銅加工を専門とする株式会社ハタメタルワークスは、80年以上の歴史を誇る老舗企業である。創業当初は、メーカーから部品を仕入れて電鉄会社に納品する仲介(ブローカー)業務が主力事業だったが、現在は銅加工に特化し、産業用電池や配電盤などの電気部品を幅広い業界へ供給している。
代表取締役の畑敬三氏は、商社勤務で培った視点を活かし、製造業でありながらサービス業の姿勢を取り入れることで、顧客満足の向上を図っている。この戦略により、同社は業績をV字回復させた。今回は、畑社長が家業を継ぐに至った背景、業績回復の要因、そして今後の展望についてうかがった。
商社経験がもたらした経営改革への決断力
ーー社長に就任するまでの経緯を教えてください。
畑敬三:
大学では商学部に在籍し、卒業後は蝶理株式会社で商社マンとして働いていました。仕事にも人間関係にもとても恵まれ、働きやすい職場だったのですが、父が病気になったことをきっかけに7年で退社し、家業を継ぐ決断をしたのです。
当時、弊社は大口取引先からの依頼が減少し、会社を立て直すことが急務でした。また、父はほとんど現場に出られなかったため、私は入社直後から経営に深く携わることになりました。
ーー会社を立て直すために、どのような取り組みをしましたか。
畑敬三:
当時、売上の9割を大手企業からの受注に依存していましたが、その企業の合併により受注が激減して、売り上げが半減しました。さまざまな方から話を聞く中で、希望されるお客様が多かったことから、小ロットかつ短納期に注力することを決意したのです。この決断は、商社時代に上司から教わった「情報の重要性」を意識していたおかげでした。お客様の要望に柔軟に対応することで、少しずつ取引先を増やすことができました。
ーー小ロット受注への転換後、どのような変化がありましたか。
畑敬三:
小ロットの受注が増えると、社員の負担が大きくなり残業が増加しました。解決策が見つからないまま、リーマン・ショックに突入しますが、業務量が減少したことで、今度は定時までゆっくり作業しても仕事が回るようになりました。
しかし、決して好ましい状況とはいえないため、仕事が終われば定時より早く帰れる「早上がり制度」を提案したところ、皆が驚くほど効率的に働くようになったのです。現在はまた仕事量が増えて毎日「早上がり」することは難しい状況ですが、定時より少し早く帰れる程度に業務の効率化を図っていきたいと考えています。
「小ロット・短納期」とサービス精神で顧客に応える
ーー改めて業務内容を教えてください。
畑敬三:
弊社はもともと、電鉄会社とメーカーの仲介を行う部品販売のブローカーとして、祖父が創業しました。父の代で電池部品などの製造も手掛けるようになり、現在は、事業の約7割を占める配電盤など、電気関係の部品の製造に注力しています。
今後も電気関係の部品の事業を増やしていきたいと考えていますが、電鉄会社向けの部品も再び増えはじめて、取引先が広がってきています。
ーー他社にはない貴社の強みを聞かせてください。
畑敬三:
弊社は銅の加工に特化したメーカーで、幅広い加工に対応可能です。特に、設計の終盤で発注されることが多い銅部品の短納期対応で依頼されるケースが多いのですが、そのような場合でも、迅速に対応できる点が弊社の強みです。
私自身が商社出身という背景もあり、製造業としての役割に加えて、サービス面でもお客様への満足度向上に力を入れています。お客様からもその姿勢を高く評価していただいています。納品時のお客様との対話や、仕入先や外注先への感謝を伝える「ありがとう」の言葉を大切にするなど、些細なことですが、それらが信頼関係の礎になっています。
物の販売だけに頼ると価格競争になりがちですが、私たちはそれよりも、どれだけお客様が喜んでいただけるかに比重を置き、お客様に愛される会社を目指しています。
目標に縛られない柔らかな挑戦姿勢
ーーサービス面での意識改革以外に、取り組んでいることはありますか?
畑敬三:
早上がり制度の導入は弊社にとって大きな改革でした。それが業務の効率化を促し、短納期体制に直結しています。納期の短縮を求めるお客様は実に多くいらっしゃるので、この強みを活かし、今後はさらに多くのお客様のニーズに応えたいと考えています。
また、弊社と関わる方を増やしていきたいとも考えています。入社当時は、取引先の数を100社まで増やすことを目指していましたが、今では300社を超える企業と取引しています。今後も、案件の大小にかかわらず、銅に興味がある方との接点を増やしていきたいですね。
たとえば、最近では小学生の女の子から「実験で10円玉をきれいにしたいのですが、どうすればいいですか?」というメールが届きました。丁寧に返信しましたが、こうした小さな接点も大切にしながら、銅に関する情報を求めている方が弊社のホームページにたどり着けるように工夫を続けています。
ーー今後、特に力を入れていきたいことは何ですか。
畑敬三:
現時点では銅に特化し、新しい技術や知識を取り入れることで、できることを増やしたいと考えています。しかし、具体的な目標を立てすぎると逆に縛られてしまうため、あまりしっかりと目標を決めつけないようにしています。今後、銅以外でもお客様に喜んでいただける機会があれば、挑戦していく可能性もあります。
さらに新しい販路も開拓していきたいと考えています。弊社の製品は、お客様から一度ご依頼をいただくと、その後も継続してお取引させていただくケースが多く、製品力はどこにも負けないと自負しています。
現在お客様の約9割は中小企業ですが、売上ベースでは3〜4割が大手企業です。今後も中小企業を中心に、大手企業も含めてお客様を増やしていきたいと考えています。そのためにも、設備の更新や導入にも積極的に取り組んでいきます。
編集後記
目標はあえて決めないと話す畑社長だが、社員を最優先に考えていることは、その言葉から明確に伝わってきた。残業が多い社員のために「早上がり制度」を導入し、新社屋を建てる際には社員が「ここで働きたい」と感じられるようなデザインや設備にこだわった。また、小学生からの質問にも丁寧に対応する姿勢に、どんなに小さな仕事でも、決して軽んじないという考えがうかがえる。
そんな畑社長の姿勢が浸透している株式会社ハタメタルワークスだからこそ、取引先との強固な信頼関係を築き上げているのだ。日本の銅製品を支える第一人者として今後も成長し続けるだろう。
畑敬三/1975年生まれ。1998年、関西学院大学を卒業後、1998年に蝶理株式会社に入社。2005年、家業である畑鉄工株式会社に入社。2015年、代表取締役に就任。2017年、株式会社ケーブレイジングを設立。2022年に新社屋を建設。本社移転後、同年、畑鉄工株式会社と株式会社ケーブレイジングを合併し、株式会社ハタメタルワークスを設立。