※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

埼玉県さいたま市浦和区を拠点に、注文住宅の設計・施工および不動産事業を展開する株式会社大貴。若手社員の感性を活かしたデザイン力と、顧客の深層心理に寄り添う提案力を武器に、地域で「選ばれる工務店」としての地位を確立している。同社を率いるのは、薬剤師としてのキャリアを経て家業を継いだ経歴を持つ代表取締役社長の福田貴大氏だ。「利益度外視」が当たり前の医療現場から、「シビアな数字」が求められるビジネスの世界へ。大きな価値観の転換と葛藤の末に辿り着いたのは、「顧客よりもまず社員を一番に考える」という逆転の経営哲学だった。二代目社長が描く組織変革の軌跡と、次世代へのビジョンに迫る。

医療と経営 二つの世界で学んだ「対価」の重み

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

福田貴大:
大学卒業後は薬学部に進み、調剤薬局にて薬剤師として勤務していました。医療現場における最優先事項は、あくまで「患者さんの健康」です。そこに「採算」や「利益」という概念を持ち込むことは、基本的にありません。

しかし、父が会長を務める当社を継ぐと決めた時、そのマインドセットを根底から覆す必要がありました。ビジネスである以上、ボランティア精神だけでは会社を存続させることはできません。お客様に満足していただくことは大前提ですが、同時にしっかりと利益を出し、社員に対価を支払わなければならない。「目先の利益を追わない」という医療人の美徳から離れ、「利益につながる動き」と「対価に見合ったサービスの質」をシビアに追求する。この意識改革こそが、経営者として越えるべき最初のハードルでした。

ーー代表取締役に就任された当時、ご自身の心境や社内の状況はいかがでしたか。

福田貴大:
正直に申し上げますと、就任当初は自分の中で「葛藤」と「焦り」が入り混じっていました。「創業からの伝統を守りたい」という思いがある一方で、二代目として「自分の色を出したい」「爪痕を残したい」という変革への野心が強かったのです。

就任直後は、はやる気持ちから大規模な改革を急ごうとして、会長である父と激しく衝突することもありました。そこで一度冷静になり、「まずは会長が築き上げてきた歴史と実績を正しく理解し、尊重しよう」と原点に立ち返ったのです。自分本位な変革ではなく、既存の社員や体制に歩み寄る。その姿勢が、結果として組織を一つにする第一歩となりました。

「社員が一番!」が最高の顧客サービスを生む

ーー現在、経営において最も大切にされている価値観は何でしょうか。

福田貴大:
誤解を恐れずに言えば、お客様以上に「社員」を大切に考えています。なぜなら、現場で品質の良い家をつくり、お客様に感動を提供する主体は、私ではなく現場の社員たちだからです。

もし社員が会社に不満を持っていれば、それは必ずサービスの質の低下としてお客様に伝わってしまいます。逆に、社員が満たされ、誇りを持って働ける環境があれば、自然とお客様への対応も誠実で高品質なものになります。「社員満足」が「顧客満足」を生み、それが会社の利益となって再び社員に還元される。この「いい循環」を作ることこそが、私の役割だと確信しています。

ーーそのスタンスは、具体的な組織づくりや制度にどう落とし込まれているのでしょうか。

福田貴大:
一人ひとりの責任感と主体性を醸成するため、従来は社長が行っていた見積もりから施工管理までの一連の業務を、大胆に社員へ権限委譲しました。また、教える側自身の成長も促すため、教育体制も強化しています。そして何より、「ファミリー感」のある距離感を大切にしています。週に一度は食事やフットサルなどで交流しますが、決して強制はしません。「断っても気まずくならない信頼関係」があるからこそ、仕事でも本音で議論ができるのです。

「悪くない」ではなく、「加点法」でつくる感動

ーー競合ひしめく住宅業界において、貴社の強みはどこにありますか。

福田貴大:
一つは、若手社員の感性を活かしたデザイン性です。SNSのトレンドや、「こういう空間があったら嬉しい」という潜在的なニーズを形にする提案力には自信があります。

そしてもう一つは、私自身の薬剤師時代の経験が活きたヒアリング力です。服薬指導では、「はい/いいえ」で終わる質問はしません。患者さんの生活背景を探るように、お客様に対しても「なぜその間取りが良いのですか?」「どのような生活を送りたいですか?」と深掘りします。この「問診」のようなヒアリングにより、お客様自身も気づいていない真の要望を引き出すことができるのです。

ーー家づくりにおいて、特に意識されている目標はありますか。

福田貴大:
「家を建てる=クレーム産業・悪いイメージ」という業界の常識を払拭したいと考えています。これまでの住宅業界は、マイナスをゼロにする「減点法」の対応になりがちでした。しかし私たちは、お客様の期待を超える提案で「悪くない状態」で終わらせるのではなく、プラスを積み上げる「加点法」の家づくりを目指しています。「できない」とは言わず、どうすれば実現できるかを考える。そして、アフターフォローはその日のうちに対応する。人生で一番大きな買い物だからこそ、誠実さとスピードで「浦和の家なら大貴がいい」と言われる存在を目指しています。

30名体制へ 組織拡大と次なるステージに向けて

ーー最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。

福田貴大:
現在9名の組織を、3〜5年以内に20〜30名規模へ拡大する計画です。現在の仕事の8割は東京都内が現場であるため、東京支店の開設も視野に入れています。また、これまでは業者間受注が中心でしたが、今後はSNS等を活用し、個人のお客様からの直接受注の割合を増やしていきます。

そのために人事評価制度を刷新し、成果を出した社員にしっかりと給与で還元できる仕組みを整えます。「土日休み」など、家族を大切にできる働き方も推奨し、リファラル採用(社員紹介)を含めた、信頼できる人材の獲得を強化していくつもりです。

資材高騰などのリスクに対しては、海外製資材への依存度を見直し、仕入れ先の分散を進めています。建築事業だけでなく、不動産事業(賃貸等)との連携を深め、市況の変化に左右されない強固な二軸の経営基盤を構築してまいります。

編集後記

「白衣」から「ヘルメット」へ。薬剤師として培った"相手の真意を汲み取る力"を武器に、福田氏は建築業界に新しい風を吹き込んでいる。伝統と変革の狭間で葛藤しながらも、「社員が一番」という揺るぎない信念に辿り着いたその姿は、事業承継のひとつの理想形と言えるだろう。「加点法」で挑む家づくりは、地域の住まいと暮らしをより豊かなものへと変えていくはずだ。

福田貴大/1992年、埼玉県生まれ。薬学部卒業。調剤薬局で薬剤師として勤務したのち、建築不動産業を営む株式会社大貴に入社し、28歳で代表取締役に就任。会長の代から続くプロボクシングのスポンサー事業にも注力している。