※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

楽天、サイバーエージェント、電通という、それぞれ異なる文化を持つ大手企業3社を20代で経験し、株式会社Link-U(現・Link-Uグループ株式会社)を立ち上げた代表取締役グループCEOの松原裕樹氏。マンガアプリの裏側を支える、地味ながら難度の高いサーバーサイド技術を武器に、現在は膨大な読者データを扱うまでに成長を遂げた。「世界最大級のマンガプラットフォーム」への挑戦を掲げ、グローバル市場へ打って出る同社。なぜ、1つのプロダクトに依存しない戦略を選んだのか。AIによる大転換期を迎える今、生成AIの台頭をどう捉えているのか。独自の経営信念と次なる挑戦についてうかがった。

大手で学んだ「絶妙なタイミング」と起業の苦難

ーーまずは、起業に至った経緯を教えてください。

松原裕樹:
大学生の頃から起業への思いはありましたが、まずは社会人としての経験が必要だと感じ、楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)、株式会社サイバーエージェント、株式会社電通という大手3社に入社しました。そこで多くのことを学びましたが、特にサイバーエージェントでの経験から学んだ「組織の作り方」と「新規事業に入るタイミング」は、今の弊社の事業展開においても非常に役立っています。

ーー大手での経験が、今の経営判断の軸になっていますか。

松原裕樹:
当時はとにかく早く市場に参入すればいいと思っていましたが、早すぎる起業は撤退を余儀なくされる様子を目の当たりにしました。闇雲に起業するのではなく、マーケットが十分に温まり、技術とユーザーのニーズが合致する「絶妙なタイミング」をしっかり見極めること。この「勝てる勝負へのこだわり」を強く意識するようになりました。

ーー起業後は順調だったのでしょうか。

松原裕樹:
私たちは外部からの出資を一切受けず、自分たちの手元資金だけで創業し、最初は苦労の連続でした。当時はまだ20代の若手集団であり、大手資本の後ろ盾もなければ、会社としての取引実績も皆無。そうした厳しい環境の中でも、私を信じてついてきてくれたのが、東大出身というキャリアを持つ優秀なエンジニアたちです。彼らは大手企業からの内定を辞退し、手取り20万円という条件で、終わりが見えない不安とともに戦ってくれたのです。

「絶対に成長させるしかない」と腹をくくり事業を続ける中、創業から2年の苦節を経て、「マンガアプリ」のレベニューシェアモデルで成果を上げたことが、弊社にとって成功へのターニングポイントとなりました。

独自の生存戦略 地味で難度の高い「サーバーサイド」

ーーアプリ開発に向かう中、なぜインフラ領域を選んだのですか。

松原裕樹:
会社として1つのプロダクトに依存するリスクを回避したかったのが大きな理由です。自社アプリのみに頼るのではなく、インフラ(プラットフォーム)を押さえることで、顧客の形に合わせて柔軟に稼ぐB2B2C(※1)のモデルを確立しました。また、創業メンバーであるエンジニアたちの専門分野がサーバーやセキュリティだったこともあり、サーバーコストの最適化を事業の核に据えることができました。

(※1)B2B2C(Business to Business to Consumer):企業が別の企業を通じて、最終消費者に商品やサービスを提供するビジネスモデル。

ーー競合他社と比較した際の技術的な強みは何でしょうか。

松原裕樹:
当時普及し始めたAWS(※2)を利用するだけでなく、その先を行くコスト最適化を実現できたことです。私たちは物理サーバーの知見と独自の研究に基づいた「収益化につながる技術」を提供することで、パートナー企業様が固定費のリスクなく事業を立ち上げられる強固なインフラ基盤を築き上げました。

(※2)AWS(Amazon Web Services):Amazonが提供する世界シェアNo.1のクラウドコンピューティングサービス。

圧倒的な現場力 開発×運営のワンストップ

ーー貴社のサービスが多くのユーザーに支持される理由は何だとお考えですか。

松原裕樹:
「開発と運営のワンストップ体制」という圧倒的な現場力です。一般的なIT業界では開発と運営が分かれていることが多いですが、弊社は両方を一手に担っています。開発と運営が一体だからこそ、ユーザーの反応を見て、必要であれば翌日にはアップデートで対応するような、即応性の高い高速アップデート体制が可能です。

ーープロダクトづくりにおいて大切にしていることを教えてください。

松原裕樹:
「企業側の事情だけでなく、ユーザー視点を重視すること」です。私たちが10年蓄積してきた2000万人の読者データから導き出し、常に「心地よいユーザー体験」を提供し続けること。それが長期的な信頼関係につながると信じています。

世界一の「IP配信インフラ」とAIへの覚悟

ーー今後のグローバル展開について、どのようなビジョンを描いていますか。

松原裕樹:
「世界最大級のマンガプラットフォーム」への挑戦として、「日本マンガのグローバル配信といえば、Link-U」と言われる確固たるポジションを確立したいです。現在は世界最大級のアニメプラットフォームを持つクランチロール社や集英社との提携を軸に、海外市場に向けたサブスクリプションサービスを展開しており、まずは3年以内にグローバルでの閲覧数1位を目指します。

(※3)クランチロール:200以上の国と地域でアニメを専門に配信する動画配信サービス会社。

ーー最後に、急速に進化するAIに対してはどう向き合っていますか。

松原裕樹:
私たちは今、中長期的な視点ですべてが激変すると確信しており、自社の常識を塗り替えるタイミングだと捉えています。特にクリエイティブ領域におけるAIの影響は大きく、開発から始まった弊社にとっては付加価値を失いかねない脅威です。しかし、大きなチャンスでもあります。そのため、AIに9割、もしくはすべての作業を任せる前提でどう付加価値を生み出すか。正解のない領域で共に未来を描ける方と、この変革期を楽しんでいきたいです。

編集後記

大手3社での経験から「絶妙なタイミング」を見極める嗅覚を養い、あえて地味で難度の高いインフラ領域で独自の生存戦略を築き上げた松原氏。創業2年の苦節を経て確立したB2B2Cモデルや、開発と運営が一体となった圧倒的な現場力は、徹底した合理性とユーザー視点を重視する姿勢の賜物である。10年蓄積された読者データを武器に、世界一の「IPインフラ」へと邁進し、コンテンツのバリューチェーン全体を牽引しようとする同社。AIによる全置換を前提に、さらなる飛躍を遂げるであろう同社の躍進から、今後も目が離せない。

松原裕樹/楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)、株式会社サイバーエージェント及び株式会社電通での経験を経て、2013年8月に株式会社Link-Uを創業し、2014年12月に代表取締役社長に就任。「電子書籍」や「動画配信」の分野において実績と強みを持つ。