
リクルートグループでのデベロッパー経験などを経て、介護業界に参入した株式会社アズパートナーズ、代表取締役社長兼CEOの植村健志氏。2024年4月に東京証券取引所スタンダード市場への上場を果たし、今なお成長を続けている。同社は、不動産開発のノウハウとDXを駆使し、経験や感覚に頼りがちだった従来の介護業界のあり方を、エビデンスに基づいた「サービス業」へと変革している。植村氏に、ロジカルな経営基盤と「人」を大切にする企業文化、そして業界の枠を超える未来への展望をうかがった。
介護は「福祉」ではなく「サービス業」 不動産の知見が支えるロジカルな経営基盤
ーー貴社を起業された背景を教えていただけますか。
植村健志:
大学卒業後、リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)などのデベロッパーで約10年間、街づくりや都市開発の仕事に携わっていました。非常にやりがいのある仕事でしたが、日本の少子高齢化が進む中で「これから社会で本当に必要とされるのは、高齢者の住まいではないか」と考えるようになりました。当時の高齢者施設は、病院のような施設か極端に高額なものしかなく、多様な価値観に応える住まいをつくりたかったのが起業のきっかけです。
ーー不動産業界でのご経験は、今の事業にどう活きていますか。
植村健志:
弊社の事業構造において、原価の約4割を家賃、約4割を人件費が占めています。つまり、家賃という大きな固定費をいかにコントロールできるかが経営の鍵となります。そこで活きているのが、前職のデベロッパー時代に培った、よい土地情報を集め、適正な建築コストで施設をつくり、適正な家賃設定を実現する「ハードをつくる力」です。
また、施設の空間デザインや効率的なスタッフの動線設計にも徹底してこだわっています。たとえば、「3階建てのワンフロアに33室前後を配置するのが最も効率がよい」といったように、現場で働くスタッフがいかに動きやすいかを計算しています。こうした不動産開発の知見で生み出した利益を、スタッフのIT設備や給与、高品質な施設デザインへと投資する好循環をつくっているのが弊社の強みです。
ーーどのような方針で事業を展開されていますか。
植村健志:
私たちは介護を「福祉」ではなく「サービス業」だと捉えています。自分たちのやり方を押し付けるのではなく、お客様のニーズを聞いて応えることが基本です。そのため、感情論や「きつい」という根性論ではなく、エビデンスに基づいたケアを重視しています。「最近元気がない」といった曖昧な報告ではなく、「睡眠時間が何時間で、お薬はこれくらい減っています」とデータを用いてご家族に説明することで深い安心感と納得感を提供するとともに、システムを活用して効率化し、スマートに働くスタイルを確立しています。
DXで生み出された時間で入居者の「夢」を叶える

ーー貴社ではどのようにDXを推進されているのでしょうか。
植村健志:
弊社では、スマートフォン1台で見守り・ナースコール・介護記録のすべてを完結させる、業界初の介護業務効率化システム「EGAO link®」というシステムなどを導入しています。このシステムによって、従来はバラバラだった業務や記録作業が大幅に集約されました。その結果、業務負担の軽減とともに時間のゆとりが生まれ、たとえば夜勤スタッフが2時間の休憩をしっかりと取れる体制を全ホームで確立できています。これまで業界の課題だった不安定な休憩時間を仕組みで解決したことは、夜間の働き方における大きな変革だと自負しています。
ーーシステム化によって創出された時間は、何に活用しているのですか。
植村健志:
入居者様お一人おひとりと向き合う「個別ケア」の時間に充てています。弊社には「夢を叶えるプロジェクト」という取り組みがあり、集団でのアクティビティだけでなく、お客様個人の小さな夢を叶えるサポートをしています。たとえば「新婚旅行で行った熱海にもう一度行きたい」「もう一度、孫と一緒にお風呂に入りたい」といったご要望です。
これまでは日々の業務に追われ、やりたくてもできなかったこうした本質的なケアが、テクノロジーによる効率化で実現可能になりました。スタッフが本来やりたかった「入居者様の人生に寄り添うケア」に専念できることは、介護という仕事の創造的な楽しさを再発見することにもつながっています。結果として、入居者様やご家族からも「ここまでやってくれるのか」と大変お喜びいただいています。
ーー現場で働くスタッフの働き方も変わっていくのでしょうか。
植村健志:
「大変だ」と言われる仕事を、システムを使ってスマートなものへとアップデートしていくプロセスは、非常に創造的な挑戦です。私はスタッフに対して「10人分の仕事を8人でできれば給料は上がる」と明言しています。ただ「給料が上がらない」と嘆くのではなく、現場の若いスタッフたちがAIやモバイルを活用して「業界の当たり前」を疑い、生産性を上げる方法を考える。このように、「現場の負担を仕組みで解決する思考」を推奨する風土を大切にし、誰もがやりがいを持って働けるクリエイティブな現場を目指しています。
業界を変える「社会装置」へ 挑戦を止めない企業文化

ーー貴社の最大の強みは何だとお考えですか。
植村健志:
他社に比べて一番強いのは企業風土だと思います。弊社には「人を大切にする企業風土」と「新しいことにチャレンジする企業風土」が根付いています。私はこれまでの経験から、「働くスタッフこそが会社のベースである」という人材の大切さを学びました。どうすればスタッフが楽しく働けるか、成長できるかを考え抜くことが経営の根底にあります。
ーー上場され、従業員数も増える中で、その風土をどう維持しているのですか。
植村健志:
一番はコミュニケーションです。上場企業ながら、私は時間が許す限り各事業所を回ってスタッフと話をしたり、飲み会や社内イベント、サークル活動に自ら参加したりしています。経営と現場が一緒に、「どうしたら楽しく仕事ができるか」を本音で語り合う。私が発信したビジョンが現場の末端までブレずに直接届くよう、対話する機会を何よりも大切にしています。
ーー最後に、今後のビジョンをお話いただけますか。
植村健志:
私たちは介護業界を変えることを目指しています。これは私だけでなく、現場の若いスタッフを含めた全社員が共通して持っている強い意識です。具体的には、働くスタッフが楽しめる会社にするだけでなく、国の制度や考え方への働きかけも含めて、業界の変革をトップで走る企業でありたいと考えています。
そして長期的には、介護保険制度の枠組みの中で事業を継続するだけでなく、DXコンサルや新ビジネスを展開し、第三、第四の新しい事業を創出できる企業体でありたいですね。社会の中で存在価値を持ち、業界そのものを変える「社会装置」としての成長性を高めながら、これからも新しい歴史をつくっていきます。
編集後記
「介護は福祉ではなくサービス業」。植村氏のこの言葉には、同社が急成長を遂げてきた理由が凝縮されていた。不動産開発の知見を活かした緻密な収益モデルと、DXによる徹底した業務効率化。一見ドライにも思える合理性は、すべて「スタッフがいきいきと働き、入居者の夢を叶える」という温かい目的のために機能している。上場企業となっても植村氏自らが現場に足を運び、若手の声に耳を傾けるその姿勢こそが、変革の原動力なのだろう。株式会社アズパートナーズが次にどのような常識を覆すのか、その挑戦から目が離せない。

植村健志/1989年早稲田大学卒業後、株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)に入社。共同住宅開発事業に従事し、用地取得、企画、設計、販売業務を一貫して担当。1999年、株式会社宝工務店(現・MIRARTHホールディングス株式会社)に入社し、取締役、常務取締役を歴任。2004年、株式会社アズパートナーズを設立し、代表取締役に就任。一般社団法人全国介護付きホーム協会副代表理事。