※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

鉄道インフラを陰で支え続けて70余年。株式会社富士電機製作所は、電車のモーターや電磁コイルの保守・再生を担うプロフェッショナル集団だ。2023年に代表取締役社長に就任した倉本達夫氏は、JR西日本で30年にわたり、車両メンテナンスの現場や組織マネジメントを経験してきたエキスパートである。コロナ禍の危機を経て導き出したのは、一本足打法からの脱却と、提案力を武器にした新たな価値創造だった。「第二創業期」を掲げ、伝統技術を軸に異業種開拓へ挑む同社の変革の歩みと、次世代を見据えた組織づくりについてうかがった。

30年の現場経験とコロナ禍が教えた「リスク分散」の重要性

ーーまずは、これまでの経歴について教えていただけますか。

倉本達夫:
私は、JR西日本で30年にわたり、近畿圏を中心とした車両メンテナンスや総合車両所での統括業務などに携わってきました。現場では、法令に基づいた確実な保守を実行することが大前提にあります。ただ、どれだけ注意を払っていても図らずも不具合は発生してしまうものです。そのため、お客様へのご迷惑をいかに最小化するか、予測しうるリスクに対して先手を打ち、PDCAを回し続けることを常に意識して組織をマネジメントしてきました。

その後、ちょうどコロナ禍が始まったタイミングで株式会社JR西日本テクノスへ取締役として移りました。当時は人の移動が制限され、新規の製造受注が完全にストップするという非常に厳しい状況でした。私はこの経験を通じて、単一の事業領域や特定の企業に依存することのリスクを痛感し、他の鉄道事業者様など外部市場を開拓して収益源を分散させることの重要性を強く学んだのです。

ーー社長就任後、組織運営で苦労されたことはありましたか。

倉本達夫:
弊社は長らくオーナー企業として歴史を刻んできましたが、数年前にJR西日本グループの資本が入りました。そのため、長年会社を支えてきた生え抜きの社員たちと、グループから赴任してきたメンバーとの間には、「何を大事にするか」という価値観や感覚の違いが少なからず存在していたように感じます。しかし、そこは現場の課題に対して一緒になって取り組み、常に対話を重ねることで、少しずつ認識のズレを解消し、一体感のある組織づくりを進めてきました。

保守から「提案型」へ 新規開拓と既存深耕の両輪

ーー貴社の主力事業について教えてください。

倉本達夫:
主に電車を駆動させるための「主電動機(モーター)」や、電流を整流する「リアクトル」といった装置の保守を行っています。車両から取り外された部品を一度バラバラに解体し、洗浄・点検した上で、再び組み上げていく工程です。特に私たちが強みとしているのが、心臓部である電磁コイルの巻き替えです。枠の中に導体をはめ込み、その間に絶縁物を挿入していくのですが、手作業であり、機械では代替できない非常に繊細な職人技が求められる領域です。単なる修理ではなく、新品に近い状態まで再生させる「リバースエンジニアリング」に近い技術力こそが、私たちの提供する付加価値だと自負しています。

ーー採用や人材育成、技術継承についてはいかがでしょうか。

倉本達夫:
採用に関しては、最初から即戦力である必要はありません。昨今の採用環境の厳しさもありますが、まずは「技能」をしっかりと身につけていただくことから始めます。

育成においては、現場でのOJT(実地訓練)を何よりも重視しています。未経験の方でも、まずは現場に入ってベテランから直接、手仕事の感覚や手順を徹底的に教え込むのです。この「技能」を習得した後に、理論に基づいた「技術的な知見」を積み上げていくという2段階のステップを意識しています。私たちの仕事は人命や法令に直結するインフラを支えるものですから、決められたルールを抜け漏れなく、誠実かつ確実に実行できる「人柄」を、何よりも大切にして技術をつないでいきたいと考えています。

ーー今後の事業展開について教えてください。

倉本達夫:
大きく2つの軸で動いています。

1つは新規市場への参入です。鉄道分野への依存リスクを軽減するため、弊社のモーター保守技術と親和性の高い領域、たとえば近隣の工場や、自治体が管理する下水道ポンプなどの公共設備における、小型モーターやポンプの保守領域へ、スモールスタートで参入を進めています。

もう1つは既存のお取引先様とのつながりも、より強固にしていきます。単に依頼された部品を修理する「待ち」の姿勢から脱却し、私たちが持つ鉄道事業者グループとしての知見を活かして、トータルコストの削減につながる提案を行いたいと考えています。モーターの個体差や使われ方による劣化の傾向を分析し、一歩踏み込んだ提案を行うことで、より高い付加価値を提供できると考えています。こうした取り組みが、持続可能な経営の実現につながると確信しています。

現場の力を最大化するためのDX推進と新技術への挑戦

ーー他にどんなことに取り組まれているのでしょうか。

倉本達夫:
社員が本来注力すべき業務に専念できるよう、DXには積極的に取り組んでいかなければならないと考えています。あまり時間をかける必要がない一般化された事務作業については、市販の経理システムなどを導入することで効率化を図る方針ですね。そこで生み出された時間を、営業活動でお客様と向き合う時間や、新たな仕組みを考えるための時間を充てていきたいとも思っています。

また、技術的な側面においても、新たな付加価値の創出を目指しています。これまでは目視などで劣化具合を判断していましたが、今後はモーターの電気的な劣化状態をしっかりと経過観察し、さらに深掘りして診断できるような新技術の開発に取り組む予定です。「現在の状態」と「将来的な不具合の発生時期」をデータに基づき予測できれば、予防保全の観点からより高度な提案が可能になります。こうした付加価値の提供こそが、私たちの新たな強みになると考えています。

ーー最後に、貴社が目指す今後のビジョンをお話いただけますか。

倉本達夫:
現在は、会社にとってまさに「第二創業期」への切り替えのタイミングだと捉えています。弊社は創業時から「私たちは、安全最優先に徹し、品質の向上と独自の固有技術により、お客様のニーズに応えるとともに、社会に貢献する日本屈指の企業を目指します」を経営理念に掲げています。その理念に立ち返り、社員一人ひとりが自分たちの仕事に誇りを持ち、切磋琢磨できる組織でありたいですね。

人口減少などで鉄道業界全体が縮小傾向にある中でも、弊社のコア技術であるモーター保守は社会インフラに不可欠です。既存のお客様との信頼関係をさらに深めつつ、同業他社やサプライヤー様とも協業できる部分はしっかりと手を結び、柔軟にリスクへ対応しながら新たな歴史を築いていきます。

編集後記

30年にわたり鉄道インフラの最前線で安全輸送を支え続けてきた倉本氏。その言葉からは、不測の事態に備える徹底した危機管理能力と、現場で働く社員への深い愛情がにじみ出ていた。コロナ禍での苦境をバネに、特定の事業に依存しない強靭な組織づくりへと舵を切る同社。手作業による泥臭い職人技と、最新の予防保全を見据えた提案力が見事に融合した時、この70余年の歴史を持つ老舗企業は、次なる飛躍のステージへと力強く進んでいくことだろう。

倉本達夫/1967年広島県生まれ。広島大学卒業後、1991年に西日本旅客鉄道株式会社へ入社。鉄道車両の保守部門に従事し、安全輸送を支える現場で技術・品質・組織運営の経験を積む。2020年に株式会社JR西日本テクノスの取締役に就任。コロナ禍の厳しい経営環境の中、外部市場で収益を獲得する難しさと重要性を学ぶ。2023年より株式会社富士電機製作所の代表取締役社長に就任。鉄道技術分野で培った経験を基に、事業発展と持続的な企業価値向上に取り組む。