※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

株式会社ニッカトーは、100年以上の歴史を誇る工業用セラミックスメーカーである。耐熱性や耐摩耗性に優れたセラミックス製品と、熱に関する計測機器などを扱うエンジニアリング事業の二本柱で、科学技術の発展を支えてきた。特に、顧客の要望に細やかに応えるオーダーメイドの開発力は同社の大きな強みだ。大学での研究から同社一筋で歩み、主力製品である「YTZジルコニア」の開発に40年近く携わってきた代表取締役の大西宏司氏。研究者出身である同氏に、技術者としての信念、未来を担う若手への思い、そして同社が目指す未来について深く話を聞いた。

研究者としての歩みと製品開発への情熱

ーー大学での研究からニッカトーへ入社された経緯を教えてください。

大西宏司:
大学では無機材料工学科というところで、セラミックスを中心に研究していました。実験では、るつぼやチューブといった弊社の製品を実際に使っていたので、会社の存在はその頃から知っていました。研究を進めるうちにセラミックスの面白さを感じ、大学で学んだことを生かせる会社へ行きたいと考えていました。そんな折に大学の先生から勧められ、入社を決めました。

ーー入社後、特に印象に残っている仕事についてお聞かせください。

大西宏司:
弊社の主力製品である「YTZジルコニア」の粉砕用メディア開発には、40年近く携わってきました。これは積層セラミックコンデンサ(MLCC)(※)の製造に不可欠な材料です。その材料の特性をいかに向上させるか、評価も含めて長年関わってきたことは、私にとって一つの実績だと感じています。今でもこの材料には強い親しみがあります。

(※)積層セラミックコンデンサ:Multi-Layer Ceramic Capacitorsの略。電子機器の回路内で電気を蓄えたり放出したりする、現代のデジタル社会に不可欠な電子部品のこと。

ーー新製品を開発し、工場で生産する上で大変だったことは何ですか。

大西宏司:
新しい製品は、作り方も少し変わることがあります。工場側は安定してものを作るという観点から、条件を変えることに慎重になる傾向があります。そこを乗り越えるため、実験データを持って丁寧に説明し、協力をお願いしてテストを進めていきました。幸い、親身に相談に乗ってくれる先輩がいたおかげで、製品化できたものがいくつもあります。また、あるお客様から非常に高い特性を求められ、従来にない新しい設備を導入したこともありました。20年以上前、立ち上げに約1年を要しましたが、完成した時にはお客様から絶賛していただき、今でも製品として使われているのはうれしい限りです。

ーー長い研究開発のキャリアで、大切にされてきた考え方はありますか。

大西宏司:
部下の研究員には、「うまくいかない時ほどうまくいく方法を真剣に考えてほしい」と伝えてきました。そして、「失敗しても、その失敗を絶対に忘れるな。失敗は必ず成功につながる」と。成果をすぐに求めると、失敗した時点で終わってしまいがちです。しかし、そこで冷静になぜ失敗したのかを考え、データをきちんとまとめることが重要です。どんな技術者も、地道な努力や執念があってこそ成果にたどり着けるのだと思います。

100年の信頼と技術力で応えるニッカトーの強み

ーー貴社の主力事業について、改めてご紹介いただけますでしょうか。

大西宏司:
弊社には2つの事業があります。1つはセラミックスの製造・販売を行うセラミックス事業。もう1つは、熱に関する計測器や電気炉といった設備を扱うエンジニアリング事業です。セラミックス事業では、耐熱性や耐摩耗性を利用した製品をお客様のオーダーに合わせて作り、納品しています。この2つの事業でお客様を支えています。

ーー2つの事業が連携することで、どのような相乗効果が生まれますか。

大西宏司:
セラミックスとエンジニアリングでは、お客様が共通している分野も多くあります。たとえば、エンジニアリング部門が電気炉を設置する際に、そこで使うセラミックス製品をPRできます。逆にセラミックス部門の担当者がお客様先で電気炉を提案することも可能です。このように、互いの事業が相乗効果を生み出しながら展開しているのが特徴です。

ーーお客様からニッカトーが選ばれる理由は何だとお考えですか。

大西宏司:
規格品だけでなく、お客様の要望に応じて一から作る“オーダーメイド”に対応できる点が大きいと考えています。弊社は創業から100年以上経っており、多くのお客様と長いお付き合いの中で、さまざまなご要望に応えてきた経験と実績があります。その結果、お客様に“セラミックス製品が必要なら、まずニッカトーに相談してみよう”と思っていただける。その信頼関係こそが、私たちの強みです。

未来を創る挑戦 生産性向上と脱炭素への取り組み

ーー5年後、10年後を見据え、どのような会社を目指していますか。

大西宏司:
電子部品業界は開発のスピードがますます上がっています。その流れにしっかりとついていき、世の中の発展に貢献し続けることが私たちの使命です。今後は電子部品だけでなく、環境分野などにもセラミックスの可能性を広げていきたいと考えています。地道かもしれませんが、年5%程度の着実な成長を目指していきます。

ーー生産性を向上させるために、どのような改革を進めていますか。

大西宏司:
セラミックス業界は、経験や勘といった“属人化”の傾向がまだ強いのが実情です。しかし、今後の人材の流動化などを考えると、そこから脱却していかなければなりません。ものづくりの方法についても、従来の形にとらわれる必要はありません。たとえば、金属や有機材料の分野で採用されている方法で使えるものがあれば、どんどん取り入れていく。そうした改革なくして、セラミックス自体の発展もないと考えています。

ーー脱炭素社会の実現に向けて、どのような貢献をお考えですか。

大西宏司:
セラミックスは金属などに比べて寿命が長いという特長があります。部品の寿命が長くなれば、交換頻度が少なくなり、製造回数も減るため、結果的にCO2排出量の低減につながります。この素材の特性をよりアピールしていきたいです。また、資源を有効に使うリサイクルなどにもさまざまな方法で対応し、社会に貢献していきたいと考えています。

若手の成長が未来を拓く ニッカトーの人材育成

ーー若手人材の採用や育成について、特に力を入れていることは何ですか。

大西宏司:
近年はインターンシップを積極的に受け入れ、弊社のことを知ってもらう機会を増やしています。また、入社後の教育にも力を入れており、階級に応じた研修を高い頻度で実施しています。外部の講師を招いたセミナーなどを通じて、将来のリーダー育成も含め、従業員のレベルアップを図っています。

ーーニッカトーという環境だからこそ、若手技術者が得られる経験や醍醐味は何でしょうか。

大西宏司:
大きな会社では、一つのものを作るのに多くの人が関わるため、担当業務が細分化されていることが多いと思います。一方、弊社には“一から十まで自分でやり遂げられる”環境があります。ものづくりの楽しさ、そして自分の仕事が成果に結びつく達成感を、ダイレクトに味わってもらえます。そこが大きな魅力ではないでしょうか。

ーー社長ご自身は、共に働く社員の皆様にどのような思いがありますか。

大西宏司:
社長になって工場などを巡ると、社員一人ひとりが、いろいろと考えながら仕事に取り組んでいることに改めて気づかされます。現場で生まれる工夫や改善、それこそが弊社の本当の技術なのだろうと感じることが多々あります。日々会社を支えてくれる従業員には、本当に感謝しています。

「何でも挑戦したい」あなたへ 未来を共に創るメッセージ

ーーこれから社会に出る学生や若手技術者へメッセージをお願いします。

大西宏司:
弊社の製品は、皆さんが普段使う電子機器などを通じて情報社会を支える、なくてはならないものです。世の中に大いに役立っているという、やりがいを感じられる仕事だと思います。弊社は会社の規模こそ大きくありませんが、歴史の中で培ってきた確かな実績があります。何より、一つのことだけでなく、いろいろな仕事に携わり、多様な経験を積むことができる環境です。「何でも挑戦したい」という意欲のある方と、ぜひ一緒に未来をつくっていきたいです。

編集後記

研究者として40年近く一つの材料と向き合い続けた大西氏。その言葉からは、失敗を恐れず真理を探究する技術者の誠実な姿勢が伝わってきた。「失敗は必ず成功につながる」という信念は、100年以上の歴史で幾多の困難を乗り越え、顧客の要望に応え続けてきたニッカトーの企業文化そのものなのだろう。若手が一から十まで携われる環境は、まさしくこの信念を次世代に継承するための土壌である。地道な研究開発が、私たちの知らないところで社会を支えている。その揺るぎない事実に、改めて気づかされる取材であった。

大西宏司/1958年大阪府生まれ、1981年京都工芸繊維大学工芸学部無機材料工学科卒業後、株式会社日本化学陶業(現・株式会社ニッカトー)に入社。取締役研究開発部長、常務取締役生産本部長などを経て2018年6月、代表取締役社長に就任。