
高松帝酸株式会社は、産業用や医療用の高圧ガスを製造・販売する企業だ。ガス供給設備の設計や施工、産業機械やロボットの供給を手掛けるほか、医療機器や介護福祉関連商材のレンタル・販売まで幅広くカバーしている。
生産設備の仕入販売を行う商社機能もあわせ持ち、ワンストップソリューションを提供する同社の強みについて、代表取締役社長の太田貴也氏にうかがった。
製造業や医療分野などあらゆる領域に展開
ーーまず太田社長のご経歴を簡単に教えていただけますか。
太田貴也:
大学卒業後は日本エア・リキード合同会社に入社し、プラントオペレーターとガスの技術営業に従事していました。その後、家業である高松帝酸へ入社し、営業や技術部門、総務に配属され、取締役や専務取締役営業本部長を経て、2023年に代表取締役社長に就任しました。
ーー貴社の沿革と事業内容についてお聞かせください。
太田貴也:
弊社の原点は、曾祖父が1950年に設立した高松酸素株式会社です。創業当時は酸素ガスや窒素ガスの製造を行っていました。そして1963年に帝國酸素株式会社(現:日本エア・リキード合同会社)とフランスのエア・リキードと共同で立ち上げたのが、高松帝酸です。
弊社は産業用ガスの供給や、付随する機器・配管の提供、配管工事を請け負っています。ガスは一部自社でも製造しますが、多くはメーカーから仕入れ、弊社でボンベへの充填や貯蔵を行っています。
なお、ガスの製造プラントから小売店や販売店へガスを供給する役割も担っているディストリビューターでもありますね。また、医療用ガスの提供や酸素ボンベの供給のほか、メーカーから仕入れた医療機器や消耗品の販売も行っています。
ガスは溶接機や半導体の製造、航空機のタイヤへの充填のほか、医療分野などでも使われるため、幅広い業界との接点があるのも特徴です。
高度な技術力と機動力が強み。注目が集まる水素の可能性

ーー貴社の強みをお聞かせいただけますか。
太田貴也:
まだ世の中に無い装置を、自分たちでゼロからつくり出す技術力です。弊社では、フッ素ガスの高い反応性を利用した表面処理の研究開発を行っています。たとえばゴムにフッ素ガス加工をすることで、耐久性を向上させることが可能です。
また、水素添加反応により、自然界に微量しか存在しない希少糖を大量生産できる装置の開発も行っています。会社の規模が大きくない分、「面白そうだからやってみよう」とニッチな領域に挑戦できるのも、弊社ならではの強みですね。
ーー貴社は水素事業にも力を入れていますが、水素を使うメリットを教えていただけますか。
太田貴也:
たとえば、プロパンや天然ガスの代わりに水素を使って調理する場合、水素で調理した方が美味しく仕上がります。ガス漏れに気付けるよう、ガスには臭いが付けられているため、食材を焼くと臭いが移ってしまいます。
一方で水素は無臭のため、食材の香りをそのまま活かせるのです。また、水素は燃えると酸素と結合して水になるだけなので、食材の表面はカリカリ、中はふわっとした食感になり、焦げ付かず、食材に含まれる水分が蒸発するのを防げるのもメリットです。
また、天然ガスやプロパンのように燃焼時にCO2が出ることがないため、環境汚染の抑制につながります。CO2排出削減が求められる現代で、環境に負荷をかけない水素は今後注目されると思いますね。
拠点を置く四国への思いと業務の効率化への取り組み

ーー地域貢献に対する思いをお聞かせいただけますか。
太田貴也:
地域内で手に入る製品や供給網だけに頼っていると、他社に技術力で劣ってしまい、働く人の給料も税収も上がらず、街は衰退する一方です。弊社は協力会社としてお客様の競争力を高め、四国地方全体の発展に尽力しています。
たとえば日本だけでなく海外のメーカーから直接製品を仕入れ、取り付けや修理も請け負っています。また、高圧ガスや自動機械の技術、研究開発で得た知見をお客様に惜しみなく提供していますね。こうして最先端の製品を取り入れ、技術力を向上させることで、地元企業の方々が安定的に収益を得られるよう支援しています。
医療分野も同様に、地域の方々が安心して快適に暮らせる医療環境を維持するために、病院を支える協力業者として貢献したいと思います。
ーーDX推進の取り組みについて教えてください。
太田貴也:
ひとつが、燃料遠隔監視システム「みるタンク」を活用した、ガス残量監視システムの運用です。これまではガスの残量を目視で確認し、少なくなったら電話などで注文する仕組みでした。ただ、この方法だと確認作業の遅れにより在庫が枯渇し、販売企業は緊急対応が発生してしまうのが課題でした。
そこで、圧力センサーでガスの出力を計測し、残量をクラウドシステム上で一括管理できるようにしました。
また、2030年を目途にすべての社内システムを連携させ、ワンクリックで完結できるよう、業務のデジタル化を進めています。これにより業務の効率化を図り、ワークライフバランスの実現につなげたいと考えています。
各部門の今後の戦略と組織改革について
ーー貴社の注力テーマをお聞かせください。
太田貴也:
ガス部門では、充填を行う設備を導入し、人力で行っている作業を自動化する予定です。そのほか、ガスを金属で吸着することで、ボンベのサイズと重量を5分の1にできる多孔質金属体(MOF)の研究にも積極的です。
また、国内のガスボンベでは15メガパスカルが一般的ですが、弊社ではその倍の30メガパスカルという高圧な充填設備を増やしています。これが実現すれば輸送効率が大幅に向上し、市場シェアの拡大につながることが期待できますね。
機械部門では、産業用ロボットの導入をサポートするシステムインテグレーター(SIer)の技術力を強化しているところです。工場の自動化を進めたい企業様に向けて適切な提案ができるよう、エンジニアのスキルアップに注力しています。今後は空調ビジネスや分析研究機器の分野にも進出します。
医療部門で力を入れているのが、介護ロボット事業です。産業用ロボットを扱ってきた経験を活かし、医療・介護分野へのロボットの導入を進めています。まずはレンタル事業からスタートし、徐々に導入していただける施設を増やしていきたいですね。
ーー最後に今後の展望について教えていただけますか。
太田貴也:
弊社は中期経営計画として、社員とご家族の幸福度の向上を目標にしています。経営陣の考えや思いを、社員に十分に浸透させるためリーダークラスの育成に力を入れ、なぜこのシステムを導入したのか?地域のイベントになぜ参加するのか?理由などを伝えています。
こうして業務の推進や社内活動の意図を説明することで、社員一人ひとりが納得した上で、前向きに取り組んでもらえれば嬉しいですね。全社員に「この会社で働いていて良かった」と思ってもらえるよう、これからも皆で思いを共有していきます。
編集後記
インタビュー終盤に「社員が幸せになれる会社を目指したい」と話していた太田社長。社員一人ひとりの意見や価値観、背景を尊重し、組織の多様性の実現を目指す同社は、それぞれがいきいきと働き、実力を発揮できる企業に成長することだろう。高松帝酸株式会社はこれからも技術開発とDX推進による業務の効率化を進め、さらなる飛躍を遂げていくはずだ。

太田貴也/1981年生まれ香川県出身。上智大学理工学部物理学科卒業。2004年日本エア・リキード合同会社に入社し、プラントオペレーターとガスの技術営業に従事。2008年に高松帝酸株式会社へ入社。営業、技術、総務とさまざまな部門を経験し、2013年に取締役、2020年専務取締役営業本部長を経て、2023年に代表取締役社長に就任。