1948年に創業し、愛知県碧南市に本社を置く三河鉱産株式会社。76年という長い歴史の中で鋳造用塗型剤事業を発展させ、自動車メーカーをはじめとするさまざまな業界を支えてきた。2022年に代表取締役社長へ就任した小川芳孝氏に、就任の経緯や現在の事業内容、今後のビジョンについてうかがった。
三菱商事に定年まで従事し、鉄鋼製品と自動車部品に精通
ーー前職の三菱商事でのご経験をお話しいただけますか。
小川芳孝:
大学院を卒業したのち、三菱商事に入社して鉄鋼製品事業に長く携わりました。基本は、仕入れた鉄を一次加工してお客様に提供するビジネスです。約16年後、同部門が独立する形で発足した鉄鋼総合商社である「メタルワン」に出向、営業のみならず会社経営のノウハウを得ました。
3年間ほど経験した自動車部品事業では、プレス事業をグローバルに展開。鉄を売るのではなく鉄を使う立場で見る機会を得て、新しいサプライチェーンをつくり込む方法を考えたり、自動車部品に関する投資・開発事業に貢献しました。鉄鋼製品の分野でも主に自動車メーカー向けの業務を担当してきたので、ネットワークを活用した新たなビジネス展開を任されたのだと思います。
その後、2022年に定年退職を迎え、過去の経験も評価され、弊社の代表に就任する機会をいただきました。
ーーどのようなときにご自身の成長を感じましたか?
小川芳孝:
鉄のサプライチェーンを担う仕事は、とてつもない緊張感と責任が伴います。大手を中心としたサプライヤーのニーズに合わせて、間違いのない製品をしっかりと供給しなければなりません。また、人の少ない夜間や自然災害でトラブルが生じたとしても事業が途切れない仕組みをつくり上げられたことは自分の成長に寄与しただけでなく、大きなやりがいがありました。
すぐれた鋳物づくりに欠かせない塗型剤を自社開発--商社機能とメンテナンス事業も柱に
ーー事業内容について教えてください。
小川芳孝:
弊社には事業の柱が3つあります。1つ目は、鋳物の型を保護する役割を持つ塗型剤(とがたざい)を自社で開発・製造・販売し、提供する事業です。2つ目は、鋳型用の砂など鋳造工業における副資材を商社として仕入れ、お客様に販売しています。
3つ目は、鋳造を中心とした機械設備のメンテナンス事業です。鋳物づくりの機械は超高温の厳しい環境下で扱われるため、機械の安定・安全性を保つためにも日頃のメンテナンスやサポートが欠かせません。
ーー企業としての強みやこだわりについて教えてください。
小川芳孝:
一番の強みは、3つの柱を連携させながら、お客様の課題に対する答えを的確に提案していけることです。経営資源としての強みは、お客様の課題を掘り起こす営業力と、やはり自社で研究所と工場を持つ「塗型剤」が差別化ポイントと言えるでしょう。
弊社は、鋳造用副資材となる天然鉱物を扱う事業からスタートしました。先代たちは大手自動車メーカーに天然鉱物を提供する中で「今後は塗型剤が重要な資材になる」と考え、チャレンジしました。かつての塗型剤は高価な海外輸入品しかなく、タイムリーに手に入らないものでした。そこで、かねてよりお付き合いのあったトヨタ自動車様のご提案とご指導により、自社開発を進めたことで独自の強みを手にしました。
自動車エンジンの領域における知見は業界内でも圧倒的に豊富です。とはいえ、一方的に知見を提供するのではなく、お客様に伴走するイメージで「ご一緒に問題を解決する」という姿勢を大切にしています。
ーー取引先はどのように広げてきたのですか?
小川芳孝:
1945年の終戦後、自動車産業が急成長する上で鋳物は重要な存在でした。いすゞ自動車の伊藤正男氏が「鋳物を制するものはエンジンを制し、エンジンを制するものは車両を制す」と言われたほどです。
日本の産業復興とともに鋳物産業も成長しました。当時、求められる機能や生じる課題は、どの鋳造会社も共通していたと思います。鋳物業界には各種団体があり、課題解決に向けて情報交換が行われています。弊社は守秘義務に基づいて、業界内でも早い段階から横のつながりを広げ、鋳物の品質向上の一助に努めました。そして、交流で得た課題やニーズをもとに、さまざまなお客様へアプローチしていきました。
自動車エンジンの知見を糧にグローバルな展開を計画
ーー今後の展望をお聞かせください。
小川芳孝:
長年の経験を活かした国内外への展開と、塗型技術を活用した商品開発に注力していきます。自動車の内燃機関向け技術を基に、いかに3つの事業を広げられるかが重要です。
自動車用途に限らず、複雑で繊細な形状の鋳物づくりをサポートする技術があるので、ニーズがありそうなお客様へアピールしていきます。地元東海エリアだけでなく、国内全体で取引先を開拓していきたいですね。
海外展開においては、メインの販路としてきたASEAN(東南アジア諸国連合)以外の地域にも注目しています。自動車の電動化やカーボンニュートラルが世界的な流れではあるものの、新興国では内燃機関のニーズがまだまだ高いので、燃費性能の向上といった品質改善を支えるビジネスの開拓に取り組んでいこうと思います。
編集後記
長年にわたって三菱商事で培ったノウハウを活かし、引き継いだ事業をさらに成長させている小川社長。三河鉱産は、自動車の電動化が進む中でも求められるニーズを見逃さず、「内燃機関の未来の形」に挑み続ける。まさに、日本ならではの真摯なものづくりと探求心を体現している会社だ。
小川芳孝/1987年、三菱商事に入社。鉄鋼製品事業、自動車部品事業に従事。2003年、メタルワン発足に合わせ同社へ出向、営業に加え事業投資や事業会社経営の経験を積む。2020年、営業管掌役員に就任。2022年、三菱商事に帰任したのち定年退職。同年、三河鉱産の代表取締役社長に就任。