金属や樹脂などの表面に、金属の薄い膜をコーティングするめっき。1939年に創業した株式会社太洋工作所は、めっきを中心とする表面処理技術で日本のものづくりを支えてきた企業だ。
同社のこれまでの歩みや、スマートフォンの普及による方針転換、海外進出に向けた取り組みなどについて、代表取締役社長の辻克之氏にうかがった。
太洋工作所のこれまでの歩みと、部署の垣根がないグローバルな職場環境
ーー貴社の事業内容と沿革について、お聞かせください。
辻克之:
プリント基板や半導体、金属製品のめっき加工を行っています。めっき加工は部品に化粧を施して見た目をきれいにしたり、さびを防いだり、機能を付与したりするためのものです。これに加え、主に自動車のインテリアに使われる、プラスチック製品の生産も行っています。
弊社は1939年に松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社)の下請け工場として創業しました。当時は無線機やラジオなどの組み立てを行っており、戦後からめっき加工事業に参入します。
高度経済成長期には、プラスチック製のつまみやプリント基板の加工を手がけるようになりました。こうした歴史を経て、これまで幅広い業界の取引先との関係を構築してきました。
ーー社風や働く方々の特徴などを教えていただけますか。
辻克之:
弊社の特徴のひとつは、縦割り組織ではないことです。そのため、リーマン・ショック時に生産ラインを縮小したときも、部署間の異動をスムーズに行えました。
また、向上心のある社員が多く、彼らは自分のスキルを高めるために日頃から熱心に勉強に取り組んでいますね。ちなみに弊社では年に2回、現場の業務を改善する方法を発表する機会を設けています。社員自らが課題に対する解決策を考え、実行するという主体性を大切にしています。
加えて、技能実習生や留学生も受け入れており、多くの外国人労働者が活躍しています。現在は中国やベトナム、タイ、スペイン、韓国、インドネシア出身の約23名が働いています。英語の他にそれぞれの母国語も話せるため、営業の場でも活躍してくれています。アメリカやヨーロッパの自動車メーカーとも取引している私たちにとって、彼らは重要な戦力です。
前職での経験と、方針転換を迫られたスマートフォンの普及
ーー辻社長の経歴を教えてください。
辻克之:
大学卒業後は、印刷製版、半導体やプリント基板向けの製造装置メーカーに入社し、3年半ほど働きました。電子基板の設計・開発に携わったことで、自社で加工した製品がどのように使用されるのかを学ぶいい経験になりましたね。
その後、父の後を継ぐため、太洋工作所に入社しました。入社後は事業開発部に配属され、新製品開発に携わりました。当時は製品化に至るまで、何度も試作を重ね、お客様の要望に沿った製品をお届けしようと試行錯誤する日々でした。
ーー2008年の社長就任以降で、苦労したときのエピソードをお聞かせください。
辻克之:
就任直前にリーマン・ショックが起きたことで仕事量は半分にまで減り、生産ラインを集約するなど、厳しい対応を迫られました。ただ、そのときは半年ほどで徐々に業績が回復していきました。
それよりも弊社にとって大打撃となったのが、2011年以降のスマートフォンの普及です。写真や動画が撮れてWeb検索もできるスマートフォンが登場したことで、従来の家電製品の需要は激減しました。
弊社の主力事業は携帯電話やビデオカメラ、パソコンなどの電化製品に使われるプリント基板の製造だったので、これは大きな痛手となりましたね。この危機を乗り越えるきっかけとなったのが、樹脂めっき加工技術を用いた車のインテリア部品の製造です。そこから自動車業界の売上が拡大し、何とか赤字分を補填できました。
海外での売上拡大の取り組みと、環境に配慮したものづくり
ーー海外進出については、どのようにお考えですか。
辻克之:
既存のお客様の事業を支援するため、中国での金めっき加工事業に挑戦しようと考えています。特に中国はEV(電気自動車)の生産に力を入れているので、EVに搭載する部品の製造に着手したいですね。これを機に、さらに国内外で顧客を獲得できればと思っています。
これまでマレーシアとタイでもめっき加工の海外進出に挑戦し共に事業として成功していません。次が3度目の試みとなるので、今度こそ事業を軌道に乗せたいですね。
また、海外で仕事を獲得するため、積極的な営業活動を行っています。アメリカやヨーロッパでは専門商社にエージェントとして契約してもらい、現地の自動車メーカーへのアプローチを強化しています。海外拠点には営業スタッフも配置し、周辺の国々にも営業をかけるなど、海外での売上拡大に力を入れています。
今のところ海外での売上高比率は3分の1程度ですが、これから5年や10年かけて半分くらいまで引き上げたいですね。そのためにも、めっき加工の前工程や後工程も含めた一貫生産体制を強化していく方針です。
ーー環境に配慮した取り組みも行っているそうですね。
辻克之:
特に力を入れているのが、人体への悪影響が懸念されている六価(ろっか)クロム(※)フリーのめっき加工です。環境に配慮した製品開発を進め、環境意識の高いヨーロッパ市場で受け入れられる商品づくりを行っています。
※六価クロム:めっきや塗料など、表面処理の材料として使用されている。酸化力が強く、溶液に触れたり粒子を吸い込んだりすることによって、皮膚や粘膜に炎症が生じる。
製品ごとの工程やターゲットの違いと、求める人物像
ーー今後の注力テーマを教えてください。
辻克之:
基板や半導体部品や金属製品の場合、お客様が製造した製品にめっき処理を施して返却する形となるため、対象は国内のお客様が中心です。国内のメーカーで競争力のある会社との取引を広げていこうと、そのための設備投資・開発に注力しています。
一方で樹脂製品の場合は、図面をもとに金型をつくって成形してからめっきを施し、完成品として納品しています。樹脂製品はひとつの部品として販売できるため、海外向けの販売を強化していく予定です。
ーー最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
辻克之:
私たちは能力よりも、仕事に対する積極的な姿勢を重視しています。具体的には自ら主体的に行動し、周囲と協力しながら課題解決に取り組める人材を求めています。
急な欠員が出たときでも、柔軟な対応ができる体制が整っています。若手社員も増えつつあり、毎年3人ほどが産休を取得し、その後、職場に復帰しています。「来るもの拒まず、去る者追わず」というスタンスなので、入社してみて合わなければ別の環境に行くのも手だと思います。
未来のものづくりを支える仕事に興味のある方や、意見が飛び交う活気あふれる職場で働きたいという方をお待ちしています。
編集後記
市場拡大が見込まれる海外へ目を向け、国内のメーカーと協力しつつ、独自にも積極的に海外展開を進めてきた辻社長。特に六価クロムフリーのめっきメッキ加工技術は、環境意識が高まる現在において大きな関心を集めるだろう。高いめっき加工技術を有する株式会社太洋工作所は、これからも世界のものづくりの現場で活躍していくはずだ。
辻克之/1967年、大阪府生まれ。1989年に関西大学を卒業後、大日本スクリーン製造株式会社(現:株式会社SCREENホールディングス)に入社。1993年、株式会社太洋工作所に入社し、2008年に代表取締役社長に就任。