※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

創業以来、鉄資源のリサイクルで日本のインフラを支える共英製鋼株式会社。近年は「世界三極体制」を推進するほか、環境配慮型製品「エシカルスチール」の展開に注力している。同社を率いる代表取締役社長の坂本尚吾氏は、異業種を経て同社へ中途入社し、営業の最前線で実績を積んだ経歴を持つ。製品の差別化が難しい鉄鋼業界でいかに活路を見出し組織を牽引してきたのか。独自の現場主義や人材育成の取り組み、持続可能な社会の実現に向けた次なるビジョンについて詳しくうかがった。

異業種での経験を経てたどり着いた「自分を売る」本質

ーーまずは、貴社に入社されるまでのご経歴を教えてください。

坂本尚吾:
私はもともと理系の金属工学出身です。ただ、手に職を付けたいとの思いから専門学校へ通って資格を取りました。しかし、結局は自分が学んでいた金属関連の表面処理を行う会社に就職しました。ところが、そこで実験に失敗してフッ素コーティング焼成ガスを吸い込み、体を壊してしまったのです。その後、祖父が経営する福利厚生関連の会社や、工業化学薬品のディーラーなどの職に就きました。

共英製鋼に入社したのは、働き方に悩んでいたことがきっかけです。私自身、単身赴任を避けたい気持ちがあったので、そんな折に地元から通える枚方事業所がある弊社の存在を知り、28年前に中途入社を決めました。しかし、入社後は結局単身赴任を15年することになってしまいました。これまでさまざまな業界や職種を経験してきましたが、振り返ってみると「自分が変わらなければ会社は変わらない」「いかに自分が会社に合わせていくかが大切だ」ということを学べたと感じています。金属表面加工や化学薬品の知識が得られたのも結果としてプラスとなりました。

ーー営業としてどのようなことを大切にされていましたか。

坂本尚吾:
弊社が製造する鉄鋼製品は、JIS規格で品質や性能が定められているため、他社メーカーがつくるものと形も色も機能もほとんど変わりません。価格帯もだいたい同じです。しかも、営業先である商社や特約店、実際に鉄筋を曲げたり切ったりする加工業者の方は、製品のことを熟知しています。相手もプロですから、自分が何よりも学ばなければなりません。

では、何を武器にして製品を1トンでも多く、継続して買っていただくのか。それは「自分自身を売り込むこと」、そして「情報量」です。商品の差別化が難しい分、情報をどれだけ持っているかが勝負になります。お客様は常に業界の動向や市場の情報を求めています。ですから、私は日経新聞から業界紙まで毎日7紙を読み込み、鉄鋼業界に限らず、お客様が興味を持ちそうな話題を広く仕入れていました。「あいつは面白い」「有益な情報を持っている」と思っていただけるよう、お客様に合わせて自分をプロデュースし、自分の知識を深めることに強くこだわっていましたね。

現場のトラブルは最大の学び 四国での大型受注と現場主義

ーー組織を牽引される中で特に印象に残っているエピソードはありますか。

坂本尚吾:
弊社のような設備産業において、固定費を回収するための数量を確保することは非常に重要です。その点で印象深いのは、四国で高速道路が整備され、橋をかけるための橋脚工事が盛んに行われていた時のことです。橋脚には通常よりも太いサイズの鉄筋が大量に使われます。当時、他社メーカーも当然その案件を狙っていたのですが、私は流通業者と綿密に戦略を練り、その大型案件に弊社の鉄筋を全面的に納入することに成功しました。建築土木業界全体が停滞して困っていた当時、このような案件を無事に受注できたことは、営業担当として大きな自信につながりました。

ーーその他、現在も活きているご経験や転機はありましたか。

坂本尚吾:
営業を経て、山口事業所の副所長や所長を務めた経験が私にとって大きな財産になっています。事業所長になった時、私は現場を徹底的に学ぶべく「毎日必ず現場を見に行く」と決めました。理系出身とはいえ、電気炉や圧延の専門知識はありませんでしたから、とにかく現場へ足を運び、日々の小さな違いや異変を感じ取れるようにしたのです。

山口事業所は24時間体制で工場を稼働させており、トラブルで機械が止まることもありました。夜中でも連絡があれば工場へ飛んでいき、機械を開けて修理する様子をじっくり観察して学びました。これがものすごく勉強になりましたし、修理が終わって無事に機械が動いた時の現場の社員のホッとした顔を見るのも好きでした。現場に入り、現場の人たちの声を聞き、顔色を見る。この経験を通じて得た現場感覚は、私の大きな財産になっています。

ーー社長就任時の思いやご自身の役割をどのように捉えていましたか。

坂本尚吾:
私が社長に就任したのは、3年ごとに策定される中期経営計画の2年目のタイミングでしたので、会社の方針を新しく変えるつもりは全くありませんでした。前社長から引き継いだ計画をしっかりと完遂させることが、自身の役割だと捉えていたのです。国内市場は人口減少に伴い、鋼材の需要が縮小していくことが見込まれていました。いかにして無駄を省き、価格競争に陥らずに利益を生み出せる体制を構築するかが急務でした。

一方で海外に目を向けても、各拠点が抱える課題を解決し、事業を軌道に乗せていく必要がありました。国内外で直面する状況は異なりますが、策定済みの計画をぶれずに推し進めることが重要です。トップとして方針を貫き、着実に利益を生み出せる体制へと育てていく決意を固めました。

価格競争からの脱却 環境価値を形にする「エシカルスチール」

ーー貴社の事業内容と現在の強みについて教えてください。

坂本尚吾:
弊社の製造する製品の80%以上は、鉄筋コンクリート用の鉄筋です。マンションやビル、橋、トンネル、さらには地震や津波対策のインフラなど、社会の根幹を支える建築・土木分野のあらゆる場面で使用されています。

そして現在、弊社ならではの強みとして強力に推し進めているのが「エシカルスチール」という取り組みです。これは、医療廃棄物や産業廃棄物、フロン類などの処理困難な廃棄物などを鉄を溶かす電気炉の数千度という超高温の熱を利用して安全に完全溶融処理しながら、つくられた鉄鋼製品を指します。新たにエネルギーを使って廃棄物を燃やす焼却炉とは異なり、鉄を製造する際の熱を有効活用するため、エネルギーを効果的に利用することができます。弊社は長い年月をかけて、廃棄物処理の許認可を多数取得しており、他社が簡単に真似できるものではありません。

ーー「エシカルスチール」の反響はいかがでしたか。

坂本尚吾:
非常によい手応えを感じています。2025年4月から本格的に展開を始め、まだ1年も経っていませんが、すでに約6000トンの実績が出ています。建設業界でも環境意識が高まっており、施主様やゼネコン様などから「鉄筋を使うなら環境に配慮した『エシカルスチール』を選びたい」とご指名いただくケースも増えています。また、古い歩道橋や病院を解体する際に出る廃棄物を弊社で処理し、合わせてその解体で発生する鉄スクラップからつくられた鉄筋を使って新たな建物を建てるという循環型のビジネスモデルにも強い関心が寄せられています。

今後はこの「エシカルスチール」を、毎年数万トンレベルへと拡大していくことが目標です。そのためには、この価値を広く社会に知っていただくための広報活動と、お客様に直接提案していく営業活動を両立させていくことが不可欠だと考えています。

ーーその他にも環境に向けた商品開発などの取り組みを行っていますか。

坂本尚吾:
サーキュラーエコノミーの観点から、鉄を溶かす際に出る副産物であるスラグ(※)の再活用の実現に向けた取り組みを進めています。スラグは従来、アスファルトの下に敷く路盤材などに利用してきました。しかし、弊社はこの副産物をより付加価値の高い形で「循環」させられないかと考えています。現在は大学と共同で研究を行い、海洋で藻場をつくり、魚が集まるような環境改善に役立てるなど、自然に配慮した新たな使い道を模索しています。これからも環境に優しい企業を目指し、多角的なアプローチを続けていきます。

(※)スラグ:金属(特に鉄)を製錬・鋳造する際、原料中の不純物が高温で溶融・分離して発生する不純物の固まり。

「世界三極体制」の確立と人を生かす組織論

ーー組織体制、人材育成において工夫されていることはありますか。

坂本尚吾:
弊社はM&Aによって規模を拡大してきた歴史があり、国内に多数の事業所を抱えています。同じ電気炉メーカーでこれだけ多くの工場を持っていることは圧倒的な強みです。

この強みを最大限に活用するため、人と人、事業所と事業所を「結ぶ」意味を込めて始めたのが「おむすび」という制度です。これは、現場の社員が他の事業所に2〜3週間滞在し、一緒に働きながら学ぶ仕組みです。かつては事業所同士のライバル意識が強く、連携が十分ではありませんでしたが、この制度によって事業所間の垣根をなくし、各工場の知見を全社で共有できる風土づくりを進めています。本社が費用を負担してでもこの交流を後押しすることで、社員が互いに学び合い、成長できる環境を整えています。

営業部門向けには、「K-ma(共英マーケティングアカデミー)」という研修を約8年前から開催しています。若手営業部員を選抜し、中国などの海外工場や市場を視察させることで、広い視野を持ってもらう狙いがあります。また、営業部員同士の勉強会なども活発に行われており、互いに切磋琢磨しながら知識を深める文化が育っています。

また、2021年から海外グループ会社で若手社員が半年間勤務するトレーニー制度を導入しています。視野の拡大や経験値の向上の他、海外赴任へのハードルを下げることを目的とし、これまでに5人の実績があります。

ーー本業以外に何か取り組まれていることがあるとお聞きしましたがそれは何ですか。

坂本尚吾:
既存の事業の他に、障がい者雇用や地域振興に貢献する活動を行っています。その一環として、山口事業所近隣の遊休地を活用し整備した土地にオリーブの木を植えてオリーブ園をつくりました。植樹から収穫までを、弊社社員やグループ会社、「リサイクル工房にじいろ」(障がい者支援事業所から採用した社員が働く小型家電リサイクル作業場)の有志で行っています。今後、収穫量が増えればオリーブの実を加工したオリーブオイルをノベルティとして活用する予定です。

また、2025年10月、山口県宇部市にて障がい者雇用支援施設「珈琲香房にじいろ」を開所しました。コーヒー豆を仕入れ、豆の選別やドリップバッグ製造などの工程を手がけています。出来上がった珈琲ドリップバッグは社内で配ったりお客様にお渡ししたりする予定です。環境保全だけでなく多様な人材が活躍できる社会への貢献も、私たちが目指す姿の一つです。

ーー社長として大切にされていることは何でしょうか。

坂本尚吾:
私は社員に対して、常にフラットな目線で接することを大切にしています。役職や年次に関係なく、話しやすい雰囲気をつくり、部下自身の悩みや、お客様が抱えている課題を共有しやすい関係性を築くよう心がけています。

また、弊社の執行役員などの経営層は、約70%が中途採用者で構成されています。私自身も中途入社ですが、実際、経営幹部の多くが中途入社であり、前職が商社や銀行などどのような経歴であっても全く壁はなく、それぞれの得意分野を存分に発揮できる環境が整っています。また、OBの子どもや孫、兄弟や親戚などが同じ工場で勤めている社員も在籍しています。

「エシカルスチール」の展開は、社外へのアピールだけでなく、社員のエンゲージメントを高めるインナーブランディングの側面もあります。「ウルトラマン」をイメージキャラクターに起用した「エシカルスチール」の広報活動も開始しました。クリアファイルやTシャツなどのノベルティを社員にも配布しているのですが、これらを通じて社員が「自分の会社は素晴らしい仕事をしているのだ」と家族や子どもたちに自慢できるよう自社の仕事への誇りを持ってもらうことを期待しています。

ーー最後に今後の展望と実現したいビジョンについてお話いただけますか。

坂本尚吾:
まずは、国内で「エシカルスチール」の価値を浸透させて盤石な体制を築きつつ、海外展開をさらに強化していくことです。現在進めている、日本・ベトナム・北米の「世界三極体制」の中身をより強固なものにし、ベトナムでの供給網拡大や、北米での新工場の安定稼働を通じてグローバルにシェアを伸ばしていきます。事業の成長と社員の成長の歯車を噛み合わせ、持続可能な未来を築く企業としてさらなる飛躍を目指します。

編集後記

差別化が難しい鉄鋼業界において、「自分を売り込むこと」「情報量で勝負すること」を武器に生き抜いてきた坂本氏。その言葉の端々には、泥臭く現場を歩き、自ら道を切り拓いてきた者だけが持つ強い説得力があった。価格競争からの脱却を目指す「エシカルスチール」の構想は、環境配慮という時代の要請に応えるだけでなく、自社の強みを最大限に活かした極めて合理的な生存戦略である。多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍し、新たな価値を創造し続ける同社。その「鉄」のように強靭でしなやかな組織の進化から、今後も目が離せない。

坂本尚吾/1958年兵庫県生まれ。1981年近畿大学理工学部卒業。表面処理会社の研究員などを経て、1999年に共英製鋼株式会社に入社。2025年に同社代表取締役社長に就任。