※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

2022年、ダイセルグループの一員として誕生したダイセルビヨンド株式会社。総合化学メーカーとして長い歴史を持つ同グループの中で、素材の加工や後工程を担う。そして、新たな付加価値を生み出す挑戦を続けている。大手印刷会社から転身した代表取締役社長の岩瀨浩氏は、加工技術と経営の両面に精通する。ものづくりの現場に新たな視点と変革をもたらす岩瀨氏の歩みと、会社として描く未来像について話をうかがった。

加工技術を新たな市場価値につなげる

ーー社長に就任されるまでの経緯についてお聞かせいただけますか。

岩瀨浩:
以前は、大手印刷会社に在籍し、長年にわたり製造業の現場に従事してきました。ビール瓶用のラベル開発では、水や冷凍環境では剥がれにくく、アルカリに触れると容易に剥がれる構造を実現させました。これにより、瓶が再利用しやすくなり、環境負荷の軽減につながったのです。

また、あるレトルト食品用パウチの開発にも携わりました。電子レンジで温めることができる、透明なバリアフィルムです。これはドイツでの機械開発を経て実用化され、コンビニなどで広く使用されています。これらの開発を通じ、ラミネートや蒸着といった加工技術が製品として社会に活かされる手応えを感じました。これが自分のキャリアにおける転機となりました。

その後、液晶カラーフィルター工場の立ち上げなどを任されました。工場長や取締役として現場と経営の両方に関わる中で、次第に「自分の強みを別のフィールドで試したい」と考えるようになったのです。

現ダイセル会長の小河と会う機会があり、その際にうかがった姿勢に強く共感しました。それは「素材だけでなく加工や組み立てにも踏み込みたい」というものです。素材メーカーが後工程まで一貫して手がければ、新たな付加価値を創出できると確信しました。そして、自らその挑戦を担う決意を固めたのです。

「ビヨンド・コーティング」が拓く次世代フィルム戦略

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

岩瀨浩:
弊社では、ディスプレイ向けをはじめとした高機能フィルムの開発・製造を中心に、ダイセルが展開する「スマートSBU」という事業領域を担っています。SBUとは戦略的事業単位(Strategic Business Unit)の略です。その中で弊社は2022年に設立したばかりの若い会社です。弊社は「ビヨンド・コーティング」をキーワードにしています。これは、ただの素材販売ではなく、機能性やデザイン性を備えた加工済みのフィルムを世に出していくという方針です。

弊社の特徴の一つは、フィルムのコーティング技術において柔軟な選択肢がある点です。コーティングは、一般的に液体塗布によるウェットコーティングが主流です。しかし弊社では、「スパッタリング(※)」と呼ばれる技術を用いたドライコーティングにも対応しています。さらに、用途や目的に応じて両方を組み合わせることが可能です。

また、エポキシ樹脂などの多様な樹脂との融合による新素材の開発も進めています。ディスプレイの質感を高めるための、表面に凹凸をつけるエンボス加工フィルムも今後の注力分野です。均一で精密な加工技術を活かし、高品位ディスプレイや車載フィルムといった分野へ展開していきます。さらに、燃料電池を含む電池関連用途への応用についても、開発を進めているところです。

※スパッタリング‥‥真空中でプレート状の成膜材料にイオンを衝突させ、飛び出した材料を基板に付着させて薄膜を形成する技術

ーー今後の展望についてお聞かせください。

岩瀨浩:
幅広い加工技術を組み合わせ、より高度なニーズにも柔軟に応える体制を築きたいと考えています。そして、弊社の製品を従来の水準にとらわれない新たな価値基準で確立し、より高い品質を追求していきます。

ダイセルグループでは、スマートSBU領域で目標を掲げています。それは2030年までに売上高を倍増させていくというものです。弊社もその中核を担う存在として、技術開発と事業展開の両面で貢献していきます。

その実行拠点となるのが、京都の亀岡工場です。この施設は広大なクリーンルームを備えています。ここでは、自動で品質管理を行うシステムの導入や、新たな加工体制の構築に向けた準備が進行中です。すでに複数の企業と、ニーズに沿った試作や共同開発を始めています。高品質な製品を安定的に供給できる体制を整えれば、今後の製品競争力や他社との差別化につながると考えています。

また、営業活動も積極的に行っています。お客様と直接顔を合わせる機会を増やし、社内の営業体制の強化に取り組みます。開発だけでなく市場との結びつきも重視した展開を進める考えです。

多様な力をかけ合わせ変革の原動力に

ーー組織づくりにおいて意識していることがあれば教えてください。

岩瀨浩:
弊社は、ダイセルグループ出身者と外部出身者が融合した混成チームで構成されているのが特徴です。私自身も異業種から来ましたが、多様な視点が交わることで、これまでにないアイデアや意思決定のスピード感が生まれています。外部の知見と内部の資産を掛け合わせ、既存の枠にとらわれない価値づくりに取り組んでいます。

また、ダイセルグループに根づく「イエル化・キケル化」という文化も大切にしています。若手でも意見を出しやすい風通しのよい組織を目指します。製造現場の安全と安心を守りつつ、一人ひとりの主体性や創意工夫が発揮できる環境づくりが大切だと考えています。

ーー最後に、若い世代へのメッセージをお願いします。

岩瀨浩:
決められたことをただこなすのではなく、「なぜそうなのか」を自分の頭で考え、疑問を持ち、自ら挑戦していく姿勢を大切にしてください。また、最後まで責任を持ってやりきることが、信頼や次のチャンスにつながると思います。

弊社には、若手でも意見を出しやすく、周囲から学べる風土があります。2024年には、亀岡から高卒の新卒者を初めて迎えましたが、親切で丁寧な社員が多く、素直に学ぶ姿勢があれば成長できる職場だと感じています。「ものづくりの面白さ」と「ダイセルビヨンドらしさ」を伝え、次代の担い手を育てていきたいと思います。

編集後記

加工技術の現場で磨かれた知見を武器に、岩瀨氏はダイセルビヨンドという新たなステージに立つ。そして今、素材を超える価値づくりに挑んでいる。現場で培った技術力と感性を土台に加工法を進化させ、新素材を市場に届けるまでの技術的なこだわりを貫いている。その上で社会の中でどう活かされるかという視点まで持ち合わせている点が実に印象的だ。

岩瀨浩/1960年生まれ。大手印刷会社で工場長や取締役を歴任し、ビールラベルや真空バリアフィルム、液晶カラーフィルターなどの製造・開発に従事。2024年、ダイセルビヨンド株式会社の代表取締役社長に就任。株式会社ダイセル 常務執行役員スマートSBU長。