
港湾、エネルギー施設、橋梁など、国家の基幹を成す社会インフラ。それらを海水や土壌による腐食から守り、寿命を延ばす「電気防食」技術。株式会社ナカボーテックは、この分野のパイオニアとして日本の産業発展を陰から支え続けてきた。安定した事業基盤を誇る一方、社会が大きな変革期を迎える中で、次なる成長への舵を切る。
2025年に代表取締役社長へ就任した宮地誠氏。大手非鉄金属メーカーで多岐にわたる事業を経験した知見を携え、変革の鍵は「人」にあると断言する。同社の技術的優位性の源泉と、宮地氏が掲げる「人が育つ会社」への展望、その経営哲学に迫る。
「3年で完成させる」仕事の流儀が生んだ揺るぎない価値観
ーーこれまでのキャリアと、そこで培われた信条についてお聞かせください。
宮地誠:
大学卒業後、三井金属鉱業へ入社しました。そこでは、技術開発から製造、事業企画、海外でのビジネスまで、非常に幅広い分野の仕事を経験しました。さまざまな立場から物事を多角的に見る視点は、このときに養われたと感じています。
事業環境や役割が目まぐるしく変わる中で、常に成果を出し続けることが求められました。その原点には、若い頃に出会った先輩からのある教えがあります。それは「仕事は3年で完成させなさい」という言葉です。1年目で現状を徹底的に把握し、課題を洗い出す。2年目でその課題を解決するための本質的な改革を実行する。そして3年目でその成果を見極め、仕組みとして定着させ、次の担当者に引き継ぐ。このサイクルを常に意識することで、仕事のスピードと質が格段に上がります。
この「3年」という区切りがあったからこそ、多岐にわたる分野で密度の濃い経験を積めました。そして、成果に繋げることができたのだと確信しています。この考え方は、私のビジネスにおける揺るぎない価値観となっています。
技術的優位性を支える従業員の誇りと変革への挑戦
ーー貴社の事業内容や、その特徴について教えてください。
宮地誠:
弊社は、港湾やプラント(※)といった社会インフラが海水や土壌によって錆びるのを防ぐ「防食事業」を中核としています。その根幹をなすのが「電気防食」という技術で、金属が腐食するのを電気化学的な作用で防ぐものです。一度施工すれば、数十年にわたってインフラの安全性を維持できるため、社会的な貢献度が非常に高い事業です。
弊社は「電気防食」が日本で黎明期にあった頃からこの事業を手がけています。長年の経験で培ったノウハウと実績が最大の強みです。
(※)プラント:化学、石油、電力、環境などの分野で、原料を加工して製品やエネルギー、または処理された資源を作り出すための、複数の設備・機器が組み合わさった大規模な生産設備システムのこと。
ーーその技術的優位性を支えているのは何でしょうか。
宮地誠:
間違いなく従業員です。弊社の仕事は、一つとして同じ現場はありません。それぞれの環境に合わせて最適な設計と施工が求められる、いわばオーダーメイドの世界です。それを可能にしているのが、従業員一人ひとりの技術力と経験、そして何よりも「日本のインフラを守っている」というプライドです。この誇りが、困難な現場でも最後までやり遂げる責任感と、高い品質を生み出す源泉となっています。
ーー代表取締役社長に就任された際の心境についてお聞かせいただけますか。
宮地誠:
パイオニアとして築き上げてきた安定した事業基盤と、従業員が持つ仕事への誇りは、素晴らしい財産だと感じました。一方で、その安定感が「現状維持で良い」という空気につながりかねない、という危機感も覚えました。世の中の動きは非常に速く、これまでの常識が通用しなくなる時代です。この安定した基盤の上にあぐらをかくのではなく、次なる成長に向けて自らを変えていく必要があると考えました。
挑戦を後押しする企業文化と次世代へ繋ぐ社長の決意

ーー事業展開するうえで、特に重視されていることはありますか。
宮地誠:
「人の成長」を重視しています。企業の持続的な成長の源泉は、突き詰めれば「人」しかいません。特に弊社の事業は、従業員一人ひとりが持つ技術力やノウハウが競争力の核となります。だからこそ、社員が成長を実感できる環境をつくることが、経営者としての最も重要な責務です。そのために、従業員の声に耳を傾け、エンゲージメントを高める取り組みが重要だと考えています。
また、研修制度の充実や、挑戦を後押しする評価制度の構築など、人的資本への投資は惜しみなく行います。「ナカボーテックは人が育つ会社だ」と社内外から言われるような企業文化を築き上げたいです。
ーー今後の事業ビジョンについて教えてください。
宮地誠:
まずは、これまで弊社を支えてきた「防食技術」という事業の基軸を、より強固なものにしていきます。このコア技術へのこだわりは、今後も揺らぎません。そのうえで、弊社の技術が活かせる周辺領域へも、積極的に事業を広げていくつもりです。たとえば、海外市場やRC(鉄筋コンクリート)構造物の維持管理。そして、今後重要になる洋上風力発電施設の防食などです。ただし、こうした新しい分野への挑戦は、決して簡単な道のりではありません。だからこそ、旺盛な知的好奇心と挑戦意欲を持った人材が不可欠だと考えています。
ーー採用に関して、今後どのような人材を求めていますか。
宮地誠:
仕事そのものに「働きがい」や「やりがい」を見つけたいという、強い思いを持った方に来ていただきたいです。インフラを支えるという社会貢献性、パイオニアとして新しい技術を追求する探求心、そして自らの手で巨大な構造物を守り抜く達成感。弊社には、そうした確かな手応えを感じながら成長できる環境があります。
ーー最後に、社長としての思いをお聞かせください。
宮地誠:
私の役割は、先人たちが築き上げてきたこの素晴らしい会社を、より強く良い形で次世代へ引き継いでいくことです。そのためには、現状に満足することなく、常に変化し続ける勇気が求められます。社員一人ひとりが自らの成長と会社の成長を重ね合わせ、仕事に誇りを持って挑戦できる。そんな未来を、皆と一緒につくっていきたいです。
編集後記
前職で培われた「3年で完成させる」というスピード感と、ナカボーテックが持つパイオニアとしての安定した基盤。一見すると相反する二つの要素を融合させ、新たな成長軌道を描こうとする宮地氏の姿が印象的であった。その中心にあるのは、「人」への信頼と期待だ。従業員が持つ技術へのプライドを最大の強みと捉え、その成長にこそ企業の未来を懸ける。「安定」という名の土壌に、「挑戦」という名の種を蒔き、人が育つことで「未来」を拓く。同社がどのような未来を描いていくのか、今後も注目したい。

宮地誠/1964年大阪府生まれ。1986年立命館大学理工学部卒業後、三井金属鉱業株式会社に入社。2014年同社執行役員に就任。以降、電池材料事業部長、触媒事業部長、人事部長、秘書室長を経て、2020年取締役に就任。環境安全最高責任者、技術本部長としてガバナンス体制の構築、コンプライアンス強化を推進。2024年6月に株式会社ナカボーテック取締役兼常務執行役員社長補佐、2025年6月に代表取締役社長兼社長執行役員に就任。「いまある“価値”を次代へ!」のスローガンを基軸に人財育成に注力。
 
             
                        
 
                    
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
     
     
                                