※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

鍋料理に欠かせない食材として、長年日本の食卓で親しまれてきた「マロニーちゃん」。その製造・販売を手がけるマロニー株式会社は、2017年にはハウス食品グループとなり、更なる事業拡大を進めている。75年の歴史を礎に、今まさに大きな変革期を迎えようとしている同社を率いるのは、ハウス食品株式会社で新規チャネル開拓に一貫して携わり、実績を積み重ねてきた経験を持つ、代表取締役社長の井上寿夫氏だ。これまで築き上げてきたブランドイメージを大切にしながらも、“麺・主食”としての新たな可能性を追求し、国内外の市場へと挑む同社の現在地と未来像について、井上氏の情熱的な言葉から紐解いていく。

ハウス食品時代に培われた「0→1」の面白さ

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

井上寿夫:
「自分の好きなことでないと長続きしない」という思いから食品業界を志し、ハウス食品工業(当時)に入社しました。入社後は量販店や卸店の担当を経て、新規チャネル開発に従事。「ウコンの力」発売時に居酒屋業界へ展開するなど、ゼロベースで市場を開拓する経験を積みました。スーパーだけでなく、新規チャネルや業務用など幅広いジャンルを担当できたことは、私にとって大きな財産となっています。

ーー新規チャネルの開拓で、特に印象に残っているエピソードについて教えてください。

井上寿夫:
ハウス食品の主戦場は一般のお客様が買い物される量販店ですが、それ以外のゼロベースのところから市場をつくることには、非常にやりがいを感じました。1を2にするのではなく、0から1を生み出す仕事はとても面白かったです。実績が出た時点が新たなスタートになるので、前年比に追われることもなく楽しみながら仕事ができて、自分の肌に合っていたと感じています。

また、こうした現場での挑戦を通じて身に染みて学んだのは、お客様と信頼関係を構築し続けることの重要性です。ある程度、関係ができてくると、どうしても心のどこかに緩みや甘えが出てしまう瞬間があります。「これくらいは待ってくれるだろう」と油断した隙に、競合他社に売り場を逆転されてしまったこともありました。一度築いた信頼関係を維持するためには、土台ができた後でも決して手を抜いてはいけない。その経験があるからこそ、常に真摯に向き合うことの大切さを今も忘れないようにしています。

「麺・主食」としての可能性を信じて 若い世代へつなぐ新たな一手

ーー支店長などを経て社長就任のお話があった際は、率直にどう思われましたか。

井上寿夫:
会社のトップはなかなか経験できるものではありませんし、マロニーにはまだまだ可能性があると感じていました。ですから、不安というよりは“これから何ができるだろうか”というワクワクする気持ちのほうが大きかったです。その可能性というのは、「マロニーちゃん」が「麺として主食になりうる」という点です。単なる鍋の具材にとどまらず、麺として食事の中心になれるポテンシャルを秘めている。そこが一番の可能性だと考えています。

ーー社長就任後に創業75周年を迎えられましたが、どのような取り組みをされたのでしょうか。

井上寿夫:
「マロニーちゃん」発売60年の際に社員から集めたアイデアのストックもあり、創業75周年は準備期間をしっかり設けて臨みました。具体的には、大きく3つの施策を行いました。

まず1つ目は、約2年半ぶりのチルド新商品となる「平べったい生マロニーちゃん」の発売です。「味がさらによく染みるマロニーちゃんが食べたい」というお客様の声から生まれた商品で、平打ち麺ならではのスープとの絡みの良さと、もちもちとした食感が特長です。これまでの鍋材料という枠を超え、“主食として楽しめる麺”という新たな価値を提案する自信作です。

2つ目は、75周年にちなんで「75gの純金のマロニーちゃん」をプレゼントする企画です。約150万円相当(キャンペーン実施時)というインパクトもあり、SNSを中心に非常に大きな反響をいただきました。そして3つ目が、地元・吹田市にある千里金蘭大学との産学連携プロジェクト「マロワンレシピコンテスト」の開催です。学生ならではの柔軟な視点を取り入れたメニュー開発を通じ、若い世代へもブランドの魅力を発信しました。

ーー大学とのレシピコンテストでは、何か新しい発見はありましたか。

井上寿夫:
私自身は、麺としての可能性を広げるレシピを期待していたのですが、やはり学生の皆さんならではの視点で、スイーツ系のアイデアが非常に多かったのが新鮮でした。「マロニーちゃん」を大福や団子のようにしたり、焼いて食感を楽しんだりするレシピがあり、驚きました。また、「マロニーちゃん」はアレルギー物質(特定原材料とそれに準ずるもの)を含む原料を使用していないため、災害時の非常食としての可能性に気づかされたのも大きな発見でした。

鍋の具材から世界の食卓へ 広がる「マロニーちゃん」の活躍の場

ーー麺としての可能性を広げるため、具体的にどのような展開をされているのでしょうか。

井上寿夫:
先ほど挙げた新商品の「平べったい生マロニーちゃん」は、昨今のブームでもある麻辣湯(マーラータン)などに入れて、麺として使っていただくことを強く意識して開発しました。実際に、ファミリーレストランのデニーズで、麺をドライ商品の「マロニーちゃん」と中華麺から選べる「麻辣湯麺(マーラータンメン)」がメニューとして採用されるなど、着実に実績を積み上げています。鍋の具材というこれまでの使い方から一歩踏み出し、麺としての魅力をアピールしていきたいです。

ーー外食産業など、業務用ルートの開拓にはどのように取り組んでいますか。

井上寿夫:
これまではしゃぶしゃぶやお鍋といった業態が中心でしたが、デニーズのように、新たな接点の開拓に営業も尽力してくれています。一般的に外食業界では、使用している食材の固有名称まで明記されるケースは多くありません。しかし、同店ではメニューに「マロニー」とはっきりと名前を出していただいています。

これは、多くのお客様に「マロニー」というブランドを認知していただいているからこそ、名前を出すことが安心感や価値につながると判断していただけた結果だと考えており、大変ありがたく感じています。業務用ルートには、まだまだ開拓の余地があると考えています。

ーー海外展開については、どのような展望をお持ちでしょうか。

井上寿夫:
現在、北米を中心にヨーロッパやアジアなど世界18か国に輸出しています。今後はタイやベトナムなど、麺文化が根付いている地域を中心に、さらに展開を強化していきたいです。「マロニーちゃん」はグルテンフリーで、茹でたパスタと比べてカロリーも約半分です。カロリーが低いという特長は、健康志向が高まる海外市場でも受け入れられる可能性があると考えています。

社員が誇れる「よい会社」へ 井上氏が描く組織の未来像

ーー会社を率いる上で、どのような組織づくりを目指していますか。

井上寿夫:
一般的にイメージされるピラミッド型の組織を横に倒したような、フラットでコミュニケーションを取りやすい組織にしたいと考えています。役職に関係なく、それぞれの立場で意見を交わし、アイデアがスムーズに行き来するような組織が理想です。

ーー経営において、最も大切にされていることは何でしょうか。

井上寿夫:
「マロニーちゃん」が選ばれる根幹ともなる、安全・安心という“品質”です。これを失うと、ブランド価値や今までの信頼は一瞬にしてなくなってしまいます。そのため、ここは会社として最も重要なことだと考えています。各工場を回り、私の言葉で直接、品質への思いを伝える機会も設けています。

ーーこれからマロニーを、どのような会社にしていきたいですか。

井上寿夫:
抽象的な表現かもしれませんが、社員が誇りを持って働ける“よい会社”にしたい。これに尽きます。社会に対する責任はもちろん、社員やその家族に対する責任、地域社会への貢献も果たしていきたいです。待遇も大切ですが、それ以上に、社員一人ひとりが誇りを持って働けるような会社にすることが、私の目指す姿です。

編集後記

“お鍋の具材”という誰もが抱くイメージを心地よく裏切り、“麺・主食”としての新たな地平を切り拓こうとするマロニー株式会社。その挑戦を力強く牽引するのが、ハウス食品時代に“0→1”の面白さを体得した井上氏だ。新市場の開拓を楽しむ情熱と、社員が誇れる“よい会社”を目指す温かい視座。その両輪が、75年の歴史を持つブランドを未来へと加速させている。日本の食卓から世界の食卓へ、マロニーの挑戦はまだ始まったばかりである。

井上寿夫/1965年、広島県出身。1989年ハウス食品工業株式会社(現・ハウス食品株式会社)に入社。営業一筋で実績を積み、東京支社関東支店長、大阪支店長、東京支社長、取締役営業本部長などを歴任。2024年4月、マロニー株式会社の代表取締役社長に就任。