
「ペンと紙のない工務店」を掲げ、DXを推進する株式会社ecomo。そして、建設現場を見える化する「Log System」を展開し、建設現場の遠隔管理やAI開発に挑む株式会社log build。2社の代表を務める中堀健一氏の原動力は、40歳を超えて抱いた危機感だ。18歳から現場監督を務めた同氏は、20年経っても変わらない業界の姿に直面した。その気づきが、未来の当たり前を今つくる「スマートビルダー」の確立へとつながっている。創業期の苦難から、日本の建設技術で世界へ挑む現在地まで。同氏の歩みと今後の展望について、詳しく思いを聞いた。
下請けからの脱却 仲間のために挑んだ元請けへの体制刷新
ーーどのような経緯で会社を創業されたのでしょうか。
中堀健一:
きっかけは26歳のとき、以前勤めていた工務店が倒産してしまったことです。共に働いていた職人たちが、突如路頭に迷う状況に陥りました。そこで、「自分たちの働く場所をつくってほしい」という仲間の期待を背負い、私は創業を決意したのです。当時は若く、経営への恐怖心は全くありませんでした。ただ目の前の困っている仲間を助けたい、その一心で走り出したのがすべての始まりです。
ーー創業後の経営は、順調に進んだのでしょうか。
中堀健一:
最初は苦労の連続でした。最初の5年ほどは下請けの仕事が中心でしたが、事業計画が元請け会社に左右され、自分たちで経営をコントロールできないもどかしさを感じていました。
一番の転機は、取引先からの支払いが滞る貸し倒れを経験したことです。この出来事をきっかけに、「安定した経営のためには元請けにならなければいけない」と強く決意しました。当時は信用も資金もありませんでしたが、営業組織を立ち上げ、元請けを経験したスタッフを採用するなどして社内体制を刷新し、少しずつ現在の基盤をつくっていきました。
ペーパーレス化と建設テック事業で推進する建設業界の抜本的な変革

ーー改めて、貴社はどのような工務店なのでしょうか。
中堀健一:
最新のテクノロジーによって、家づくりに携わる全ての人々が幸せになる「Smart Builders(スマートビルダー)」というスタイルを確立しました。おそらく日本で最もDXが進んでいる工務店だと自負しています。2011年の震災を機に書類のリスクを痛感し、社内のあらゆる書類をクラウド化した結果、「ペンと紙のない工務店」を実現しました。
最大の強みは、3Dデータを活用した間取りの打ち合わせや、打ち合わせから契約まで全てオンラインで完結できる点です。お客様は遠隔地にいながら直感的に内容を理解でき、実際にお引き渡しまで一度も対面しないケースも少なくありません。遠方からの移住を考えている方々などへ、新しい価値を提供できていると考えています。
ーーそうした先進的な取り組みは、工務店事業の枠を超えて広がっていますね。
中堀健一:
ええ。2018年から、建設業界全体のDXを牽引すべく「遠隔現場管理」のプロジェクトを始動しました。実は私自身、18歳から現場監督を務めていたのですが、当時は移動時間ばかりが長く、常に多忙を極めていた。その状況が、40歳を過ぎても業界全体で全く変わっていないことに強い危機感を覚えたのが原点です。
少子高齢化で監督がいなくなる未来は目に見えていました。「誰かがやらなければならないなら、自分たちがやる」と決意し、周囲から「そんなの無理だ」と冷ややかな声を浴びながらも、私財をすべて投じてロボットやVRの開発に乗り出しました。
ーーそこで重要になったのが、貴社の掲げる「10X(テンエックス)」というカルチャーですね。
中堀健一:
その通りです。私たちのカルチャーは「10年後の当たり前を、1年でやってしまう」こと。5年、10年先の世界では、遠隔管理は間違いなく標準化されている。ならば、10倍の思考とスピードで、今すぐその未来を創り出すのが私たちの役割だと考えたのです。
2020年に株式会社log buildを設立した直後、コロナ禍によって世の中のオンライン化が劇的に加速しました。私たちが信じてきた「現場に行かない管理」という概念が、追い風に乗って一気に業界へ浸透し始めたのです。現在、「Log System」の導入社数は初年度の25倍以上にまで拡大し、現場数に至ってはこの5年で約100倍という驚異的な成長を遂げています。
若き日の原体験を原動力にAI技術と日本の建設品質で挑む世界展開
ーー「Log System」の他社にない特徴はなんですか。
中堀健一:
最大の特徴は、単なる「ツール」の提供に留まらず、現場管理そのものを代行できる「オペレーターチーム(BPOサービス)」を併せ持っている点です。
現在、多くの建設現場では、ツールを導入しても「使いこなせない」「チェックする時間がない」という課題を抱えています。私たちは自社内に、全国の工務店さんに代わって遠隔で現場を管理する専門チームを組織しています。弊社の社員が、職人さんとオンラインで繋がり、図面との整合性をリアルタイムでチェックし、報告書作成まで一貫して行います。
これによって、工務店さんは高い賃金を払って現場監督を雇用し続けずとも、安価な外注費で、より細かく精度の高い現場チェックが可能になります。いわば、「システム」と「熟練の管理機能」をセットで提供していることが、私たちの圧倒的な強みです。
ーーこれからの展望についてお聞かせください。
中堀健一:
現在はAI開発に最も力を入れています。私たちが開発しているのは、ロボットなどに装着できる「脳」の部分です。将来的には、ヒューマノイドロボットやドローンが建設現場で活躍する時代が来ると考えており、そのときに不可欠となる頭脳を提供することが目標です。
そして最終的には、「世界に通用する建設テック企業」を目指しています。私は数多くの海外現場を見てきましたが、日本の施工精度や管理レベルは間違いなく世界一です。しかし、これほど素晴らしい日本の技術も、現場の職人の勘や経験に頼っているだけでは、これからの時代、世界へは広がっていきません。
だからこそ、日本が誇る「ものづくり」の精神に、私たちのデジタルテクノロジーを掛け合わせる必要があるのです。日本の建設技術をデジタル化してパッケージにし、一つの産業として世界へ輸出していく。海外の勢いに負けることなく、日本発の建設テックとして世界をリードしていきたいと考えています。
編集後記
18歳の現場監督時代に味わった苦労。その実体験を原動力に、40歳を過ぎてから業界変革に乗り出した中堀氏。同氏の言葉からは、古い建設業界をアップデートし、日本の優れた技術を世界に届けたいという、純粋で力強い思いが伝わってくる。「10年後の未来を今この瞬間に実現する」というカルチャーのもと、AIという新たな武器を手にした同社。日本の建設業界の未来をどう切り拓いていくのか。その挑戦から目が離せない。

中堀健一/1971年新潟県生まれ。神奈川の高校卒業後、会社員を経て都内の工務店にて働く。1997年に株式会社ecomoを創業、湘南・横浜エリアを拠点に地球にやさしい自然素材の家づくりを始める。2020年には建設現場のDXを目指し、株式会社logbuildを創業。好きな言葉は「人間万事塞翁が馬」。