※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、工期遅れや受注減により一時的に打撃を受けた土木業界も、長期的にはインフラ設備の老朽化による改修工事や大阪万博、国土強靭化基本計画などのビッグプロジェクトにより堅調な推移が窺える。和歌山県に本社を置く三笠建設株式会社は、道路・上下水道・鉄道などの土木工事をメインとし、確かな技術力で地域の安全を支え続けている企業の1つである。

創業者が50年以上にわたり守り続けた同社を受け継いだのは、息子である村山宣義氏だ。大学卒業後から同社へ入社するまでの間、長年にわたり西日本旅客鉄道株式会社で活躍していた。「難題の解決に喜びを見出す気質のため、今も昔も、過酷な環境にこそ生かされていると実感します」と語る村山氏。社長就任以来、建設業界の慣習を見直す制度改革を次々と断行している。規模の拡大よりも質を重んじる経営戦略や、これからの建設業界を担う人材への熱い思いに迫った。

社長を志すターニングポイントとなった1冊の本

ーー貴社の社長就任を決意したきっかけを教えてください。

村山宣義:
実際に社長になろうと思ったのは、同じ東京工業大学の先輩であり、東芝の社長・会長を歴任し経団連第4代会長にも就任された土光敏夫さんに関する著書を読み返したことがきっかけです。

土光さんの母である土光登美さんが、男尊女卑の厳しい時代に70歳で橘学苑(旧橘女学校)を立ち上げたこと。また、土光敏夫さんご本人も86歳で政治の世界で活躍されたというエピソードを読み、「流されるまま安定を求めるよりも、鬼の口に飛び込むようなことを人生一度はやってみたい」と心が奮い立ったのです。

これまで社会資本整備に情熱を燃やしてきた経験を社会に還元するには、社長のポジション以外は考えられませんでした。三笠建設は2024年2月に創立50周年の節目を迎えましたが、会社を継続していく上で、外部の会社を経験し、後継のノウハウがある私が社長になるのがふさわしいのではと思い、入社を考えた時点で社長を志していました。

ーー貴社に入社した後から社長に就任するまでのエピソードをお聞かせください。

村山宣義:
小さい頃から父に「会社を継いでほしい」と言われたことはありませんでした。実際には他の人に継いでもらう準備をするでもなく、会社を畳む気配もないので、心のどこかで私に継いでほしいと考えていたのかもしれませんが、父としては息子に将来のレールを敷くのをはばかっていたのでしょう。私が前職を辞めると父に伝えたときも、「ええよ」の一言のみで、「戻ってこい」という言葉はありませんでした。

2022年の7月に弊社に入社した後は、社員の顔も分からない状態でしたので、まずは社員の名札プレートを配る仕事を1ヶ月続けました。その後は1年かけて下水道工事の監督として、社員や外注業者など全ての関係者と顔を合わせてプロジェクトを完遂しました。その後、2ヶ月間の事務所作業を通してスタッフ部門の支援方法や経営ビジョンを策定しました。準備を整えたところで2023年の8月に社長に就任し、現在は代表権のたすきをしっかりと受け取っています。

50年間信頼を積み上げてきた会社の強みと弱み

ーー前職で学んだ経営のノウハウはどのようなものでしたか。

村山宣義:
西日本旅客鉄道では、さまざまな方法論を学んできました。しかし、大企業がやっていることが全て正しいわけではなく、それぞれの会社の規模と複雑な事情によって最適解は異なります。会社の収益を上げる原動力となる部分、すなわちコア・コンピタンスを見極めるために、会社の強みと弱みを抽出していく必要があります。弊社の場合、時代に取り残されている部分が多いことが弱みでした。

強みは、50年かけて培ってきた技術と誠意です。弊社が一番強いのは舗装工事ですが、土木工事の分野でも定評があります。土木工事も大きく分ければショベルカーやブルドーザーなどで土を動かす「一般工事」と、杭を打ったり薬液注入をしたりする特殊な技術が必要な「専門工事」に分かれます。弊社の施工を見たお客様からは「三笠建設さんの仕事は一般工事どころではなく、専門工事だといえるくらい素晴らしいものだ」とお褒めの言葉をいただきました。技術もさることながら、長きにわたりお客様の信頼を勝ち取ってこられたのは、仕事に対する誠意を感じとっていただけたからです。

弊社の創業者がよく口にしていた「苦しみに負けるものあり、苦しみを乗り越えるものあり」という言葉があるのですが、長きにわたり困難に立ち向かい、会社一丸となって乗り越えてきた努力の結晶が、誠意として仕事に反映されているのだと思います。

ーー貴社が誇る多様な工事への対応力について教えてください。

村山宣義:
弊社が最も得意としているのは道路工事です。道路をつくる際にはアスファルトで舗装を施しますが、その前には地盤や路盤の土を動かし、道路の基礎をつくる作業が必要になります。こうした舗装を中心とする道路工事で鍛えられた技術が、私たちの基本です。これからは、道路工事だけでなく、その周辺に構築する擁壁(※)などの工事にも注力していく方針です。斜面を安定させるのり面工事や、防護柵・落石防護施設などの道路付属施設の整備、工事の支障となる建物の解体など、道路工事で培った土木技術を生かし、対応できる領域を広げていきたいと考えています。

また、私自身が前職で鉄道業界に長く携わってきた経験もあり、鉄道関連工事も弊社の得意分野になっています。鉄道精通会社として実績を積み重ね、確かな信頼を得ていることも大きな強みです。

※擁壁(ようへき):斜面の土砂が崩れるのを防ぐための壁状の構造物のこと。

ーー今後の事業展開において、どのような方針を重視されていますか。

村山宣義:
むやみに規模を拡大するのではなく、質を追求する会社にしていきたいと考えています。建設業界では売上高が会社の規模を示す指標として重視されがちです。しかし、規模だけを追い、自社の強みを生かせない分野で無理に競争すれば本質的な成長は望めません。たとえば、年度末の繁忙期に合わせて人員を倍増させればその時の売上高は上がるかもしれませんが、施工の質が保てるのか、閑散期にどうするのかと頭を悩ませることになります。規模を追うのではなく、弊社がつくったものは間違いないと地域の方々に認めていただける、質の高いものづくりを最優先に目指しています。

社員とのコミュニケーションから生まれた制度改革

ーー社長就任後に実行された具体的な社内改革についてお聞かせください。

村山宣義:
私が就任してからは、多くの制度を明文化しました。資格支援制度として、資格取得者には一時金を出します。資格勉強や技術習得に集中できるよう、家庭環境のサポートとして慶弔金や災害時の復旧一時金などの制度も整えました。

さらに労働環境の改善として、建設業界で一般的な日給を基本とする給与体系を見直し、安定した収入を確保できる給与制度である日給月給制へ移行しました。土日も休まず夜も働けば給与が増える仕組みは心身の疲弊につながり、長時間労働を助長するリスクでしかありません。社内からの反発もありましたが、昇給で補完するなど丁寧に対応して進めました。あわせて、若者が重視する休みを確保するため、年間休日125日と完全週休2日制を実現し、残業もほとんどない環境を整えています。こうした制度をつくるにあたって、私が大切にしているのは社員とのコミュニケーションです。極力現場にも出るようにし、夜間作業などで少し時間に余裕があるときは社員となるべく話をして、社内での心理的不安をなくせるように心がけています。

ーー技術の伝承と現場の効率化は、どのように両立させていますか。

村山宣義:
昔ながらの職人の世界では、親方の背中を見て仕事を覚え、休みなく作業をこなすことで量を質に転化させる「量質転化」の考え方が根強くあります。しかし、限られた時間の中で技術を伝承していく今の時代において、その手法には疑問を感じる部分も少なくありません。

弊社では、専門職でありながら複数の業務をこなせる多能工の育成を推進しています。これは創業者の代から伝統的に継承してきた手法であり、舗装工事だけでなく、土工やコンクリート工事、ダンプの運転など、さまざまな工事に対応できる強みとなっています。

たとえば、舗装が得意だと入社したメンバーにダンプカーの運転や運送業務を任せることもあります。現在運輸を担当している部長は現場の作業を深く理解しているため、的確な段取りができ、他社からも高い評価をいただいています。一人ひとりが多様な業務をこなせるからこそ、現場の効率化が進み、クライアントからの厚い信頼につながっているのでしょう。

多様性の推進と独自のブランディング戦略

ーー女性の活躍推進に関して、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

村山宣義:
建設業界は女性には務まらないという古い慣習には、ずっと疑問を抱いていました。女性には女性の、男性には男性の才能があります。性別にかかわらず、一人ひとりにそれぞれの才能や強みがあり、誰もが等しく活躍できる可能性を秘めています。業界の慣習や設備面での課題は会社側の問題であり、女性の可能性を否定する理由にはなりません。この考えのもと、弊社では男女隔てなく働ける環境づくりに努めてきました。

その結果、社員が自発的に動き、わずか半年で和歌山県の建設業者では初めてとなる「えるぼし認定」(女性活躍推進法に基づき、取り組みが優良な企業を厚生労働大臣が認定する制度)の最高位である3段階目を取得してくれました。これは、私が無理に指示したわけではなく、社員が共感し、自ら実現してくれたことが何よりも嬉しかったですね。

ーー社長自らがSNSで情報発信をされる目的を教えてください。

村山宣義:
建設業は不特定多数の顧客を持つわけではないため、メッセージを届けるべき相手が求職者や同業者、官公庁などに限られます。そこで、私が自ら会社の魅力を言語化し、SNSで発信することにしました。

弊社の職人が真面目に一生懸命ものづくりに取り組む姿を見て、「技術と誠意で創造」をモットーに掲げました。これを軸にInstagramやTikTok等を通じて発信を続けた結果、SNSを見て応募してくださる求職者が確実に増えています。会社の強みや思いを自分自身の言葉で整理し、直接社会に届けるための有効な手段として活用しているのです。

年齢よりも熱意とエネルギーを重視する採用への考え方

ーー採用において求める人物像をお聞かせください。

村山宣義:
採用は主に現場監督と作業員を募集しています。理想の人材などというものはなく、和歌山で活躍したい方や、土木に少しでも興味を持っている方がいれば、まずは弊社に来てください。全力でバックアップし、皆さんの成長を応援します。

以前は若い世代の採用にこだわっていた時期もありましたが、現在は年齢よりも建設業への思い入れや和歌山のインフラを守りたいという熱意、強いエネルギーを持っている方を求めています。労働環境をいくら整えても、本当にやりたいというモチベーションがなければ長く続けることは困難です。

また、中途採用に力を入れる一方で、新卒採用も毎年1名程度の採用を目標に継続して取り組んでいます。新卒の方々に向けて、弊社がどのような取り組みを行い、どのような未来を描いているのかを、継続して発信していくことが重要です。現場での丁寧な指導はもちろん、会社の支援で資格も積極的に取得できます。昨今の傾向として数年のうちに転職する方も多いのですが、たとえ弊社を離れてしまったとしても、「三笠建設を経由したことで成長し、さらに良い職場に就くことができた」と思ってもらえる会社にしたいと考えています。

ーー最後に、次世代の方に向けてメッセージをお願いします。

村山宣義:
悔いのない人生を送るために、やりたいことを存分にやった方が良いと思います。私たちの時代は大企業に就職し、定年まで勤め上げるために、たくさんの犠牲を払ってきました。時代は変わり、今の若い人たちには多少の犠牲を払ってでもやりたいと思うことを見つけてほしいと思っています。転職の多い時代ですが、私が知る限り、成功する人は転職しながらでも常に自分を磨き、落ち着いたところで活躍しています。

編集後記

長年根付いてきた業界の当たり前を見直し、独自の制度で組織をアップデートし続ける三笠建設株式会社。給与制度の見直しや年間休日の増加といったトップダウンの改革に加え、それに呼応した社員が自発的に「えるぼし」認定を取得したエピソードからは、風通しの良さと組織の強固な信頼関係がうかがえる。安易な規模拡大に走らず、徹底して施工の質を追求し、ものづくりに没頭できる環境づくりに注力する同社。ここから次世代のスタープレイヤーが育っていく未来が楽しみだ。

村山宣義/1969年生まれ。大阪府出身。1994年、東京工業大学大学院理工学研究科修了。2022年7月、三笠建設株式会社に入社。2023年8月、代表取締役社長に就任。技術士(総合技術監理部門・建設部門)。