
16歳で大工の道へ進み、25歳で独立を果たした株式会社エムトラストの代表取締役、高橋勘太氏。同社は、新築、店舗内装、エクステリアなど、建築を軸に多角的な事業を展開している。特に近年は店舗内装事業に注力し、高橋氏自らがYouTubeで情報発信することで、業界の透明化をに取り組む。1700万円の不渡りやコロナ禍といった数々の逆境を乗り越え、独自の道を切り拓いてきた高橋氏に、これまでの歩みと今後の展望について話を聞いた。
母への思いを原点に歩んだ道
ーーまず、これまでのご経歴についてお聞かせください。
高橋勘太:
高校に行けなかったため働く必要があり、職人系の仕事の中から大工を選びました。「母親に家を建ててあげられるのではないか」という軽い思いからの出発でしたが、結果的にこの仕事は自分の性分に合っていたと感じています。10代の頃から、貧しかった家庭環境を抜け出すために社長になりたいという思いはありました。
ーー独立までの道のりは、順調だったのでしょうか。
高橋勘太:
紆余曲折ありました。16歳で大工を始めて3ヶ月で辞めてしまい、50種類ものアルバイトを転々としましたが、どれも続きませんでした。18歳で建築の仕事に復帰し、大手ハウスメーカーの指定工事店で成果を出せましたが、決まった仕事しかできない環境に限界を感じたのです。「あらゆる建築に対応できる職人を目指したい」と決意し、20歳から4年半の修行を経て25歳で独立。その1年後に会社を設立しました。
逆境から学んだ「自責」という覚悟
ーー独立後、特に印象深いご経験はありますか。
高橋勘太:
会社設立3年目、20代最後に経験した1700万円の不渡りです。今では「神様からのプレゼント」と捉えていますが、当時は資金繰りが完全におかしくなり、取引先や関係者をただ恨む毎日でした。負のオーラが出ていたのか、その後の数年間は何をやってもうまくいきませんでした。
ーーその困難な状況を、どのように乗り越えられたのですか。
高橋勘太:
ある人に「そのお金、全部手放してみたら?」と言われたことが転機です。最初は理解できませんでしたが、仕事を選んだのも、契約を疎かにしたのも、全ては自分の責任だと気づかされました。他責から自責へと意識を切り替え、債権を放棄する書面を送った瞬間に、仕事が自然と舞い込むようになったのです。今の会社もお客様も、全て自分が選んだ結果だと。そう思えるようになってから、物事が好転し始めました。
誰も動かない時こそ好機と捉える
ーー経営におけるターニングポイントについて教えてください。
高橋勘太:
コロナ禍の経験です。売上8億円から10億円を目指そうというタイミングで、世の中が完全に止まってしまいました。周りからは「動くな」という声が多かったのですが、私はその状況を異なる視点で見ていました。
ーーどのように状況を捉え、行動されたのでしょうか。
高橋勘太:
「誰も動かない今だからこそ、先に動けば活路を見いだせる」と考え、積極的に投資する方に賭けました。緊急事態宣言の最中にガーデンエクステリア事業のフランチャイズに加盟し、「日本一になる」と決めて2年で達成しました。また、YouTubeでの情報発信に大きく投資した結果、今年の1月から新規のご相談が毎月50件ほど寄せられるようになったのです。
現場経験とSNSで築く独自の価値

ーーあらためて、貴社の事業内容と独自の強みをお聞かせください。
高橋勘太:
建築を軸に、新築から店舗内装、ガーデンエクステリアまで多角的に展開しています。特に店舗内装では、設計から施工までを一気通貫で対応できること。そして、私自身が16歳から大工として現場にいる経験を基に、お客様へ即決で提案できること。それが他社にはない価値だと自負しています。
ーー情報発信において、特に意識していることは何ですか。
高橋勘太:
この業界にはいまだに、メールの返信がない、専門用語ばかりで分かりにくい、といった“ブラックボックス”な部分が多くあります。そうしたお客様が抱える不安や不信感を一つひとつ解消していくことです。高橋であれば安心だと感じていただけるような、透明性の高い情報発信をYouTubeなどを通じて心がけています。
内装フランチャイズで業界の未来を拓く
ーー今後の事業における目標や展望をお聞かせください。
高橋勘太:
「内装業界で日本一になる」ことです。具体的には「店舗を開業するなら高橋に頼みたい」と、最初に名前が挙がるような存在になることを目指しています。ガーデン事業で日本一になれた経験が、この大きな目標への自信となっています。
ーー目標達成に向けた具体的な戦略はありますか。
高橋勘太:
「内装フランチャイズ」の展開です。YouTubeを始めて全国から問い合わせをいただくようになったものの、距離の問題でお断りせざるを得ないことが課題でした。そこで、私たちと同じ志を持つ全国の内装業者さんと連携し、私たちが集客を担う「集客型FC」を構築したいと考えています。これにより、人手不足の解消と、全国の開業者の支援を両立させ、業界全体のレベルアップに貢献していきます。
編集後記
16歳で母のためにと志した大工の道。その純粋な想いは、幾多の困難を乗り越える中で、業界全体の未来を想う壮大なビジョンへと昇華した。1700万円の不渡りという絶望的な状況ですら「神様からのプレゼント」と捉え、自らの責任として受け入れる強さ。その根底には、すべては自分の選択であるという潔い覚悟がある。高橋氏の挑戦は、内装業界に新たな道筋を示し、次代を担う存在となっていくだろう。

高橋勘太/16歳で大工の道へ入り、25歳で起業。現在13期目。店舗内装を軸に住宅・エクステリア・収益建築の4事業を展開。YouTube「内装工事ちゃんねる」で“業界のブラックボックスをなくす!”をテーマにして情報発信中。