
170ヶ国以上の国々を舞台に、知的好奇心を刺激する旅を提供し続けてきた株式会社ユーラシア旅行社。同社はツアーの企画から添乗に至るまで一貫して自社で行うだけでなく、パンフレット制作や上場準備までも外部に丸投げしないという徹底した「自社完結」を貫いている。ベンチャー期だった同社に新卒で入社し、世界中を飛び回る添乗員からキャリアをスタートさせ、現在は取締役社長COOを務める山田則子氏。現場で培った「諦めずに真正面から向き合う」という仕事の信念や、同社が何よりも重んじる「人づくり、組織づくり」の戦略、そしてデジタルを活用した未来のビジョンについてうかがった。
パンフレット制作から上場まで外部に丸投げしない「自社完結」の姿勢
ーーまずは、貴社の事業の独自性について教えてください。
山田則子:
弊社が提供しているのは、単なる旅行ではなく、お客様の知的好奇心を満たし、心の豊かさにつながるような旅です。そのため、ツアーの企画から仕入れ、販売、そしてファイナルアンカーである添乗に至るまで、すべて自社で一貫して行っています。
私たちが他社と違うのは、ツアーづくりだけでなく、宣伝のためのパンフレット制作や、過去には株式上場の準備に至るまで、外部に丸投げすることなく自分たちで完遂してきた点です。上場を目指した当時、専門家からは多額の費用と外部の力が必要だと言われましたが、当時の社長(現会長)の「自分たちでやればいい」という一言で決まりました。事務方として夜遅くまで必死に調べ、自分たちの手で上場まで漕ぎ着けたのです。

ーーなぜ、そこまで自社で行うことにこだわるのでしょうか。
山田則子:
自分たちで責任を背負って取り組むことで、仕事の本質や難しさが初めて見えてくるからです。たとえばパンフレット一つにしても、丸投げして誰かに任せてしまうと、私たちが現場で感じた空気感や真の魅力という「価値」を共有することができません。
弊社の社員は全員が添乗員を経験し、現場の苦労やお客様が感動する瞬間を肌で知っています。この現場感覚をベースに、企画から広報まで自ら手がけるからこそ、全員が経営者意識を持った「プロデューサー」として動けるようになるのです。このように、単なる作業者ではなく、共通の価値観を持ったプロデューサーの集団として自走できる仕組みを構築すること。これこそが、他社との価格競争に陥らないための最大の差別化戦略だと考えています。
トラブルから逃げない「諦めずに真正面から向き合う」現場で培った信念
ーーご自身も新卒入社後、現場の添乗員として経験を積まれたのでしょうか。
山田則子:
入社当時は社員が20名ほどのベンチャー企業で、仕組みも何もない状態でした。新入社員であっても「とにかくやってこい」と現場に放り出されるような環境で、朝起きたときに「ん?ここはブラジルか…」と脳がフリーズするほど、年がら年中世界中を飛び回る濃密な毎日でした。
しかし、その経験が私の根幹を築いてくれました。旅の現場に立つ添乗員というのは、1年前から仲間たちが仕込み、集客し、全力で取り組んできたプロジェクトのアンカーです。単に旅の案内をするだけでなく、仲間の努力やお客様の期待のすべてを背負って現場に立つ。その重みを知るからこそ、どんなトラブルがあっても諦めずにやり遂げるプロ意識が磨かれたのだと感じています。
ーー世界中を飛び回る中で、大切にしてきた仕事への思いは何でしょうか。
山田則子:
「何があっても諦めず、真正面から向き合うこと」です。旅行業は自社でホテルや航空機などのハード面を保有しないため、基本的にコントロールできません。どんなに準備を整えたとしても、運送機関の遅延や運休、天候不良などから、現場では予期せぬトラブルが必ず起こりますが、そんな時、「言い訳」は通用しませんし、たとえ不可抗力であっても投げ出すこともできません。それゆえに、常に物事を斜めに見ず、何が問題の核心なのかを見極め、お客様や現地のスタッフと逃げずに真正面から向き合う。たとえ言葉や文化が異なる海外の現場であっても、心折れずに諦めなければ、必ず何らかの解決策は見つかります。
旅づくりよりも人づくり、組織づくり 人とデジタルの融合で最上の体験を

ーー社員にもその姿勢が根付く中、今後の組織強化で注力されることは何ですか。
山田則子:
「旅づくりよりも人づくり、組織づくり」です。これは弊社の根幹であり、人材こそが弊社の最大の財産です。だからこそ、採用と教育には非常に時間をかけています。たとえば、弊社では新卒採用において集団面接を行っていません。最初から1対1で、1時間以上かけて腹を割って話します。旅行業の華やかな部分だけでなく、現場での大変さや難しさも正直にお伝えし、それをタフに耐えていける人間性があるかを見極めます。価値観のすれ違いを防ぎ、一緒に会社をつくっていく気概のある人に来てほしいからです。
入社後は実践形式の研修を通じて、誰一人として置いてきぼりにしない教育を徹底しています。世の中には器用な人もいれば不器用な人もいますが、ご縁があったからには全員に一人前になってほしいと考えているからです。現場に出て、お客様の前で一生懸命走り回りながら自分自身の言葉で伝える経験が、人をプロフェッショナルへと育て上げるのです。
ーー最後に、貴社の今後のビジョンについてお話しいただけますか。
山田則子:
現在、中期経営計画「ビジョン2029」のなかで、「デジタルXリアルで最上の人生体験の提供」を掲げています。コロナ禍を経て、オンラインで何でも疑似体験できる便利な世の中になりましたが、だからこそ実際に踏み出して得るリアルな体験の価値は高まっています。弊社がこれまで蓄積してきたお客様のデータや世界中の情報に、AIやDXの力をかけ合わせることで、より深いニーズにお応えし、サービスの向上につなげられると考えています。
たとえば、添乗員が旅の記録をまとめてお客様にお送りするアナログなサービスが大変好評なのですが、こうした温かみのある体験も、テクノロジーの力でさらに進化させることができるはずです。社員という「人」の力とデジタルの力を融合させ、お客様の人生の気づきや豊かさにつながる最高の旅を、これからも提供し続けていきます。
編集後記
「何があっても諦めない」。山田氏の言葉には、数々の修羅場を現場で乗り越えてきた確かな説得力があった。パンフレット制作から上場準備に至るまで自社でやり遂げる組織力は、トップダウンではなく、社員一人ひとりが「プロデューサー」としての当事者意識を持っているからこそ成し得る業だろう。AIやDXといった最新技術を取り入れながらも、その根底にあるのは徹底した「人づくり」への投資である。リアルな体験の価値が問い直される今、同社がどのような「最上の体験」を世に送り出していくのか、その飛躍が楽しみだ。

山田則子/愛知県出身。1993年お茶の水女子大学文教育学部卒業後、株式会社ユーラシア旅行社に入社。総務課長、ユーラシアの旅事業副本部長、専務取締役兼事業本部長などを経て、2024年12月取締役社長COOに就任。