
気候変動や地球温暖化といった社会課題の解決を目指し、脱炭素分野に特化した転職支援・採用支援サービス「Beluga Career(ベルーガキャリア)」を展開するLeaf Ring株式会社。同社は創業以来、外部資本を入れずに事業を成長させ、業界を牽引する大手企業から最先端技術を持つスタートアップまで、約500社の採用を支援してきた。代表取締役社長を務める岡﨑直樹氏は、学生時代に共同創業者の櫻井和哉氏と出会い、それぞれ別のキャリアを歩んだ後に共同で会社を設立した。父親の働く姿から得た学び、そして社会人1年目に直面した突然の経営危機。自らの手で未来を切り拓くことを決意させた岡﨑氏の原点と、事業を通じて実現したい世界について話を聞いた。
原体験が形づくったキャリア観
ーーキャリアを考える上で、原点となった経験についてお聞かせください。
岡﨑直樹:
福岡県北九州市で生まれ、地元の百貨店に勤める父の姿を見て育ちました。父が就職したのはバブル期で、百貨店が全盛期だった頃です。しかし、私の記憶にある父のキャリアの大半はバブル崩壊後でした。業界全体が緩やかに衰退していく中で、父個人がいくら業績を上げても、会社そのものが縮小していく。その大変さを子どもながらに感じていました。この経験から、社会の厳しさや、専門性、つまり「手に職」がなければ生き残れないという考えが漠然と芽生えていったように思います。
ーーその考えは、学生時代の進路選択にも影響を与えたのでしょうか。
岡﨑直樹:
専門性の高さや希少性という観点から弁護士という職業に興味を持ち、京都の立命館大学法学部に進学しました。大学では学生法律相談部に所属し、そこで共同創業者の櫻井と出会います。櫻井も弁護士を目指しており、向かう方向性が同じでした。しかし、大学で先輩たちの多様な進路に触れる中で、私の考えも少しずつ変化していきました。法律の知識を活かして金融やコンサルティングといったビジネスの世界で活躍する先輩も多く、社会をより広く、解像度高く知る機会が増えました。弁護士になるには大学院に進む必要があり、社会人として独り立ちするまでに時間がかかります。私はより早く社会に出て勝負したいという気持ちが強くなり、大学卒業後は民間企業へ就職する道を選びました。
会社に依存しない生き方を決意した社会人黎明期
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
岡﨑直樹:
新卒でリクルートをルーツに持つ不動産開発会社の株式会社コスモスイニシアに入社しました。しかし入社した2009年4月の末、日経新聞の一面記事で自社が事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)を申請したことを知りました。これは、会社が単独で経営できなくなることを意味します。その結果、新卒の同期や年の近い先輩たちは全員、会社都合での退職となりました。社会人としての一歩を踏み出して、わずか1カ月後の出来事です。私自身も早期退職プログラムに乗り、半年で会社を辞めることになりました。
ーーその経験から、キャリアに対する考え方に変化はありましたか。
岡﨑直樹:
非常に大きな変化がありました。決して大企業を選んだわけではありませんが、企業に身を委ねる生き方の危うさを痛感したのです。誰かがつくった事業の中で働くのではなく、自分で事業を生み出し、その行く末に責任を持つような生き方をしたいと強く思うようになりました。この経験が、新規事業の立ち上げや、その先にある起業という選択肢に興味を持つ直接のきっかけになったと考えています。
ビジネスの基礎を固め ITベンチャーでの「疑似起業」へ

ーー早期退職後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
岡﨑直樹:
将来は自分で事業を作りたいと考える一方で、社会人経験わずか半年で、変化の激しいIT業界などのスタートアップ領域へ飛び込むことは時期尚早であり、まずは足元のビジネススキルを固めるべきだと考え、2社目は学生時代の就職活動のご縁で、不動産ファンド系のホテル開発運営会社に入社しました。そこで事業管理や収支管理といった経営の基礎を一通り学んだ後、いよいよ本格的に「新規事業に挑戦したい」という思いが強くなり、2012年に新卒時代の同期の紹介で株式会社Speeeに転職しました。ここからが、私の本当の挑戦の始まりでした。
ーーSpeeeでは、具体的にどのような経験をされたのですか。
岡﨑直樹:
「将来起業するための力をつけたい」という一心で入社し、社内の新規事業企画コンテストへの参加をきっかけにチャンスを掴み、役員直下のチームで不動産領域のDX事業「イエウール」を立ち上げることになりました。当時26歳という若さで責任者を任せてもらい、プロダクト開発からマーケティング、組織づくりまで、未経験の領域で試行錯誤を繰り返しました。失敗から学び、成功法則を見出しながら事業を急成長させたこの数年間は、私にとって非常に価値のある「疑似的な起業体験」となりました。
ーー順調なキャリアを歩む中、どのような転機が訪れ起業を決意したのですか。
岡﨑直樹:
30歳を目前に結婚し子どもが生まれたことで、「子どもの未来に残すべき社会」について深く考えるようになり、気候変動や環境問題というテーマに行き着きました。この巨大な社会課題にビジネスで挑みたいと決意した時、背中を押してくれたのが共同創業者の櫻井です。大学時代の同期である彼も、奇しくも同じような課題意識を抱えていました。彼とならば実現できると確信し、2018年に会社を設立しましたが、当初は具体的な事業内容を決めていませんでした。まずは数カ月かけて業界の最前線の有識者へのヒアリングやリサーチを行い、脱炭素分野には資金が集まっているものの、事業を推進する“人”が圧倒的に不足しているという課題が見えてきました。そこで、この分野に特化した人材支援こそが貢献の第一歩になると考え、「Beluga Career」を立ち上げたのです。
脱炭素の未来を拓く事業開発カンパニーへ
ーー「Beluga Career」が提供する価値と、貴社ならではの強みを教えてください。
岡﨑直樹:
私たちは脱炭素・グリーンエネルギー(※1)領域に特化し、再エネ開発事業者から蓄電池・水素などのスタートアップ、GX(※2)コンサルティングを行う企業まで、幅広く採用支援を行っています。最大の強みは、私がSpeee時代に培ったデジタルマーケティングの知見と、業界特有の専門知識を掛け合わせている点にあります。一般的な人材紹介とは異なり、企業の事業戦略を深く理解した上で「どのポジションに、どんなスキルを持つ人材を配置すべきか」という戦略的な提案が可能です。
また、外部資本を入れない独立経営を貫いているため、短期的な収益よりも、企業の長期的な成長に資する本質的なマッチングに徹することができます。この「専門性」と「中立性」が、約500社の企業様から選ばれ続けている理由だと自負しています。
ーー今後の事業は、どのように展開していく計画でしょうか。
岡﨑直樹:
短期的には、現在好調な人材紹介事業を「採用支援全般」へと拡張し、HR(※3)事業をさらに拡大していきます。中期的には、このHR事業で得た収益を再投資し、もう一つの収益の柱となる事業を確立したいです。そして長期的には、この安定した経営基盤の上で、利益だけにとらわれず、社会貢献性の高い新規事業をメンバー主導で次々と生み出していける「GXの事業開発カンパニー」になることを目指しています。
(※1)グリーンエネルギー:太陽光や風力など、温室効果ガスを排出せずに生成される再生可能エネルギーのこと。
(※2)GX:Green Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)の略で温室効果ガス排出削減と経済成長の両立を目指す取り組みのこと。
(※3)HR:Human Resourcesの略。人的資源。人材の採用・配置・育成・評価などの業務全般を指す。
ーー最後に、どのような思いを持つ方にLeaf Ringへ参画してほしいですか。
岡﨑直樹:
20代の頃は、自分の成長にベクトルが向くのが自然だと思います。私自身もそうでした。その上で、脱炭素という分野が次世代の成長産業であり、社会にとって本当に必要なテーマであることに気づき、自分の市場価値を高めるためにも挑戦してみたいと考えてくれる方に参画していただきたいです。業界への関心と前向きな姿勢があれば、専門知識は入社後に学べます。この大きな社会課題の解決に、共に挑んでくれる仲間が増えることを楽しみにしています。
編集後記
父親の背中から社会の厳しさを学び、キャリアの出発点での挫折を「自ら事業を生み出す」決意へと転換させた岡﨑氏。その歩みは、常に未来を見据え、課題から目を逸らさず、自身の経験を次の一手へと昇華させてきた軌跡そのものである。子どもたちの未来を思う個人的な感情から、気候変動という壮大な社会課題にビジネスで挑む同氏の視線は、冷静かつ熱い。単なる人材のマッチングに留まらず、業界全体の発展を促す「事業開発カンパニー」を目指すという構想は、社会課題解決の新たなモデルケースとなる可能性を秘めている。

岡﨑直樹/立命館大学法学部卒業後、株式会社コスモスイニシアを経て、2012年に株式会社Speee(東証スタンダード上場)に入社。入社後、DX事業の新規事業責任者として事業立ち上げに成功。その後、複数のDX事業の事業統括に従事。2018年2月にLeaf Ring株式会社を設立し、代表取締役に就任。