964年群馬県生まれ。工業高校を卒業後、中堅ゼネコンに就職し、超高級住宅街「ワンハンドレッドヒルズ」で話題になり、当時国内で2番目の広さを誇った千葉市内の造成現場に配属される。1992年27歳で株式会社ライズを創業し、建設業界の人材育成に注力。創業から十数年は自らも技術者として、発注者支援業務、施工管理業務に携わる。1級土木施工管理技士、ダム管理技士など、建設系の資格を複数保有している。