
株式会社ホテルマネージメントジャパンは、日本全国で複数の異なるブランドを同時に運営・経営する、マルチブランドオペレーター会社だ。オリエンタルホテルやヒルトン、シェラトンなどのグローバルブランドなど、8,831室のホテルを展開している。コロナショックを経て、インバウンド需要の回復と共に新たなフェーズへと突入したホテル業界だが、同社は単なる宿泊施設にとどまらず、地域と深く連携した「体験」の提供に注力している。今回は、代表取締役の荒木潤一氏に、ホテル業界へ転身したきっかけや事業の強み、業界の現状、同社で描けるキャリアの可能性などについて話をうかがった。
一販売員としての葛藤を越え、ホテル業界に見出した勝機
ーーまずは、ホテル業界に転身したきっかけを教えてください。
荒木潤一:
最初に入社した株式会社ダイエーでは衣料品の販売を担当していました。当時は衣料品の販売を担当していましたが、販売戦略は他部署が担当していたので自分の売りたい商品を仕入れることができず、商売の一連の流れに深く関われないことにもどかしさを感じていたのです。もともと私は、アイディアを出して商品を考えたり、販売の戦略を考えてサービスをお客様に提供するプロセスが好きでした。そのため、現場の最前線で戦略から実行までを一貫して手掛けられる業種への挑戦を志すようになりました。
そんな折、尊敬する方からホテル業界の話を聞く機会がありました。「多様な目的で人が集まる場所だからこそ、戦略一つでお客様の動きが変わる」というホテルの魅力に惹かれ、この世界へ飛び込む決意をしたのです。ホテル業界には、自分で考えた企画で直接お客様を喜ばせることができる、私が理想としていた「商売の面白さ」が凝縮されていました。
ホテルという枠を超え、街に刺激を与える「コト」の価値

ーー貴社の事業内容や特徴について教えてください。
荒木潤一:
弊社は国内で26のホテルを展開するホテル経営及び運営会社です。オリジナルブランドとしては、フルサービス型に近い「オリエンタルホテル」と、宿泊特化型の「ホテル オリエンタル エクスプレス」を展開しています。
最大の特徴は、自社ブランドのみならず、外資ブランドや国内ブランドなど多様なブランドを同時に運営している点にあります。約3,600人の社員が、それぞれのブランドが持つ世界基準のサービスや独自の運営ノウハウを実地で吸収しており、これが弊社の大きな強みとなっています。
また、スタッフのほとんどが弊社の子会社であるオペレーションカンパニーに所属している点も、他社にはない仕組みです。特定のホテルやブランドに縛られることなく、グループ全体で知見を共有し、多様なフィールドで活躍できる環境を整えています。
ーー各地域のホテル運営において、特に重視されているポイントはありますか。
荒木潤一:
画一的なチェーン展開ではなく、それぞれのホテルが地域に根ざし、個性を発揮することを重視しています。私はこれを「地域共創」と考えていますが、単に寝泊まりする場所を提供するのではなく、その地域ならではの「体験」を提供することにこだわっています。
たとえば、京都のホテルでは、近隣の寺社仏閣と連携した独自の企画に注力しています。ある店舗では、従業員が地元のお寺へ足繁く通い、住職と「地域への思い」を語り合うことで、当初は難しかった宿泊者限定の特別体験を実現させました。
単に観光地を紹介するだけでなく、ホテルが地域の方々と深く関わり、そこでしかできない体験をつくり出す。この「地域共創」の姿勢こそが、お客様に驚きと感動をお届けするために不可欠だと考えています。
また、「モノ」ではなく「コト」の価値も大切にしており、私はよく「自社のホテルに泊まる際は、ぜひ一度はレストランやバーに足を運んでほしい」と伝えています。もちろん外で食事を楽しむのも素晴らしいことですが、ホテルに戻った後、一流の技が光る料理を味わったり、景観の良いバーで一杯のグラスを傾けたりする時間は、滞在の満足度を格段に引き上げてくれます。ホテルが誇る「プロの技術」と「洗練された空間」に触れるひとときを過ごしていただくことで、お客様の記憶に深く残る滞在をプロデュースしたいと考えています。
歴史あるスタンスの継承と、未知の体験がもたらす感動
ーーホテル経営において、お客様へ提供したい価値の本質は何でしょうか。
荒木潤一:
弊社の「オリエンタルホテル」は、1870年に兵庫県神戸市で誕生した西洋型ホテルです。長きにわたって街の人たちに刺激を与え続けてきた歴史あるホテルなので、そのスタンスを今も崩さずに引き継いでいくことを大切にしています。
人は、日常生活では味わえない未知の価値に触れたとき、深い感動を覚えるものです。その感動体験を生み出せるホテルを展開していきたいと思っています。ホテルのベッドや内装が綺麗といった「物の魅力」だけではなく、たとえば「夕日を眺めながら生演奏に耳を傾ける」といった、ホテルに来たからこそできる「非日常の体験」をつくり出したいと考えています。このような素晴らしい体験ができるホテルの価値を世界中に広めていくことが私たちの使命です。
ーー組織の舵取りや採用において重視されていることは何ですか。
荒木潤一:
会社のビジョンを、社内外へ明確に示すように心がけています。人材不足が深刻化している現代において、求職者の方々に「この会社で何ができるのか」「どのような将来性があるのか」を提示することはとても大切です。
個人の志向と会社の目指すべき方向が合致していなければ、優秀な人材を惹きつけ、定着させることは困難です。だからこそ、私たちが何を目指し、働く人にどのようなフィールドを用意できるのかという指針を、継続的に発信し続けるよう努めています。
多様なブランドとポストがもたらすキャリアの可能性
ーー貴社で働くメリットとしては、どのようなものがありますか。
荒木潤一:
最大のメリットは、一つの会社に所属しながら、全く異なるブランドや地域のホテルで経験を積めることです。一般的なホテル企業であれば、転職しなければ得られないような異なるオペレーションやサービススタイルを、弊社ではグループ内の異動で経験できます。たとえば、外資系ブランドで世界基準のサービスを学んだ後、自社ブランドで地域密着型の企画に携わるといったキャリアパスも可能です。「環境を変えて新しいことに挑戦したい」と思ったとき、会社を辞めることなく、社内で新しいステージにチャレンジできるのです。
また、弊社は運営ホテル数が多く、今後も拡大を予定しているため、総支配人や部門長といったマネジメントポジションが豊富にあります。意欲があれば若手のうちから責任ある仕事を任せています。さらに、現場のサービス職だけでなく、本部のマーケティングや企画、開発など、ホテル運営を支えるさまざまな部署へのキャリアパスも開かれています。
ーー各プロジェクトで外部のプロフェッショナルと協働されるのはなぜでしょうか。
荒木潤一:
ホテルの改装や新プロジェクトにおいて、私たちはあえて自社だけで完結させようとはしません。世界的なデザイナーや著名なシェフなど、その道の専門家とタッグを組むことで、より高い価値をつくり出すことを目指しています。
これは、私たちが地域に対して負っている責任の大きさゆえの選択でもあります。もし自分たちだけの狭い視野で物事を進め、結果としてホテルの価値を落としてしまえば、それは地域全体のブランドを損なうことになり、多大なご迷惑をかけてしまいかねません。だからこそ、あえて外部の優れた才能を招き入れ、刺激を受けることで組織の視座を高める必要があるのです。
社員には、社内の枠に閉じこもるのではなく、積極的に外の世界とつながり、多様な感性を吸収して成長してほしい。そのための挑戦の場は、惜しみなく用意しています。
ーー貴社が求める人物像を教えてください。
荒木潤一:
創造力とコミュニケーション力を持った方に入社してほしいと考えています。これはAIや機械に取って代わることのないスキルであり、お客様へ最高の感動をお届けするという弊社のミッションを実現する上でも欠かせない要素です。
ホテルマンの仕事の本質は、プロのスポーツ選手が圧巻のパフォーマンスで観客を沸かせるのと同様、お客様という「観客」をいかに楽しませ、魅了するかにあります。「どうすればもっと喜んでいただけるか」「期待を超える驚きと感動を提供できるか」を常に想像し、自ら動ける方に来ていただきたいですね。
私自身、自社のファンであると同時に、最も厳しい目を持つ顧客として、頻繁に現場を利用しています。知人を招いた際、その方から心からの「美味しい」「素晴らしい」という言葉をいただけるかどうか。その緊張感を持って常に品質を確かめています。お客様を楽しませることにプロとしてのやりがいや生きがいを持てる方にとって、弊社は最高の舞台になるはずです。
次世代の業界を切り拓く、変化を楽しめる人材への期待
ーー昨今のホテル業界の状況についてはどのようにお考えでしょうか。
荒木潤一:
ホテル業界は今、大きな転換期を迎えています。コロナショックを経て、現在はインバウンドの需要が急速に回復しており、政府が掲げる2030年「6000万人」という目標も現実味を帯びてきました。弊社においても、当初2025年に見込んでいた計画値よりも上回る勢いで推移しており、市場に強い活気を感じています。
一方で、業界全体の課題として人手不足が挙げられますが、単に人員を補充すれば解決するというものではありません。たとえ需要が旺盛であっても、弊社のビジョンに共感し、共に価値をつくり上げられる人材をお迎えすることが重要だと考えています。
ホテル業界はスキルを身につければ転職しやすい側面がありますが、私はあえて「弊社でじっくりとキャリアを積み上げてほしい」と伝えています。現在の離職率が12%程度と、業界平均と比較しても低い水準を維持できているのは、長く働ける環境と成長の機会を提供できている結果だと自負しています。
もちろん、将来的に独立したい、自分の店を持ちたいという夢があれば応援しますし、そういう人材を輩出することも経営の役割です。だからこそ、まずは弊社という土壌を最大限に活用し、どこへ行っても通用する本物のプロフェッショナルとしての土台を築いていただきたいですね。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
荒木潤一:
今後は、個々のホテルブランドだけでなく、「ホテルマネージメントジャパン(HMJ)」という企業ブランドそのものの価値を高めていきたいと考えています。
現状のホテル業界では「特定の場所にある、あのホテルで働きたい」という店舗単位の志望が主流です。しかし私は、その構造自体を変えていきたいと考えています。「HMJという組織に属していれば、多様なブランドに触れ、一流の外部プロフェッショナルと共に、どこよりも面白い仕事ができる」。そう確信して、会社そのものを選んでいただけるようなブランドを築き上げていきたいです。
ーー最後に、読者である就活中の学生や求職者の方々に向けてメッセージをお願いします。
荒木潤一:
「自分は将来どうなりたいのか」という軸を大切に、広い視野で企業を見つめてほしいと思います。たとえばホテル業界を志す際、建物の豪華さや知名度だけに目を向けるのではなく、その会社がどのようなブランドを扱い、どのような組織構造で運営されているのかを深く理解することが重要です。
弊社であれば、一つの会社に身を置きながら多様なブランドを経験でき、本部のマネジメント職を含めた多彩なキャリアパスが用意されています。こうした「構造上の強み」があるからこそ、個人の可能性を最大限に広げることが可能なのです。
私たちの役割は、単に箱(ホテル)を増やすことではなく、才能ある人材が成長し続けられる「土壌」を広げていくことです。3年後、5年後には、今とはまた違ったさらに進化した姿をお見せできると確信しています。その変化のプロセスを共に楽しみ、これからのホテル業界を自らの手で切り拓いていきたいという熱意を持った方を、心より歓迎いたします。
編集後記
荒木氏の言葉から一貫して伝わってきたのは、「商売」を徹底的に楽しもうとする純粋な情熱だ。特定の店舗ブランドに依存するのではなく、組織そのものを、多様な知見が混ざり合う「成長の土壌」へと進化させようとする姿勢は、従来のホテル経営の枠を大きく超えている。社内に閉じこもらず、地域の声や外部のプロフェッショナルと共鳴しながら新たな価値を紡ぎ出す同社。ここでなら、変化の激しい時代を生き抜く本物のスキルを磨けるに違いない。自らもファンとして現場を楽しむ同氏と共に、業界の未来を切り拓く旗手たちの飛躍が楽しみだ。

荒木潤一/1964年生まれ、大分県出身。ホテルセントラーザ博多やオリエンタルホテル広島の総支配人を歴任し、2015年、神戸メリケンパークオリエンタルホテル総支配人に就任。2018年株式会社ホテルマネージメントジャパンの運営本部長に就任し、グループ全体の運営管理および営業企画の統括責任者となる。2020年、株式会社ホテルマネージメントジャパンの代表取締役に就任し、現在に至る。