山口県に本社を置く株式会社エムビーエス。1997年に設立した前身会社で、独自技術による外装リフォーム事業をスタートし、全国に支店を展開してきた。代表取締役の山本貴士氏に、これまでの歩みや技術開発の裏側、これからの夢についてうかがった。
足場業を個人創業し、故郷の山口で成功を目指す
ーー起業までの経緯をお話しいただけますか。
山本貴士:
山口県で生まれ、群馬県高崎市へ引っ越したのち、両親の離婚が転機となりました。「妹を高校に行かせたい」という思いから、僕は高校を中退して働き始め、その後大学受験に向けて勉強も続けていました。そこへ、外車ディーラーの取締役だった友人の叔父から声がかかり、採用試験を受ける機会をいただいたのです。
入社から1年半後に退職する際には、取締役の方から「今後は人に雇われない生き方をしてみたらどうか」と提案をいただきました。通常、勤続3年未満は退職金が出ない中で、餞別を用意してくださったことも忘れられません。
8歳の頃に山口県を離れた理由は父の会社の倒産でした。20歳になった僕は「家族が失ったものを取り戻そう」と、単身で故郷へ戻ることにしたのです。そして、建設業の中で最も過酷とされる足場業で「5年間は辛抱しよう」と覚悟し、個人創業したことが弊社の始まりです。
外装リフォームの課題に直面--特殊なスケルトン工法を開発
ーー貴社の事業内容について教えてください。
山本貴士:
一般住宅をはじめとする建造物の外装リフォームをしています。弊社の合言葉は「列島リフォーム」です。スクラップアンドビルドではなく今あるものをしっかりと補修して、事故を起こさない環境づくりを支える企業を目指しています。道路やトンネル、橋梁といった日本のインフラは築50年を超え、今後は大きなマーケットになることでしょう。
弊社が提案するコーティングシステム「ホームメイキャップ」は、カラーコーティング施工・クリアコーティング施工・応用特殊施工・スケルトン防災コーティング施工の4つで構成されています。
AIやロボットも建造物の点検(モニタリング)に活用されていますが、人の目で確認できるという点でスケルトン工法はさらに飛躍していく技術です。ロボットが現場で施工する時代はまだ遠く、長きにわたって技術者が必要とされると考えています。
ーー差別化を図るために注力したことを教えてください。
山本貴士:
外壁のリフォームで足場を組むケースが増え、業界の改善点や技術開発の必要性を感じるようになりました。足場業にプラスして、外装のリフォーム事業をバージョンアップすれば、ビッグビジネスにつながるのではないかと考え、研究・開発をスタートした次第です。
色褪せた外壁材を単色で塗り直すと、本来の高級感やデザイン性が損なわれることが業界の課題でした。とはいえ、外装材を剥がして工場で再塗装することはできません。そこで、「塗る」のではなく「ミクロン単位で削る」という復元方法に辿りつきました。
削ることできれいになった塗装面は耐候性を損なうため、自社開発した「スケルトン防災コーティング」を施します。スケルトン(透明)であることによって、施工後も外壁の変化を目視で確認でき、再補修しやすくなります。
建設業界のイメージアップを決意--「上場企業の社長」を目指せる環境の実現
ーー全国進出や上場を目指したきっかけについて教えてください。
山本貴士:
技術開発の成功後、全国展開して市場を拡大する必要性を感じたのです。まずは近隣の主要都市である福岡、翌年には東京へ進出しました。スタッフに恵まれたことはもちろん、起業家・大前研一さんや行政機関など、関係各所からの厚いご支援も成長につながりました。
上場を目指した一番の理由は、建設業界で働く人に向けられる「学歴が低い」という世間の目や風当りです。「低学歴だと上場企業や大企業に就職できない」と言われるならば、必死にがんばって自分たちで上場企業をつくればいいと考えました。弊社は2005年に福岡証券取引所Q-Board、2015年に東証マザーズ(現:東証グロース)に上場しています。
ーー貴社独自の取り組みについて教えてください。
山本貴士:
スタッフから「社長になりたい」と思われる会社にしたいと考え、四半期に一度「社長選挙」を開催しています。一定の目標を達成したときに、「誰が次期社長にふさわしいか」を決める取り組みです。立候補したメンバーが会社の成長・維持に関する計画をプレゼンして、全社員による投票を実施します。結果は公表しませんが、成績として蓄積されます。
スタッフの人柄と自社技術を強みに「全国網羅」の夢に邁進
ーー現在はどのような点に注力していますか。
山本貴士:
採用活動を通して「現場で働く魅力」を復活させたいと思っています。弊社では、九州・関西・関東・東北の各エリアに「エリア長(マネージャー)」を配置し、現場ごとに人材を育成します。新卒採用者の9割が30歳前後で支店長を務めていることも大きな特徴です。
「会社のカルチャーを理解してもらう」という意味で、営業部門も強化しています。特殊技術を持つ弊社の商品を「売る」こと自体は難しくありませんが、人柄の良さが重視される「エムビーエスらしさ」を習得した営業スタッフは成績がアップする傾向があります。自己判断する人に限って危機的状況を生むため、報連相(ほうれんそう)ができることも重要です。
ーー今後の展望をお聞かせください。
山本貴士:
本社機能は山口県に置き、スケルトン工法というソリューションを活かして事業領域を広げていきたいと考えています。「47都道府県に事業所を構築する」という夢を見据え、大手ハウスメーカーから「包括的に発注したい」と思われる企業体を目指しています。企業価値と株価を上げて株主に喜ばれる、それこそが企業の本来あるべき姿だと言えるでしょう。
編集後記
「人との出会いに恵まれてここまで来た」と語った山本社長。社会に出る前に直面した困難にもくじけず、「自身が置かれた環境」を良くするために常に全力を尽くしてきた。外装リフォームという新たな選択肢は、「日本のインフラを安全に保つ」という大きな使命を持ったことで、さらなる出会いと可能性を広げていく。
山本貴士/1972年、山口県生まれ。家庭の事情で高校を中退。横浜の外車ディーラーに勤めた後、郷里に戻り1993年に足場業を個人創業。1997年、有限会社アクアビギ(現:株式会社エムビーエス)を設立。独自の研磨技術と特殊コーティング材による外装リフォーム事業を開始。2001年に株式会社へ改組。2005年、福岡証券取引所「Q-Board」に上場。2015年、東京証券取引所マザーズ(現:グロース)へ上場。