
建物設備のトータルサポートを展開するクウケン株式会社。同社は空調設備や給排水衛生設備、廃棄物設備において、新築工事から定期点検、大規模改修までをワンストップで提供し、顧客の建物を長期にわたって支え続けている。顧客と社員の双方に配慮した経営を実践する代表取締役の杉本知紀氏に話を聞いた。
営業担当から経営者へ。M&Aで事業拡大を実現した道のり
ーーこの業界に入ったきっかけを教えてください。
杉本知紀:
大学卒業後、弊社の親会社である松田電気工業株式会社に入社しました。当時はいわゆる就職氷河期で、就職先が限られている時代でしたが、友人から「松田電気工業に採用された」と聞き、初めて会社の存在を知って私も応募してみようと思いました。経済学部出身の私にとって電気工事の会社は未知の世界でしたが、就職できるだけでありがたいという思いでした。
入社後は主に官庁の営業を担当し、入札関連の業務に携わりました。その後、設計や積算部門のリーダーを務め、営業からマネジメントまで幅広い業務を経験しました。その過程で当時の役員の方々に目をかけていただき、入社から約16年を経て取締役に就任することになりました。
ーーこれまでのご経験で印象に残っているエピソードをお聞かせください。
杉本知紀:
最も印象に残っているのは、取締役就任後のM&Aです。当時の社長から「M&Aで事業拡大していきたい」という話があった際、私から「関西圏で空調や給排水設備などを扱える企業をM&Aしましょう」と提案しました。当時、松田電気工業は電気工事が中心でしたが、建物の設備をもっと総合的に手がけられるようになるべきだと考えました。このプランが受け入れられ、クウケン株式会社のM&Aに至りました。私の提案が会社の未来を左右するかもしれないことを実感するとともに、経営者になったことを改めて自覚した出来事でした。
3事業部体制で長期的に顧客を支えるビジネスモデル

ーー貴社の事業内容を教えてください。
杉本知紀:
弊社は空調や給排水衛生設備など、建築物における設備の設計からメンテナンスまでをワンストップで提供しています。事業部は3つあり、新築物件の設備を担当する工事事業部、既存物件の大規模改修を手がけるリニューアル事業部、そして頻度の高い点検・修理を行うメンテナンス事業部で構成されています。
弊社の強みは、新築物件の工事から始まり、定期的なメンテナンスや大規模な改修までワンストップでサポートできることです。また、一度ご縁をいただいたお客様と長期にわたってお付き合いができる点が差別化になっていると考えています。その結果、現在では新築物件の工事とリニューアル・メンテナンスの売上比率がバランス良く1:1になり、安定した経営基盤を築いています。
ーー業界の現状についてお聞かせください。
杉本知紀:
建設業界は1997年から就労人口が減少し続けており、多くの企業が淘汰されるという厳しい状況が続いています。しかし、ここ近年は業界の状況が大きく変わってきました。需要が急増し、対応しきれないほどの引き合いをいただく状況になっています。こうした環境の変化を受け、弊社では人材確保と育成に積極的に取り組んでいます。特に若手や女性の採用に力を入れ、持続的な成長基盤の構築を目指しているところです。
ーー経営において、最も大切にしている考え方は何ですか?
杉本知紀:
私の経営哲学の根幹にあるのは、「騙されてもいいけど騙してはいけない」という考え方です。一時的な利益よりも誠実さを貫くことで得られる信頼こそが、本当の企業価値だと考えているのです。これは松田電気工業の営業時代に当時の専務から教わったもので、今に至るまでずっと大切にしています。
充実した環境で「どこに行っても通じる人間」を育てていく
ーー働き方や福利厚生において、力を入れていることを教えてください。
杉本知紀:
働き方改革として、現場を支援する「後方支援室」を設置しました。この部署は、現場で必要となる書類や図面などの作成を担っており、技術者の負担を軽減し、時間外労働を削減しています。
また、従業員の経済面のサポートにも力を入れており、決算賞与制度を始めとして、現場管理者には常駐期間に応じた手当を支給しています。近年では奨学金の返還支援を開始し、月額1万円、最大130万円まで、会社が支援機構へ返還金を支払うシステムを構築しました。また、将来の安心のため、企業型DC(確定拠出年金)制度も10月から導入予定です。
加えて、福利厚生の面では育児休暇の取得を推進しているところです。男性社員が取得した例もあるので、今後も取得しやすい風土をつくっていくつもりです。他には、社員向けの資産形成や決算書の見方などの勉強会も実施し、経済知識の向上も支援しています。さらに、大阪・関西万博のチケットを社員に提供するなど、リフレッシュの機会も大切にしています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
杉本知紀:
これからの時代はデジタル技術を活用して業務効率化を図ることが不可欠です。弊社では現場調査で撮影したデータを活用するシステムを導入したり、AI技術を業務に取り入れる研究を進めています。今後もDXを推進することで、より質の高いサービスの提供が可能となるでしょう。
それと同時に、技術だけでなく人間としての成長も重視しています。私は社員に「どこに行っても通じるような人間になってほしい」と伝えています。技術者は専門性を追求するあまり、視野が狭くなりがちですが、変化の激しいこれからの時代は広い視野を持つことが重要です。
さまざまな取り組みを通じて、お客様にも社員にも喜ばれる企業として、着実に成長していきたいと思います。
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編集後記
取材を通じて印象的だったのは、杉本社長の「人」を第一に考える姿勢だ。クウケンでは、後方支援室の設置や奨学金返還支援、育児休暇の推進など、社員に対する多角的なサポート体制が整えられている。また、長年にわたって顧客と関係を継続し、建物のライフサイクル全体を見据えたビジネスモデルは、人との関係を大切にする同社の姿勢を体現しているといえるだろう。こうした「人」への真摯な対応が、同社の強みを支える基盤になっていることを実感した。

杉本知紀/1975年、奈良県生まれ。桃山学院大学卒業。1997年、松田電気工業株式会社に入社し、営業担当として従事。2014年、同社取締役に就任し、機械設備工事を得意とする企業のM&Aを提案。2014年に松田電気工業がクウケン株式会社の全株式を取得。その後、松田電気工業・クウケンの取締役を兼務。2019年、クウケンへ転籍。2021年に同社代表取締役に就任。