※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

株式会社新亀製作所は1952年、大阪市東成区で「手回しドライバー」の製造を開始した業歴72年のベテランメーカーだ。「サンフラッグ」のブランド名でプロの職人から一般消費者向けまで、幅広くドライバー関連商品を提供。ホームセンターでもお馴染みのDIYメーカーとして長きにわたり、利用者からの信頼を築き上げてきた。

高い品質を担保するためにあらゆる技術を駆使する一方で、最近ではアニメキャラ「伊沙波(イザナミ)ちゃん」を公式キャラクターとして活用し、業界外の認知度も高めるなど、経営スタイルはいたって柔軟だ。ホームセンター周辺ではコロナ禍のブームが去り、新たな需要を模索する向きもある昨今。「反動減のある今が一番大事な時期」と局面をにらむ3代目代表取締役社長の藤本健文氏に、経営方針や展望について聞いた。

「大欠品」を経験して開発と設備投資の重要性を学ぶ

ーー新亀製作所に入社する前はどんなことをしていましたか?

藤本健文:
私はスノーボードが好きだったので、スポーツ用品の卸売りの仕事に従事していました。スノーボードに特化した板やブーツなどを、全国の小売店に販売する問屋の社員として働いていました。

卸売業の在庫管理は、私たち新亀製作所のようなメーカーとは根本的に違います。当時、異なる業態に身をおいて在庫管理を学べたことはとてもいい収穫でした。

ーー貴社に入社した後の経験やエピソードをお聞かせください。

藤本健文:
2004年に新亀製作所に入社した後は倉庫の荷造りや配送の部署に配属されました。その後に製造部門を経て新潟営業所に赴任し、4年半ほど営業を担当していました。

営業では商品を売り込みに行くというよりは、売り場を自分たちで調整して商品を陳列するなど、想像とは違う業務を担っていました。

当時「トーションビット」という電動ドライバーの先端に付ける工具を開発して市場にポンと投入したときに、欠品を起こしたことがあります。形状やメリットが特徴的なその新商品が爆発的にヒットしたことは良かったものの、生産する設備が追いつかず、いきなり供給不足に陥ったのです。

顧客にひたすら頭を下げたという苦い経験をしましたが、それがひとつのターニングポイントとなり、その後の設備投資や積極的な開発への投資につなげることができました。

また、口頭や手書きで情報を伝達するなど、コミュニケーションに関してシステマチックにできていなかった面があったので、社内インフラについても整備を進めていきました。

「サンフラッグ」ブランド強化のためにモノづくり技術を向上

ーーブランド・プロダクトに対する思いをお聞かせください。

藤本健文:
弊社で代々働いてきた人たちはモノづくりに対する思いが非常に強く、新たな製品のアイデアを創出できる人がたくさんいましたが、商品化が渋滞して全部は実現できませんでした。

「歴代の方々の思いは本当に強い」と思い、そのこだわりをすべて商品化したいと考えたからこそ、「こだわりをカタチに」というブランドメッセージを掲げているのです。

ーー貴社の強みはどんなところにあるのでしょうか?

藤本健文:
たとえば、ドライバーに取り付けたビットは猛烈な力で回転するので、ネジ込みが終わった瞬間、衝撃がバンと返ってきます。使用する人の腕・身体に負担がかからないようにショックを緩和するため、また衝撃で先端が折れないようにするために、真ん中の細い部分をねじることによってクッション性を持たせるといった工夫を凝らしています。

ほかにも、回転がブレないように直線状に製造する技術力や、金属の強度を上げる熱処理などの技術力が他社と差別化できるストロングポイントといえるでしょう。

ーーグローバル化に関してはどのような考えをお持ちでしょうか。

藤本健文:
私には「新亀製作所を皆さんの生活の一部になるような、必要とされる会社にしたい」という思いがあります。そのためにも、海外にも販路を拡張していく構えです。

日本文化はサブカルチャーをはじめとして世界に受け入れられやすい側面があります。戦略としては弊社が扱うサンフラックブランドのアニメキャラである「伊沙波(イザナミ)ちゃん」を公式キャラクターとした取り組みを強化していきます。エリアとしてはアメリカやヨーロッパをメインに開拓していく方針です。

30年後の会社をイメージさせて若手のやる気を呼び起こす

ーー社員への働きかけや教育について教えてください。

藤本健文:
社員一人ひとりがなにかを発信していけるような環境やミッションを整備していきたいと思います。刺激を与えることで皆の自覚を促し、ミッションに率先して取り組み、自分たちで羅針盤を握って進めるようになってほしいという気持ちが常にあります。

ーー社員を刺激する具体的な取り組みをお聞かせください。

藤本健文:
創業100年まで残り30年という2022年のタイミングで100年委員会を組成し、30歳前後の社員を中心に現在でも月1回のミーティングを開いています。

意見箱にいろんな提案を集めてきて、中立的な立場で仕事の環境を向上させる改善ポイントや新しい企画などについて議論していきます。

あと30年で60歳になる世代の社員たちに創業100年になったときに「どんな会社にしていたいか」を考えてもらうことによって、若手社員を活気づける一助となればと考えて、これらの取り組みを行っています。

ーーこれからどんな会社にしていきたいですか?

藤本健文:
アフターコロナで大変な時期ですが、自社のブランディングに注力して今後とも挑戦し続けたいと思います。

編集後記

藤本社長は、他社で5年ものあいだ修業を重ねてきたためか、祖父の時代から受け継いだ会社とブランドの良さを客観的に理解して誰よりも新亀製作所を敬愛している印象だ。自社の誇りでもある技術力とブランド力を武器に、次にどんな秘策を打ち出していくのか、楽しみに待ちたい。

藤本健文/1979年生まれ。大阪府出身。5年間の修業期間を経て、2004年に株式会社新亀製作所に入社。自社内の職場改善やユニークな製品の開発などを強化を行い、2013年に常務取締役、2021年に代表取締役社長に就任。