※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

1938年創業の株式会社共立合金製作所は、超硬合金の金型・工具製造と産業用スプレーノズルの開発を柱に、日本のものづくりを支えてきた。近年は若手主導のDXや環境分野への展開など、次世代への変革を進めている。舵取りを担うのは、代表取締役社長の藤原啓郎氏だ。データに基づく透明性の高い経営を掲げ、組織の透明化と高付加価値化に挑む同氏に、改革の軌跡と未来への展望をうかがった。

研究者・知財マンの視点で挑んだ組織の透明化

ーーまずは、貴社へ入社された経緯からお聞かせください。

藤原啓郎:
もともとは大学院で生物物理学、具体的にはタンパク質の三次元構造を研究しており、その後は大手製薬メーカーの特許部(現・知的財産部)に勤務しておりました。妻の実家がこの会社を経営していたご縁はありましたが、当初は継ぐつもりなど全くなく、前職でのキャリアを積んでいくつもりだったのです。転機となったのは結婚後、義父から「会社に来ないか」と誘われた時です。当時、企業の管理部門や経営企画といった仕事に興味を持ち始めていた時期でもあり、「自分の裁量で経営に携われるなら」と、30代で入社を決意するに至りました。

ーー入社当時、組織としてどのような課題を感じましたか。

藤原啓郎:
入社して驚いたのは、中小企業特有の感覚的な経営でした。たとえば人事評価にしても、明確な基準がなく、評価者の主観やさじ加減で決まっているような状態。社員が自分のキャリアパスを描けないことに危機感を覚えました。そこで、賃金表の策定や評価制度の導入に着手し、労働組合とも話し合いながら10年かけて納得感のある人事制度を構築しました。

また、会計面でも課題がありました。当時は、社内で管理する数字と、決算書としての財務会計の数字が乖離していたのです。「社内では厳しいと言われているのに、決算書を開けたら黒字だった」といった矛盾が起きると、社員は経営層の言葉を信用できなくなります。私は管理会計と財務会計を一致させ、正しい経営数字を社員にフルオープンにする改革を行いました。根拠のある数字を共有することで、社員一人ひとりが経営参加意識を持てる土壌を整えたかったのです。

次世代の感性が爆発する自由なDXと高付加価値への転換

ーー組織基盤の整備を進める中で、現場の業務効率化やDXにはどのように取り組まれたのでしょうか。

藤原啓郎:
私が主導するというよりは、優秀な情報系スタッフたちが自発的に進めてくれています。私は彼らに「好きなようにやっていい」と権限を与え、製造業でありながら情報システム部門にはフルリモートワークを許可するなど、自由な働き方を推奨しています。その結果、RPA(※)による事務作業の自動化や、工場の稼働状況の見える化、膨大な図面の検索システム導入など、現場の効率化が劇的に進みました。最近ではChatGPTなどの生成AI活用や、仮想空間でシミュレーションを行うデジタルツイン構想まで、彼らの方から次々と提案が上がってきます。古いやり方に固執せず、次世代の感性と新しい技術を全面的にバックアップすることが、私の役割だと考えています。

(※)RPA:Robotic Process Automationの略。パソコン上の定型業務をロボット(ソフトウェア)で代行・自動化する仕組みのこと。

ーー事業面では、どのような戦略を描いていますか。

藤原啓郎:
弊社の事業は、お客様の図面通りに作る超硬合金事業と、自社で設計・開発から提案できるノズル事業の二本柱です。現在は、より付加価値の高いノズル事業の比率を高めることに注力しており、売上高全体の約4割を占めるまでになりました。特に伸びているのが環境分野です。船舶の排ガス規制に対応するための脱硫・脱硝ノズルなど、環境負荷低減に貢献する製品の需要が高まっています。単なる部品供給にとどまらず、流体制御のシステム全体を提案できる開発型企業への転換をさらに進めていく方針です。

データが導き出した新工場への投資

ーー今後の展望について教えてください。

藤原啓郎:
実は今、兵庫県丹波市にある工場の近くに新たな工場を建設中で、10月に竣工を予定しています。きっかけは、社内のデータを見える化したことで、一見苦戦しているように見えた加工品部隊の中に、実は高収益な案件が埋もれていることが判明したことでした。「これなら勝負できる」という確信をデータから得られたことで、総額約20億円を投じ、手狭だった工場の拡張を決断しました。超硬合金の精密加工は、わずかな温度変化でミクロン単位の狂いが生じます。新工場では空調管理や断熱構造を徹底し、生産能力の増強だけでなく、加工精度のさらなる向上を目指しています。

私が経営において論理とデータを重視するのは、決して冷徹な合理主義に基づくものではありません。曖昧さを排除し、公平な評価と正しい情報開示を行うことこそが、社員の安心と信頼につながると信じているからです。これからも、伝統的な技術力と最先端のデジタル技術を融合させ、社員が誇りを持って働ける「選ばれる町工場」を目指して挑戦を続けていきます。

編集後記

データと論理に基づき、曖昧さを排除した透明性の高い組織づくり。藤原氏の言葉からは、自らMBAで学んだ手法を現場に落とし込む合理的な経営者としての強みが感じられた。しかしその根底にあるのは、「社員に嘘をつきたくない」「次世代の可能性を潰したくない」という温かな思いだ。データによる見える化が、経営の透明性を高め、次なる投資への自信を生む。100年企業に向けた同社の進化は、日本の製造業が目指すべき一つの解を示しているように思う。

藤原啓郎/1965年、兵庫県生まれ、大阪府出身。1989年、関西学院大学理学部物理学科卒業。1991年、同大学大学院理学研究科修士課程を修了後、武田薬品工業株式会社に入社。1997年より株式会社共立合金製作所に勤務。総務や営業の経験を積んだ後、2003年に製造部門に異動。実務と並行して学び、2002年に神戸大学大学院経営学研究科を修了(MBA取得)。2008年、同社代表取締役社長に就任。