株式会社新土木開発コンサルタントは、国土交通省や自治体、民間の大手ゼネコンなどを顧客とし、近畿エリアを中心に土木設計や調査、測量、施工管理まで手がけている。同社を創業した代表取締役の吉光茂規氏は、阪神・淡路大震災の実経験をもとに、社会インフラの維持管理(保守点検・構造物の補修・補強設計、耐震補強設計等)にも事業の幅を広げてきた。今回は、吉光社長の経営哲学や、事業にかける思いを聞いた。
技術者としてプロジェクトに一貫して携わってきた経験が起業に活かされた
ーー会社を設立するまでは、どのような経験をされましたか?
吉光茂規:
高専の土木工学科を卒業して、地元から近い設計会社に入社し、営業や設計実務、請求等の事務処理まで一貫して携わらせていただきました。異なる視点から物事を見ることができたので、設計会社での貴重な経験は、起業してからも大変役に立ちました。
設計の世界では、橋梁なら鉄骨やコンクリートなど素材やタイプによって完全に部署が別れます。大手の場合だと、同じ橋でも上部と下部というように細分化された組織のなかで設計の業務を学ぶことが一般的です。一方、私がいた設計会社では、細かな部分だけでなく、全体像も把握し、学ばなくてはならなかったのです。
ーー起業の経緯をお聞かせください。
吉光茂規:
もともと学生時代から起業したいと思っていましたが、最初から具体的なビジョンはありませんでした。私が起業した頃は、ちょうど図面を手書きからパソコンのCADというソフトで作成する設計体制に移行する過渡期でした。
これからCADを使うのが当たり前の時代が来ると確信したうえで、CADを他社に先駆けて真っ先に導入しました。設計者として他社と異なる営業部門を整備する環境を整えたいという思いから、新土木開発コンサルタントを創業したのです。
創業2年目にして10億円規模のビッグプロジェクトに参画
ーー創業当初、印象に残った出来事はありましたか?
吉光茂規:
創業1年目は資金繰りで苦労し、悩んだこともありました。そんな中、うれしい出来事がありました。創業2年目に、関西で土木コンサルタントとして働く親友から、近畿大学の奈良キャンパス建設プロジェクトのコンサルタントをやってみないかと声がかかったのです。
当時の従業員数もわずか4人で、10年以上にわたるビッグプロジェクトに携わらせていただくことになりました。しかも、10億円規模の請負契約は、私たちの業界では通常あり得ない話です。それ以後、資金繰りに悩むことなく事業に集中できる環境が整いました。
民間事業から官公庁をメインにシフトし、目指すは売上規模30億円!
ーーこれまで事業を展開し続けることができた秘訣をお聞かせください。
吉光茂規:
時代の流れを読み取った柔軟性のある事業展開をしてきたことです。土木の世界は、この20年間でさまざまな変革が起こり、私たちを取り巻く環境が変わりました。そのひとつが、2007年に導入された最低制限価格制度です。この制度によって、公共工事において最低制限価格を下回る入札ができなくなったのですが、入札価格を1円でも最低制限価格に近づけるよう営業の強化をしたことで、仕事を獲得しやすくなりました。
また、阪神淡路大震災の前は、官公庁の仕事は一切受けず、民間事業のみを手がけていました。ですが、やはり震災復興のためにも公共事業もやらなければいけないと思い、復興に向けた仕事にも舵を切りました。現在、手がけている仕事の9割が公共事業であり、売上も大きく伸ばしています。
ーー現在、貴社はインフラ施設の補修や保守点検体制も強化されていますね。
吉光茂規:
バブル期の建築ブームとは大きく異なり、今は既存のものを後世につなげることも必要だと思います。トンネルや橋梁などのインフラ施設が老朽化することによる大きな事故を防ぐために、既存設備の点検・調査、そして補修をする仕事は、これからのニーズが高くなるでしょう。
ーー今後注力していきたい事業を教えてください。
吉光茂規:
老朽化した社会インフラの点検や調査、補修事業において、他社に先駆けてドローンによる調査を導入しています。AIなどの技術革新は今後も続いていきますし、より加速化するでしょう。実際にドローンや3Dスキャン技術は、今まで人手で行っていた作業を機械に任せることで、現場調査や点検業務にまつわる時間もコストも大幅に削減できました。
また、今後はAIの活用にも力を入れています。AIを使ったデータ分析や予測モデルの導入によって、さらに業務を効率化し、より精度の高い設計や積算が可能になると思います。
私たちは常に一歩先を見据えて技術を取り入れていますが、それは営業力の強化にもつながっています。あくまでも個人的な願いですが、あと10年で売り上げ30億円、従業員数は200人の規模にまで成長させたいと考えています。
編集後記
創業当時から、新しい技術を積極的に取り入れる必要性を感じ、事業体制に反映させてきた吉光社長。同氏の革新マインドは、これからも株式会社新土木開発コンサルタントを成長させるエンジンとなることを確信させるインタビューとなった。
吉光茂規/1951年大阪府箕面市生まれ。1973年国立明石工業高等専門学校土木工学科卒業。1973年株式会社山本設計に入社、1984年同社を退職。1984年4月に株式会社新土木開発コンサルタントを神戸市にて創業。2011年~2017年の6年間、神戸市測量設計協力会会長。