
特殊潤滑剤の開発・販売をメイン事業とし、カメラやスマートフォンなど私たちの身近な製品を陰から支える株式会社ハーベス。近年は主力事業にとどまらず、化粧品や天然水など多角的な事業展開とM&Aを積極的に推進している。創業から現在に至るまで、代表取締役の前田知憲氏が貫いてきたのは「謙虚でいる」「当たり前を徹底する」という確固たる信念と「社員第一主義」だ。オフィス1階の空きスペースをカフェのような食堂へと刷新し、食事を無料提供するなど、社員の健康と活躍を何より大切にする姿勢を体現している。今回、前田氏に同社の歩みと未来に向けたビジョンをうかがった。
前職の反面教師とすべての業務を経験した下積み時代
ーーまずは起業される前のキャリアについて教えてください。
前田知憲:
最初は秋葉原にある潤滑剤の会社に5年ほど勤めていました。そこでの経験が私の原点になっています。当時の環境は、経営者がすべての意思決定を担う非常に強力なリーダーシップの下にありました。その様子を間近で見続ける中で、私の中に「自分であれば、どのような組織をつくるべきか」という自律心が芽生え、独立への思いを強くするきっかけとなったのです。
ーーその環境で学ばれたことは何ですか。
前田知憲:
小さな会社だったため、営業だけでなく、潤滑剤の評価・試験から資料作成まで、ありとあらゆる業務を経験できました。当時は社員の健康を考えて、食事の準備まで私が担当していたほどです。そうして、身の回りのことから実務まで一通り学べたことは、起業後の大きな財産になりました。
ーーその後、独立された当時、どんなことに苦労されましたか。
前田知憲:
独立を考え始めた際、前職で担当していた取引先の方が、「うちの事務所に入って一緒にやらないか」と声をかけてくださったんです。そうして池袋に事務所を構えたのですが、「家賃を半分出すから」と支援していただいたり、お仕事を任せていただいたりして、本当に人に恵まれました。独立から最初の10年ほどは、自由なスタイルで一人ですべてを切り盛りしていました。そのため売上高も1億円ほどで推移していましたが、次第に大手企業とのお取引が増え、一人では対応しきれないほどの業務量になっていきました。そこで人を雇い、組織として動く体制を整えたことで、業績も大きく伸びていったのです。
強みは圧倒的なチーム力とスピード感 そしてM&Aを活用した多角化

ーー現在、貴社の事業の強みはどこにあるとお考えですか。
前田知憲:
売上高の7割から8割を占める潤滑剤事業において、一番の強みは「チーム力」と「スピード感」です。一般的なメーカーでは、研究開発部門と営業部門が別の場所にあることが多いですが、弊社は同じビル内に研究開発と営業のフロアを設けています。そのため、お客様への提案や要望に対して、直接研究員とコミュニケーションを取りながらすぐに対応できるのです。
ーー近年は事業の多角化も進められているそうですが、その理由はなんでしょうか。
前田知憲:
多角化の軸としているのは、消耗品でリピート性があるものです。潤滑剤は機械が動く限り必要とされる消耗品ですが、そうした手堅いビジネスモデルを他の領域にも応用しようと考えました。化粧品事業は最初、ネット販売などで苦戦した時期もありましたが、M&Aを通じて製造会社をグループに迎え入れたことで、一気に軌道に乗りました。今後も自社の強みを活かせる領域であれば、M&Aも含めて積極的に挑戦していくつもりです。
「社員第一主義」を具現化する食事の無料提供と環境づくり
ーー採用や組織づくりにおいて現在取り組んでいることを教えていただけますか。
前田知憲:
現在は新卒採用に非常に力を入れています。初任給の引き上げや奨学金返済のサポートなど、中小企業としてはトップクラスの待遇を用意している自負があります。また、「社員第一主義」を掲げ、本社1階の空きスペースを改装してカフェのような社員食堂をつくりました。ここでは社員に健康的な食事を無料で提供しています。社員が心身ともに健康で、ワクワクしながら仕事に取り組める環境があってこそ、結果的にお客様が満足するよい製品が生まれると信じているからです。
ーーどのような人材が伸びるとお考えでしょうか。
前田知憲:
特別なスキルよりも、「素直さ」と「当事者意識」を持った方です。私が経営においてずっと大事にしている考え方が2つあります。1つは、周りがあって自分が成り立っていることを忘れず、威張らないこと。もう1つは、当たり前のことを当たり前にやることです。こうした謙虚な姿勢を持ち、会社の課題を自分事として捉えられる人と一緒に働きたいですね。
ーー最後に近い将来の展望をお話いただけますか。
前田知憲:
幹部には「売上高200億円を目指そう」と伝えています。しかし、数字以上に大切にしたいのは、品質を落とさずクレームのない会社であり続けることです。そして何より、社員みんながワクワクと成長し、その頑張りが給与としてしっかり還元される会社にしたい。ゆくゆくは「埼玉県内で一番就職したい」と思われるような、魅力的あふれる日本一の中小企業をつくることが私の目標です。
編集後記
インタビューを通じて最も印象的だったのは、前田氏の飾らない謙虚な人柄だ。トラブルが起きても「なぜダメだったか」と責めるのではなく、「どうすれば解決できるか」を常に考える姿勢が、厚い信頼を集める理由なのだろう。前職での反面教師的な経験を糧に、社員食堂での食事の無料提供など、「社員第一主義」を体現する同社。盤石な事業基盤と多角化への挑戦を両輪に、埼玉から日本一を目指す株式会社ハーベスの未来が非常に楽しみだ。

前田知憲/1958年生まれ。1988年に株式会社ハーベスを創業し、経営者として事業基盤の確立と組織拡大を主導。1997年には新工場を竣工し、2000年代以降は天然水事業や化粧品事業を立ち上げるなど事業領域を拡大。さらに韓国・米国と海外展開を進めるとともに、M&Aを積極的に活用し複数の企業をグループに迎え入れながら企業体としての成長を牽引してきた。技術開発と国際展開を柱に、持続的成長を実現する経営者である。