
1966年に日本初の独立系(特定の親会社やメーカー系列に属さない)ソフトウェア専門会社として創立以来、業界の黎明期から第一線を走り続けてきた株式会社CAC Holdings。特定の系列に属さない「独立性・中立性」を武器に、顧客と直接対話するプライムコントラクターとして、数多くのナショナルクライアントの信頼を勝ち得てきた。現在、同社は長期ビジョン「CAC Vision 2030」を掲げ、AI活用や異業種への参入、そしてグローバル展開を加速させている。エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現場の課題解決とビジネス改革を牽引してきた代表取締役社長の西森良太氏に、変革の軌跡と、挑戦し続ける組織の未来図について聞いた。
化学の道からITへ 未経験からの挑戦と現場で培った「経営者視点」
ーーIT業界へ進まれたきっかけと、これまでの歩みについてお聞かせください。
西森良太:
学生時代は分析化学を専攻していましたが、就職活動では特定の専門分野に縛られず、幅広い業種のお客様と関われる仕事がしたいと考えていました。IT業界なら、あらゆる産業の黒子として社会にかかわることができる。そう考えたのが原点です。業界研究を進める中で、創業者の理念や独立系としての自由な社風に惹かれ、CAC(※)への入社を決めました。(※その後2014年に持株会社体制に移行。商号を株式会社CAC Holdingsに変更するとともに、会社分割により株式会社シーエーシーを新設し事業を承継。)
入社当時はIT未経験でしたが、研修を経て不動産会社のシステム開発プロジェクトへ配属されました。転機となったのは入社2年目。新しい開発言語の専門部隊を立ち上げるという社内公募があり、約3倍の倍率を突破して参画するチャンスを掴んだのです。若手主体の部署だったこともあり、早い段階からリーダーや責任あるポジションを任されました。そこでプロジェクトマネジメントの面白さに目覚め、夢中で経験を積んでいきました。
ーープロジェクトマネージャーとして、現場で大切にされていたことは何ですか。
西森良太:
「メンバーが迷わず、本来の業務に集中できる環境を作ること」です。お客様と膝を突き合わせて要件を明確にし、ゴールを定める。そして、チームメンバーが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう障害を取り除くのが私の役割でした。PMという仕事は、プロジェクトが完了すればすぐに結果が出ます。良くも悪くも自分の采配が数字として跳ね返ってくる。そのシビアさが面白く、案件ごとに「一国の主」、つまり経営者のような感覚で取り組んでいましたね。
赤字脱却の鍵は「見積もりの標準化」 現場と経営をつなぐ改革
ーー経営を強く意識されるようになったきっかけと、その際の取り組みについて教えてください。
西森良太:
私は基本的に「来た球は打つ」、つまり会社から与えられた役割は断らないスタンスでした。大きな転換点は、新設部署の部長を経て「ビジネス改革本部」へ異動した時です。当時、開発部門では不採算案件が複数発生しており、赤字体質からの脱却が急務でした。
そこで着手したのが「見積もり精度の抜本的改善」です。エンジニアの現場感覚と営業の交渉力が乖離しないよう、適正な見積もりプロセスを全社で標準化しました。研修を通じて意識改革を行い、並行して買収した海外子会社の再生プロジェクトを立案・遂行するなど、この時期に現場視点から経営視点へと、視野が一気に広がったと感じています。
ーー社長就任当時の状況と、組織変革への着手についてもお聞かせください。
西森良太:
就任当時は業績が踊り場にあり、停滞感が漂っていました。私のミッションは、業績をV字回復させること、そして何より社員の士気を高めることでした。最初に取り組んだのは、年功序列に縛られず実力ある人材を抜擢する人事制度への刷新です。同時に、失敗を恐れて萎縮する空気を払拭するため、「失敗してもいい。とにかく打席に立ってチャレンジしよう」というメッセージを、あらゆる場面で発信し続けました。
独立系の強みと「人」の力で描く 2030年の社会変革

ーー貴社の事業的強みと、それを支える人材育成についてうかがえますか。
西森良太:
最大の強みは、創業以来こだわり続けてきた「プライムコントラクター(元請)」としてのポジションです。特定のハードウェアメーカーや親会社を持たないため、技術選定にしがらみがありません。お客様にとって真に最適なソリューションを、ゼロベースで提案できる。これはエンジニアにとっても、上流から下流まで一貫して携われる最高の環境です。また、この環境を活かし、技術者を意図的に多様なプロジェクトへ配置する「戦略的ローテーション」を行っています。様々な現場で経験を積むことが、技術力だけでなく、対人能力やビジネスセンスに優れた「強い個」を育てる土壌となっています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
西森良太:
VUCA(※)の時代において、3カ年程度の計画の繰り返しだけでは未来は創れません。そこで新たに策定したのが長期ビジョン「CAC Vision 2030」です。「テクノロジーとアイデアで、社会にポジティブなインパクトを与え続ける企業グループへ」という言葉には、受託開発の枠を超え、私たち自身がイノベーターになるという決意を込めています。
その実現に向けた具体的な動きとして、2025年7月には新規事業専門の株式会社CAC identityを設立。そこからは、AI表情認識を活用した面接練習アプリ「カチメン!」や、製造業向けAI導入・運用プラットフォーム「OCTOps(オクトパス)」などが誕生しています。また、長崎でのAIを活用した養殖業への参入など、業界の枠を超えたユニークな挑戦も始まりました。
さらに、CACグループは1980年代から海外に進出し、現在は米国、欧米、中国、インド、インドネシアなどといった国々に展開しています。これまでの海外でのビジネス経験を武器に、今後はグローバルネットワークを更に強化し、日本の技術を海外へ持ち込むだけでなく、世界中の拠点から優秀なエンジニアやアイデアを集結させ、国境を越えたチームでビジネスを加速させていきます。
(※)VUCA(ブーカ):Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉。社会やビジネス環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な状態を指す。
ーー最後に、求める人物像と読者へのメッセージをお願いします。
西森良太:
私たちの事業領域は、今後さらに拡大・多角化していきます。だからこそ、これまでの「システムエンジニア」という枠にとらわれず、新しいビジネスを創り出すことにワクワクできる方に仲間になっていただきたいですね。
変化の激しい現代において、最も重要な資質は、環境の変化に柔軟に対応できる力にほかなりません。私たちは単なるソフトウェア会社にとどまらず、「困ったことがあればCACグループに相談すれば何とかしてくれる」と真っ先に頼られる存在を目指しています。そのために技術力とアイデアを磨き続け、これからも社会に新しい価値を提供していく所存です。
編集後記
取材を通じて強く感じたのは、「老舗の看板」と「ベンチャーの魂」が同居する不思議な熱気だ。一般的に、歴史ある企業ほど守りに入りたくなるものだが、西森氏の言葉には、まるで創業期のようなハングリー精神が満ちていた。養殖業への参入やAIアプリ開発といった挑戦は、単なる多角化ではない。「お客様のためなら何でもやる」という、創業時から変わらぬ泥臭いまでの顧客志向の表れなのだろう。伝統を重んじながらも、軽やかに衣を脱ぎ捨てていく。その潔い姿勢に、CACグループが次の60年も生き残るであろう確かな理由を見た気がした。

西森良太/1967年、東京都生まれ、千葉県育ち。1994年入社。国内外にて、金融機関向けシステム開発などに従事。経営企画部長、執行役員などを経て、アメリカやインドなど海外を含む子会社の社長職や管理職を歴任。2018年株式会社シーエーシー代表取締役社長、2020年3月当社取締役、2021年1月から当社代表取締役社長(現任)。2025年1月から株式会社シーエーシー取締役会長(現任)。